料理転生
「入って下さい。今本当のこの世界の料理をお出ししますから」
そこは立派な調理器具が揃えられた部屋だった。
どうやらこの少年は料理人のようだ。
俺は言われるがままに料理ができるのを待つこにした。
その間にこのアリシアとエリーをどうにかしなければならない。
俺の手刀が強力だからといってもそろそろ目覚めて良い頃だ。
「大丈夫か? アリシア」
「わしのラーメン、ラーメンはどこじゃ」
起きてもすぐにさっきまで食べていたラーメンのことを心配しているようだ。
俺はアリシアの頬を叩いた。
「アリシアよく聞け。もうラーメンはないんだ。でも大丈夫、これからあの少年が美味しい料理を作ってくれるそうだ」
「そんなものいらないのじゃ! ラーメンをラーメンを!」
そういってここから出て行こうとするアリシア。
いったい何なんだこの中毒性は。
いくら美味しかったとはいえあり得ないだろ。
「このロープを使って下さい」
俺は少年からロープを受け取りアリシアを椅子へ縛り付けた。
ここまでしないと今にも俺の静止を振りきって飛び出していきそうだからな。
すまないが我慢してくれアリシア。
「私も食べに行かなくちゃ行かなくちゃ!」
しまったエリーもいたんだった。
「エリー頼むからここへいてくれ。あれは何だか危険だ」
「何言ってるんですか。もっと食べなくちゃ食べなくちゃ」
「すまないなエリー。少し我慢してくれ」
俺はエリーも同じくロープで椅子へ縛り付けた。
「まだなのか少年。尋常じゃないぞこいつら」
「出来ました! このスープを飲ませて上げて下さい」
少年は今作ったというスープを皿に入れて渡してきた。
一見するとこんな何の変哲もないスープを飲ませればいいのか?
俺は半信半疑で二人に飲ませた。
するとどうだろう、今までの暴れっぷりが嘘のように落ち着いた。
安らかな顔をしている。
「美味しいのじゃ」
「温まります」
二人のリアクションからは狂気を感じない。俺はもう大丈夫だと判断しロープを解いてやった。これがスープの力なのか……。
俺も一口飲んでみた。
「何て優しい味なんだ」
思わずそう呟いてしまうほどの味だった。
体の芯から暖まる、心から暖まる味だ。
さっきのラーメンのスープからはそんな事微塵も感じなかった。
確かにラーメンのスープの味は人を惹きつける何かがあると感じたのだが、こういうものじゃなかったのは間違いない。
「どうですか? ラーメンを食べた量が少なかったのでまだ何とかなったみたいですね」
少年はほっとした表情で語りかけた。
この少年は何者で何を知ってるんだ?
だが俺達を助けてくれたのには違いない。まずは礼を言わねばならない。
「ありがとう少年。どうやら俺達を助けてくれたようだな。すまないが名前を教えてくれないか」
「あ、名乗ってませんでしたね。ドタバタしていて忘れてました。僕はラスタ。料理人をしていました」
「ラスタか。俺はアルス、こっちはアリシアとエリーだ。よろしく頼む」
「助けてくれてありがとうなのじゃラスタ」
「取り乱してしまい申し訳ありませんでした。ありがとうございました」
「こちらこそよろしく。良かった二人共回復できて」
爽やかな笑顔でそう応えるラスタ。
何ていい少年なんだ。
「ラスタ一体どういうことなのか教えてくれるか? まずあのラーメンという料理は何なんだ?」
爽やかな笑顔から一転し今度は深刻な表情で静かに答え始めるラスタ。
「実はあのラーメンはこの世界の料理ではないのです。あのラーメンを食べた人がどうなるかはもうご存知ですね?」
「ああ。凄い中毒性があることは分かった。あの行列に他の客の様子や食べている量。絶対に何かおかしいな」
あんなラーメンを食い続けていたらおかしくもなる。
少し食べた二人でさえこんな状態になったんだ。
もし完食していたら取り返しのつかない状態になっていたかもしれないということだ。
「そうです。あのラーメンと呼ばれる料理には強烈な中毒性があります。一度食べたらもう一度、そしてもう一度というように食べ続けたくなるのです」
「何故そんなものが流行ってるんだ?」
「あのラーメンはある日突然この王国に現れました。今から一年前ぐらいでしょうか。最初は小さな店でした。それが時間と共にどんどん中毒者を増やしていき今やあのレストランは王国一の集客です」
ラーメンがこの世界の料理ではないとはそういうことか。
