努力
「エンドレスフレイム!」
「サンダーボルト!」
誰もいない放課後の道場で俺とシュウの声だけが響く。
出会ってからすでに1ヶ月、日々のカリキュラムも何とかこなしてひたすら魔法の練習をしていた。
もうすぐ力を試すことができる昇級試験がある。
そこで実力を示せばより高いランクへと上がることができる。
もちろん目標はSだが、まずは現実的に考えると俺はCランクを目指さなかればならない。
「もっと心で魔法を心に思い描くのじゃ。想いの強さはそのまま魔法の強さとなる」
「分かりました師匠! 絶対次の試験では上がってみせます!」
二人で叫び合っていてもしょうがないのでコーチとしてアリシアを呼んでいた。
元魔王だけあって魔法に関してはエキスパート。しかも意外とスパルタコーチだ。
そのアリシアとシュウはいいコンビだ。年齢はアリシアのが全然下だと思うけど何故かうまいこといっているようだ。
「サンダーボルト!」
シュウが再びアリシアのアドバイスを聞いて叫ぶ。
雷が的である人形に直撃する。その威力にって完全に破壊された。
「その感じを忘れるな!なのじゃ」
「はい!」
シュウはアリシアがコーチについてから非常に伸びた。
元々ずっと一人で練習していたということもあって優秀なコーチがついたらメキメキと頭角を現していった。アリシアに褒められる事も多い。
一方俺の方はと言うと。
「エンドレスフレイム!」
手からライターぐらいの炎が出てくる。もちろん人形などには届かない。
この1ヶ月でマッチの炎からライターの炎へと進歩した。
それだけである。シュウとは大違いだ。
「アルスはまだまだなのじゃ。もっと練習するのじゃ」
「はい、師匠……」
普通に自分の進歩のなさに嫌になる。情けなくて泣きそうだ。
「お疲れ様ですアルスさん! これどうぞ」
「ありがとうエリー」
俺はエリーからタオルと飲み物を受け取った。
エリーは俺達のマネージャーみたいな事をしてくれている。
ジャージ姿がよく似合うマネージャーだ。
こういう青春を送りたかった。俺はひたすら勇者としての修行をする毎日だったからな。
それもこれも転生勇者のせいで無駄となってしまった。
思い出したらまた怒りが湧いてきた。
次の試験で俺がCランクに上がることはなさそうだが、ここで諦めては転生者を狩ることができない。勇者の意地にかけて必ず上がってみせる。それからもめげずに練習を続けた。
それからさらにここから1ヶ月。
そして試験の日をついに迎えたのである。
「どのランクに挑戦しますか!」
「えっと……師匠、どうしましょう」
試験会場の受付がシュウに質問していた。
「Cなのじゃ!」
「え? Cですか? 今の僕はFですよ」
アリシアはCランクの試験を受けることを薦めている。
試験では挑戦したいランクを選ぶ。Fが挑戦できるのはEだけというわけではなく。それより上のランクへも挑戦することはできる。大切なのは自分の実力をきちんと見極めることだ。シュウはまだ自分に自信がないようだ。昨日の話ではまずはEランクに挑戦すると言っていたのだが……。
「うるさい、Cなのじゃ! それだけの実力はこのアリシアが保証するのじゃ」
「……じゃあCランクでお願いします」
俺はシュウがこの日のためにどれだけ努力を重ねていたかを知っていた。
俺やアリシアと共に行なう特訓が終わった後もシュウは一人で残って練習していた。
毎日毎日夜遅くまでだ。
ひたすら努力するということがどれだけ大変かということは俺にも分かる。
『ここらへんでいいか』と思って休んでしまいたくなるのが人だ。
だが目標や夢があるとそう思わなくなる。
まさにシュウはその状態なのだろう。
「貴方はどうしますか?」
「……Eランクでお願いします」
俺は自分の実力をよく知っているので無理はしない。
勿論アリシアも納得の選択であった。
「それで次の方、シュウさんどうぞ」
試験官がシュウを試験が行われる闘技場へと呼ぶ。
試験の内容は至ってシンプル。試験官が受験者の魔法のレベルがそのランクに到達してるかを判断するという内容だ。
