禁断の粉
次の日の夜、俺達は再び城へと侵入しようとしていた。
だがやはり警備は厳重になり昨日の搬出口も塞がれてしまっている。
やはり正面から行くしか無い。
「皆聞いてくれ。俺達は何としてでも奴を止めなければならない。だが警備は厳重だ。よってもう小細工なしで正面から突撃することにする」
やはりこの国に外敵が存在しないだけあってあれぐらいの兵士の質なら何とかなる。
それにアリシアの力はやはり強力だ。あのケルベロスがペット扱いとは恐れ入る。
「アリシア、城を壊さないで人を殺さない程度に全開でいけるか?」
「もちろんなのじゃ。気絶ならどうじゃ?」
「いいぞ。とにかく城へ入れれば後はなんとかなるからな。エリーとラスタは俺と共に来てくれ。アリシアが戦っている隙を見て俺が先導するから」
こうして俺達の最終作戦は始まった。
こういう展開は正直燃える。武者震いが止まらない。
「じゃあアリシア頼むぞ」
城の入り口にはすでに大勢の兵士が集結していた。
その数数千。王国中の兵士が集められたようだ。どんだけ俺達にビビってるんだよ。
裏で国王をそそのかしたな。
「分かったのじゃ。それじゃあいくのじゃ~」
アリシアが呪文を唱え始めた。今度はさっきと違ってさらに強大な魔力を感じる。
そして地面に手を当てると巨大な魔法陣が現れた。
さっきとは比べ物にならないほどの大きさだ。
「来るのじゃ! 魔界の憲兵ガルベスくん!」
いや誰だよガルベスくんって。
空が暗くなり雷鳴が轟く、そしてその巨大な魔法陣から現れたのは異形の者であった。
下半身は牛、上半身は人、そして大きな槍を持つ巨人。体は多数の大きな傷跡が残っている。しかもでけぇ。ゆうに20mはあるだろうか。
これがガルベスくんなの?
アリシアはそのガルベスくんの肩に乗っかった。そして大勢の兵士を指さしガルベスくんに伝える。
「頼むぞガルベスくん。適当に相手してやるのじゃ。今回はいつもみたいに殺しちゃだめだなのじゃ。あと城を壊しちゃだめなのじゃ」
ガルベスくんはその言葉にうなずくと歩き出した。
おいおい大丈夫か今の返事だけで。俺は心配だったがアリシアを信じるしかない。
幸い兵士はビビリまくっててもう逃げ出している奴らも多いみたいだし、これなら適当に立ってるだけでも良さそう。
しかしアリシアの召喚魔法は凄いな。元魔王の人脈?なのだろうか。色々な者を呼び出せそう。
「ふははなのじゃ! 我にひれ伏せなのじゃー!」
アリシアのりのりだなおい。魔王の血脈は伊達じゃないな。
その調子で頼むぞ。だがやり過ぎるなよ。
「よしエリー、ラスタ。この隙に城へ急ぐぞ」
俺達はこの隙を利用し楽勝で城へ侵入することができた。こんな騒ぎじゃ警備も糞もあったもんじゃないな。同情するぜ本当。
「調理室の場所は頭に入っています。急ぎましょう」
ラスタの案内と共に俺達は城の中を駆けた。
外に集中させたせいで中は意外と手薄だ。これなら問題ない。
無事に調理室に着いたのだがビスタスの姿がない。
鍋には大盛りの粉だけが残されていた。
どうやら王の元へ逃げたか。しかし異様な光景だな。この粉の量は一体何なんだ。
「この粉の正体、一体何なんでしょうか」
「舐めてみるか? これそのものを舐めれば何か分かるかもしれない」
「僕がやりましょう。危険が伴いますから。何かあったらこのスープをすぐ僕に飲ませて下さい」
ラスタは万が一のために手作りスープを持ってきていた。
あのアリシアとエリーを元に戻したスープだ。
これには強力な解毒作用があるらしい。されに改良を加えたとのことだ。
「気をつけろよ。ほんの一口だけにしておけ」
「分かりました」
そしてラスタはその粉をほんの少し手に取って指につけて舐めた。
「これは……そうか分かったぞ」
「何だか分かったのか?」
「はい。もっともっともっともっともっと食べないと食べないと」
イカン、やはり危惧していたことが起こった。