しかしそんなものが何故突然出てきたのだろう。
「あんなのが王国一なのか。何だか怖いことになってるな」
「そのとおりです。おかげで本来あった料理店はどんどん閉店に追い込まれ、あのレストランの系列の店ばかりがオープンしている始末です」
「そういえばさっき『料理人をしていた』と言っていたな。過去形なのはラーメンが関係あるのかい?」
あの言い方だともう料理人ではないという風に聞こえる。
だけどこれだけの腕を持った者が何故料理人ではなくなったのだろうか。
「僕はあのラーメンが王国に現れる前に小さなレストランで料理人をしていました。師匠と共に本当に小さいですがでも常連に愛されるそんな店に努めていたんです。だけどあのラーメンが現れてから全てが変わりました。客をラーメンに取られてしまい店の経営は悪化。その悪化を何とかしようとして師匠は本来の味が崩れてしまい更に客は減る。悪循環でした。そして師匠は責任を感じて……」
そう俺に教えてくれるラスタの目には大粒の涙が流れていた。
まだ少年でありながら何て壮絶な人生を歩んできたのだろう。
「辛い事を聞いてしまってすまなかったなラスタ。話してくれてありがとう」
「いえ、いいんです。話はここからです。その後僕はラーメンについて調べました。するとその原材料の中にどうしても判明しない物があると分かりました。明らかに人体に悪影響を与える物が入っているというところまでは分かったのですが、それが具体的に何なのかはまだ分かりませんでした」
つまりこの世界に存在しない物が入った料理だということか?
俺が舌で感じたなおピリピリしたのはその物質だったのだろうか。
「そしてそんな物を食べようとしていた俺達を見かねて助けてくれたということだね」
「そうです。貴方達はどうやらこの王国の人間ではない様子でしたし、しかもまだラーメンを食べたことがなかったみたいだったからこれなら助けられると思って手を出しました」
そういうことか。確かに俺達は王国の人間とは少し雰囲気が違うしな。
それを見ぬいて助けてくれたということか。
「そのラーメンを流行らせた黒幕は分かっているのか?」
「大体目星はついています。でもまだ証拠はありませんが」
「誰なんだ?」
「このオイシス王国の国王オイシス10世の専属料理人ビスタスという男です」
「国王の専属料理人だって!? 何でそんな男が怪しいと?」
聞いたことがある。王宮や皇室に仕える専属の料理人が存在すると。
そういう存在がこの王国にもいたのだな。
「その男はあのレストランの経営者だと分かったのです。男は突然に国王の専属料理人になりました。ちょうど1年前です。ラーメンが現れた時期とも一致します。それに、国王の専属料理人といえば名の通った一流中の一流が務める大役。それなのに何故かその男は全くの無名でした。だけど国王の指名により専属料理人となったのです」
「なるほど。確かにそれは怪しいな。そいつの事を調べようとしていたのか?」
「そうです。だけど僕はただの料理人。出来ることは限られています」
「そうか、じゃあ俺達の出番ってわけだな。頼みたかったことってこれだろ」
「……いいんですか? 貴方達はこの王国の人間でもないのに」
「ラスタ。確かに俺はこの王国の、いや実はこの世界の人間ですらないんだ」
「え!?」
俺は俺がここへ来た理由を説明した。
転生者と呼ばれる存在を狩るために来たということを。
「まぁその専属料理人とは転生者だな。クズさから言っても間違いない」
「そんな存在がいるだなんて信じられません」
「転生者ってのは物凄いクズだからな。だがラーメンという未知の料理という存在を考えても間違いないと思う」
【その通りです。その男は恐らく最近の転生者に多いパターンである。『料理転生』ですね。
異世界でチートで暴れるのではなく、料理というスキルで暴れまわる無法者のことです】
ほらな俺の思った通りだ。
今回はチート無しか、なら戦闘で死ぬことはなさそうだな。
だけど相手は国王の側近ということになる。
これはチート無しだからと言って気を抜けないな。
「とにかく俺達に任せてくれ」
「分かりました。何かあったら言って下さい」
「じゃあ早速いいかな?」
「何ですか?」
「お腹が空いた……」
「分かりました! 待ってて下さい」
やっとマトモな異世界料理にありつける。