試験官はこの王国の現役の兵士である。戦いに慣れた実力者である試験官を納得させるのは難しい。しかもシュウはFランクからCランクへ飛び級だ。
「頑張るのじゃシュウ!」
「師匠、この2ヶ月の特訓の成果を見てて下さい」
「うむ」
アリシアの師匠っぷりもすっかり板についちまって。
何だか微笑ましいというかなんというか。凄く楽しそうだな。
「お前ならいけるよシュウ」
「アルスさんと出会えてなかったらここまで来れませんでした。ずっと一人で練習していた僕に話しかけてくれたおかげです!」
「結果的に俺も一緒に練習できる相手が見つかって良かったよ。頑張れよ」
「はい。それでは先に行ってきますね」
「おう」
シュウは闘技場へと入っていった。
俺達は見学席からその試験の様子を見守る。
「ドキドキしますね」
「エリー、今日まで俺達を陰ながら支えてくれてありがとう。助かったよ」
「いえいえ。何だか楽しかったです。こういう経験は今までしたことがなかったですから」
そういえばエリーは皇帝の一人娘だからな。
全てが特別待遇でマネージャーみたいなことはしたことなかったのだろう。
しかし見事なマネージャーっぷりだったぞ。恐れいった。
「お、いよいよ始まるのじゃ!」
アリシアが目を輝かせながら教えてくれた。
どうやらシュウの番が来たようだ。
闘技場に試験官とシュウが一対一で向い合って立っている。
「それでは私を貴方の魔法で攻撃してください」
試験官がシュウに向かい開始の合図を取る。
まさに実戦さながらの緊張感。もう少し柔らかいムードで進むものだと思っていたのだがそうではなかった。そもそもこの学校からは大勢の兵士を輩出しているのだから当然か。未来の国のために戦う兵士を見極める試験ということになる。そう考えるとこの緊張感も当然と言えるのかもしれない。
「何だか私達まで緊張してしまいますね」
「そうだなエリー。この状況で実力を発揮できるかどうか心配だ」
二人してシュウの事が心配になってしまった。
何故か子を見守る親の気持ちが分かった気がする。
「頑張るのじゃ~! さっさとやっちまえーなのじゃー!」
アリシアはそんな事微塵も思っていないようだ。
一人でシュウに大声で声援を送っている。この熱の入れようもまた親みたいなだな。
「それじゃあいかせてもらいますね」
シュウが静かに精神を統一する。
手を空に向かってかざした。
あれは練習では一度も成功しなかったやつじゃないか?
アリシアが俺達にこう言っていた。
魔法は口に出して叫ぶだけでもその力を発揮することができる。
しかしより威力や精度を高めたければ世界に存在する魔力を利用しなければならない。
そのためには自らの想いをトリガーとして使うことが必要だと。
そのトリガーとは動作であり、詠唱であり、媒介であると。
アリシアが魔法陣を使うように使う者によってそれは異なるらしい。
「幾度も空を切り裂いてきた音よ、光よ、我が右手に集え。我が想いを喰らえ。そしてここに命じる、我に力を貸せと」
ここから見ていても分かる。今のシュウの呼びかけによってこの世界の存在する魔力、雷の魔力が右手にどんどん集まっている。想いが力になるとはまさにこのこと。
練習では何度も挑戦していたこの方法。だが一度もうまくいかなかった。
大きすぎる力をコントロール出来なかったのだ。魔力は大きければ大きいほど難しい。
「アリシア、今回はいけるのか?」
「あれなら大丈夫なのじゃ」
アリシアの言う通りだった。
完全に雷の魔力が右手に集まった状態を維持できている。
これが今のシュウの力なのか。いや、努力の成果だ。
「サンダーボルト!」
そう叫んだ瞬間右手に集まった魔力は一気に空へと昇っていく。
その束ねられた魔力の光はまるで龍が如く。
そして空へ昇りきった後に再び地上へと加速する。
耳をつんざくような雷鳴と共にそれは試験官に直撃した。
あたった衝撃が俺達の元へも届く。その威力の凄まじさがここからでも分かる。
そしてまぶし過ぎて状況が全く分からないんだが?
「やったのじゃ。さすが我が弟子なのじゃ」
アリシアの確信めいた言葉だけが俺に聞こえた時だった。
砂埃が舞う闘技場に待望のあの言葉がにこだまする。
「合格ッッ!!」




