豚の末路
『ぐへへこのフィギュアたまらんな』
豚がパソコンを見ながら気持ち悪いニヤけ顔を披露する。吐き気がしそうだ。
また買った。こいつはまた買ったのだ。
この男は一体どれだけの金を持っているのだろう。
俺は豚のある日常のワンシーンを見ていた。
もちろんこいつもとくに働いていない無職であった。
だからフィギュアを買う金も当然親の金である。
部屋には大量のフィギュアが置かれていた。見る限りエロいフィギュア。
しかもどれもこれも巨乳ばかり。
そうか、何故仲間が全員巨乳だったのかということが今これで分かった。
こいつは無類の巨乳好きだったのだ。
「やっぱりオッパイが大きいほうがいいのじゃ……」
「いやアリシアそれは違うって言ってるだろうが!」
「すまんのじゃ」
俺は激怒した。アリシアの自虐発言に対して激怒した。
違うそうじゃないんだよ。まったくアリシアにまで巨乳主義が伝染してしまっただろうが。
いい加減にしろ豚野郎。
豚は親の金で好きなものを買うことに何の罪悪感も感じていないようだった。
一体どういう気持ちで生きているのだろう。
【トントン】
部屋のドアを叩く音がした。
『うるせぇババァ! メシは黙って部屋の前に置いとけって言っただろう。あと口座に金が足りないぞ。入れとけババァ』
自分の母親に対しこの態度である。
毎日働きもしない子供に対しご飯まで出してくれ、金までくれる母親。
それが当然のようになっているこの環境。
俺には全く理解できなかった。
俺の母親は厳しい人で俺は自分でできることは全部自分でやっていた。
だからこのような家族の形は到底理解できない。
『お、あの18禁フィギュア受け取りの時間だ。ババァがうるせぇからな家に送ると』
こうしてコンビニへ行くことになりその太った巨体を揺らしながら部屋を出た豚。
やはり風呂には何日も入っていないようだ。
白シャツは黄ばんでいる。乳首がスケスケだ。
大体そのバンダナは何なんだ。
家からコンビニまでは数分。すぐ側にあった。
その場所へ行くだけでもハァハァと息切れしている。
『ぶへへ。限定フィギュアが手に入ったぞ。おっぱいがたまらななぁ』
ウキウキ気分でコンビニから出てきた豚。
この展開見たことあるぞ。まさか……。
豚は急いで部屋に帰りたいのか横断歩道もない場所を左右確認せずに渡り始めた。
そして案の定その豚に向かって走ってくるトラック。
やはり今回もトラックによる転生ということか。
『ぶひゃあああ!!』
豚がトラックに轢かれるその瞬間やはり光に包まれ消えた。
そうこれで豚は異世界アメニアに転生したのだ。
前回と全く同じパターンだな。
【これが転生するまでの流れです。エターナル・ハローワークで苦しんでいる姿を見てみましょう】
豚がやはり壁で囲われた小さいスペースの中で豚と職員が一対一で話し合いをしている。
豚のは汗だくだ。何故かスーツ姿をしている。全く似合ってないがな。
「君さ、今まで何してたんだ? 職歴は? 何もないの?」
「えっと、働いたことはナクテ……ハァハッァ」
「もっとハッキリ喋りなよ。何でそんなに息切れしてるの?」
容赦無い指摘が豚を襲う。
汗だくな豚が余計に汗だくになっていく。脂汗だろうか。
「資格は? 何かないの? 特技はパソコンって書いてあるけどさ、じゃあエクセルとかワードとかアクセスとかできるわけ?」
「……できないです。資格もないです」
「あのさぁ! 特技って書いてあるじゃんここにさ。何で何もできないのに何で特技に書いたのさ。君、本当に仕事探したいの? 世の中そんなに甘くないんだよね。28歳になってそんなことも分からないのかな?」
「……」
「今度はだんまりかね。全く話にならんね」
「ぶひゃああああああああああ」
どうやら発狂してしまったようだ。
もちろんここで終わらないのがこのエターナル・ハローワーク。
完全に今までの舐めた性根をぶっ壊すまで永遠に続くのだ。
惨めだな豚よ。お前がいままでいかに甘えて生きてきたかが分かるだろう。
【この者もまた借り物力であるチートに頼り好き勝手やっていただけです。世界を救いたいとか笑顔を守りたいとかそういう気持ちは全くありませんでした。あるのはその力を使って巨乳美少女を仲間にして旅がしたいという欲求だけでした】
やはりこの転生者もクズだな。
こんな奴が最終的に魔王を倒していたと思うと吐き気がする。
「楽しかったのじゃ~」
「楽しんでくれたかアリシア。もっともっと転生者を狩ろう。こんな奴らがたくさんいるらしいぞ」
「許されないのじゃ!」
「そうだな。じゃあ帰るか」
こうして俺達はエターナル・ハローワークを後にした。
目の前には完全にのびた豚。
「じゃあチートは没収するぞ」
俺は豚の体に再び触れてチートを没収した。
これでこいつはタダの豚。チートがない豚。
「一体何をしたんですか? いきなり二人の姿とアイツが消えてびっくりしました」
エミリアが話しかけてきた。
そうかエミリアには俺達や豚がどこへ行っていたのかは分からないんだよな。
「とりあえず言えるのはアイツはもうただの豚になったということ。もうチートもないしイケメンになることもないよ」
「本当ですか! じゃあこれでついに世界を救ったんですね。やった~」
大喜びするエミリア。俺に抱きついてきた。
やはり抱きつかれた時の感触は巨乳がナンバーワン!