鍋に頭ごと突っ込もうとするラスタ。
やはり原材料そのものを舐めるのは危険であったな。
「エリー、俺が抑えている間に早くスープを」
「わ、分かりました!」
「おいやめるんだラスタ。正気に戻れ」
何て力なんだ。とてもただの少年の力じゃないぞ。
無理矢理口を開かせてスープを流しこんだ。
するとだんだん抵抗が弱くなり数分で落ち着いた。
「大丈夫かラスタ。やはり危険だったな。勧めた俺のせいだすまない」
「いえ、まさかここまでとは思いませんでした。薄まっていない粉がここまでのものとは」
「それで何だか分かったのか?」
「……はい。これは強烈な『旨み』です」
「旨み?」
「そうです旨み。例えば肉で取ったダシや魚で取ったダシなどに含まれる成分が旨みです。この粉はそれを何百倍の旨み。通常ならあり得ないレベルの旨みです。それこそ脳がおかしくなるほどの旨み」
そういえば聞いたことがある。その成分をどれだけうまく扱えるかで美味い料理ができるかどうか決まると。そのために何時間も煮込んだりして下拵をするということを。
「つまり『旨みのチート』ってことか。あり得ないほどの美味さってことだよな?」
「その通りです。あり得ないんですよこんなの。こんなのが大量に入った料理を食べればおかしくなってしまうのも当然です。人は美味しいものを求める欲求は強いですからね。それを増幅させてしまうほどの旨みですから」
旨みのチートか。
まさかこんなチートがあるとは思わなかったな。
奴は手からそのような物質を無限に生み出せるチートを持っているということだ。
戦闘にはまるで役に立たないが、人を操るという点ではこれほど効率がいい力はないかもしれない。だって人は何かを食べないと生きていけないからな。
「国王の身が危ない。このような物が入ってる料理を毎日食べ続けたとしたら……」
「どうなるんだ?」
「何も考えられなくなるはずです。そしてただ旨みに支配される人形の出来上がりです」
俺達は国王の元へ急いだ。
ここの近くに国王の部屋があることは事前に調査済みだった。
ここが国王の部屋か。
ここまで来れば後は俺が触れることができれば奴の力を抑えることができる。
俺達はその部屋の扉を開けた。
そこには国王と数人の兵士が守っていた。
恐らく側近の兵だろう。今までの兵とは格好が違う。
「何だ貴様達は。我が王国を脅かす賊の一味だな?」
「違います王様。僕達は貴方を助けに来たのです」
ラスタが国王に必死に訴える。
しかしやはり国王の目がオカシイ。完全に旨みに操られている。
「わしからあの味を奪おうというのか。許せんぞ。許せん! 者共捕らえろ」
その命令によって兵士が俺達に襲い掛かってくる。
だがこれぐらいの人数なら鍛え続けた俺の敵じゃないんだよ。
「俺はナチュラル勇者だぜ? 舐めるなよ」
剣を抜くまでもない。俺は拳によって瞬く間に兵士たちを気絶させた。
残りは数人。しかし俺の強さに怖気づいたのか逃げようとしている。
まぁこいつらを倒すことが目的じゃない。逃げるなら逃げてくれ。
そのほうが手っ取り早いからな。
その時だったエリーが俺に向かって叫ぶ。
「そこの右の兵士がビスタスです!」
そうか、エリーには転生者の本当の姿が見えるんだった。
ビスタスめ兵士に変装して逃げるつもりだったということだな。
「ど、どうして俺の姿が」
慌てて全力で逃げ出すビスタス。
俺のからは距離が遠い。すぐに逃げられる位置にいたな。
「僕にまかせて!」
ビスタスの近くにいたラスタが取り押さえる。
兵士の姿と言ってもただの料理人だ。ラスタでも余裕で捕られた。
「誰か、誰かおらんのか! わしの料理人が危ないんだぞ!」
「生憎だな王様。ここにはもう俺達しかいないんだよ。ちょっと面倒なんで眠っててくれ」
「何だと」
俺は手刀を後頭部にお見舞いしてやった。
バタリと倒れる国王。
さぁこれで終わりだビスタス。俺はゆっくりとビスタスに近付いた。