「あ、ああ。お疲れ様エミリア。君のおかげだよ」
「そんなことないです。復讐できて本当に良かった。何だか真の自由を手に入れた感じです。それにあの、その……」
「どうかしたのか?」
「えっと、さっきは私の涙を受け止めてくれてありがとうございました。何だか今まで抑えてた感情が爆発してしまってどうにもならなくて」
「いいんだよ。人にはそういう時があるんだから」
「……じゃあこれからも借りてもいいですか?」
「え?」
おいおい何だか展開がおかしなことになってるぞ。
エミリアとはここでもうお別れだ。
胸を貸す機会ももうないんだからな。
「エミリアはこれからどうするのじゃ?」
「あの二人についていっちゃだめですか?」
くったくのない笑顔で俺達二人にお願いしてくるエミリア。
「ついてくるって? 俺達と転生者狩りの旅に?」
「そうです」
「いやいやエミリアはこの世界の皇帝の娘でしょ。だめだよそんなの」
「私の居場所は皇室にはありません。あんなところに戻りたくないんです」
エミリアが言うには自分は皇室に捕らえられているような存在だったという。
自由もなく決められた毎日を機械のように送るのに嫌気が差していると。
「つまりもうこの世界に未練はないと?」
「そうです。だめですか……?」
エミリアは俺の片腕にオッパイを押し付けながらお願いしてくる。
くそ、だめだこれじゃあ断ることはできなくなるだろうが!
「エミリアそこまで言うなら断る理由はないけど。大変な旅になるよ?」
「そんなの平気です! 貴方がいるから」
「え?」
「いえ何でもないです。とにかく私は平気なんです!」
「そ、そうか。アリシアはどう思う?」
「大歓迎なのじゃー! 旅は多いほうが楽しいからのじゃ」
「そうか、なら決まりだな」
こうして俺達は三人目の仲間を迎え入れることになった。
まさかエミリアが俺達と共に行くことになるとは思いもしなかった。
しかし確かに旅は多いほうが楽しいってのはあるな。
「あの、これから私の事はエリーって呼んでくれませんか?」
「え? 何で?」
「エミリアという名前より呼びやすいでしょ?」
「うーん確かに。まぁそう呼んで欲しいって言うならそうするよエリー」
「よろしくなのじゃエリー」
「はい。よろしくお願いします」
エミリア改めエリー。よろしく頼むぞ。
「あの~皆さんお取り込み中申し訳ないんですが」
そうだすっかり忘れていた。
洗脳が解けた女の子三人がまだ残っていたのだった。
「お礼だけ言わせて下さい。三人とも感謝してます。本当に助かりました。ありがとうございます」
三人がペコリと頭を下げた。いやいや俺は当然の事をしたまでだ。
「良してくれ。もう終わったことだ。君たちはこれから君たちの人生をちゃんと生きてくれよな。あと一つ忠告。男は顔だけじゃないぞ」
さっきの言動からまたイケメンにころっと騙されそうだったからな。いちおう忠告。
すると三人は笑って了解してくれた。
それぞれの居場所は帰っていた。
「さて、残りはこの豚の処遇か」
俺はこの豚をどうするか決めなければならなかった。
実は俺には元の世界に戻す『転生帰し』という力があることを教えられた。
転生者を転生の原因となる出来事の後に生きているという形で帰すことができる力だ、
「どうするのじゃ? 殺すか?」
「いやアリシア。今回も殺しはしない。もっと辛いことがあるはずだ」
俺は良く考えた。この豚はこれからどう生きていけばいいのかということを。
「おい豚。起きろ」
俺は豚のたるみきった頬をビンタした。
何とか目が覚めたようだ。
「よく聞け。俺はお前を殺さない。だがお前はこの世界で生きていかなければならない。この世界はお前がいた元の世界のように助けてくれる人は誰もいない。自動でメシもでてこないし欲しい物も自分の金がないと買えない。分かるか? お前は働かないと生きていけないんだ」
「……はい分かっています」
どうやらエターナル・ハローワークでだいぶマシになったらしい。
こういう効果もあるとは思わなかったな。意外と素直に話を聞いている様子。
「いいか? だから働け。お前は豚だけど体格はいいから力仕事ならできるはずだ。あととりあえず痩せて風呂にはちゃんと入れよ。巨乳の女の子にモテたいなら清潔感が大事なんだからな」
「分かりました頑張ります」
驚いた。全部分かったらしい。
これなら大丈夫そうだな。そういえばこいつM属性開花したから多少辛いことがあっても快楽に変換できるだろ。だから大丈夫じゃね。
「どうしてそんなに優しくするのですか? あんなに殺したいとか許せないとか言っていたのに」
「エミリア、じゃなくてエリー。確かにそう思っているのは今も同じだ。だけどまだこいつはやり直せる気がしてな」
「どういうことですか?」
「どうせ働かなきゃ餓死するだけだろ? じゃあ俺が殺すまでもない。でもそれぐらいのチャンスはあってもいいと思うんだ。まぁ転生者としての力は完全にないから狩りとしては成功ってことでいいだろ?」
「なるほど。そういうところ好きです」
「好きとか言うなし! 俺はそういうのに慣れてないんだよ」
「女の子と付き合ったこともないからの」
「うるせーぞアリシア!!」
巨乳好き豚野郎という転生者を狩ってこうして俺はこの世界を後にした。




