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蹴りたい豚野郎

「お前なんかこの一撃で殺してやるぞ!」


 そう言ってジャック。いやもう豚と呼ぶべきだな。豚は俺に攻撃してきた。

 もちろん一撃で俺を殺す力などない。こないだのニートよりは体がデブなだけ力はあるようだが、勇者になるために鍛えまくった俺にダメージなど通るわけもない。

 というかそもそも普通の人間の攻撃ならまず俺に通ることはない。

 だって俺は対魔王で鍛え続けてきたのだから。

 

「ハァハァ、あれ? おかしいな。今までは一撃で殺せたはずなのに。ハァハァ」


 どうやら自分の姿が元に戻っているのに気付いていないらしい。

 やれやれ今でも自分はチート持ちのイケメン勇者だと思ってるってことかよ。

 哀れだな……。あと凄く汗臭くてヌメヌメしてるから離れろよ。

 あと何でちょっと動いただけでその息切れなんだ? 

 

「汚ねぇから離れろよ」


 俺は豚を軽く小突いた。

 本当に軽くだ。まったく力を入れてないと言ってもおかしくはない。

 豚に与えた衝撃は俺の力の入れ具合とは違ったようだ。


「ぶひゃあああ!!」


 豚は水面を軽石が滑るように吹っ飛んでいった。何回はねただろうか。体がデブだから余計にはねやすいのかもな。しかし面白い。実に愉快だ。


「何するんだあああ!」


 吹っ飛んで着地した先で豚が発狂している。いや俺はただ小突いただけなんだが? 何もしてないと言ってもいいレベルだぞ。

 しかし豚はまだ自分がどういう現状に置かれているのか分かっていないようだ。

 

「おい豚野郎。お前、今の自分の姿見てみろよ」


 俺は水面を指差した。この透明度なら天然の鏡になるはずだ。


「ぶひゃ? 僕の姿だって?」

 

 豚は水面に顔を近づけた。そして数十秒そのまま停止した。微動だにしない豚。

 今まであんなにイケメンだった顔が元の顔に戻っていると気付いてどんな気分なんだろう。今の顔はどう見てもブサイクだからな。

 

「ぶやあああ! 何だこりゃ! 何かの間違いだ何かの間違いだぁああ!!」


 そして水面を自分の手でバシャバシャと切り裂く豚。

 そんなことしてもお前の姿は変わらないぞ。豚は豚のままだし。

 現実を受け止めきれずに回線がショートしたようだな。

 人は自分の想像を越える出来事が起こるとこうなるのだろう。


 そしてそんな豚の元にエミリアが走っていった。

 一体今更なにするつもりだ? あんなに嫌悪し近付くのも嫌がっていたのに。

 

「この豚! 醜い豚、クズ、カス、ボケ。今までよくもっ!」


 そして豚をひたすらその長い美しい足で思い切り蹴り続けるエミリア。

 完全にエミリアのほうも回線がショートしてしまっている。

 だがその気持ちは十分に分かる。

 今まで洗脳されていて一緒に旅をさせられて、温泉覗かれたり色々なうっかりセクハラの被害を受けていたのだからな。

 

「ぶひゃひゃやああ。やめてくれエミリア。仲間だろう僕達は」

「仲間? ふざけんなっ! 豚が私の名前を気安く口にすんじゃねーよ。そのくせー口を今すぐ閉じろ豚野郎」

「びゃああ!!」


 まだまだ蹴りは続くよどこまでも。

 およそ普通の女の子が絶対に言わないような罵倒を浴びせながら蹴り続けるエミリア。

 俺にはそれを止める勇気などなかった。ただ俺はその姿を見ているしかなかったのだ。


「っはぁはぁ。謝りなさいよ今すぐ。私に謝ってよ!」

「痛いよ~痛いよ~」

「謝ってよ!!」


 エミリアが蹴るのを止めた。そして今度はそのまま泣き始めた。

 怒りの後は深い悲しみがエミリアを襲っているのか。

 

「私の人生何なのよ。せっかく自由になれたと思ったらこんな仕打ち。こんな豚と旅をすることが自由だと思っていたなんて。私は何なのよ」


 号泣するエミリア。その言葉の一つ一つが俺の心に突き刺さる。

 そして改めて転生者とは世界のバランスだけではなくこのような一人の人間の人生や心、体さえも狂わせてしまうという事実に震える。

 俺はエミリアの元へ駆け寄った。


「大丈夫かエミリア。もうよせ。君の怒りと悲しみは十分分かる。だがこんな豚のために泣くことはない。泣くなら俺の胸で泣け」

「だってだって。私は私は……」

「もういいんだよエミリア。もう終わったんだ。君はよく頑張った。さぁおいで」


 俺はエミリアの肩を抱きそっと豚から離れさせた。

 これ以上豚の側に置いていてはエミリアの精神が持たない。

 今はただ休むことが必要だ。

 思えば俺も世界を救うためとはいえエミリアに無理をさせすぎたのかもしれない。

 エミリアはしっかりしているとはいえまだ16歳の女の子だ。

 心はまだ少女なんだ。すまなかったなエミリア。

 俺の胸でよければ使ってくれ。


「どうして僕がこんな目に会わなきゃいけないんだ」


 豚が何故か嘆いていた。

 何を言ってるんだこいつは。

 自分がやってきたことを棚上げして僕ちゃん可哀想ってか?

 お前はチートを乱用し、女の子達を洗脳しハーレムパーティーを作り好き放題やってきた事の報いだろうが。

 お前のせいでどれだけのこの世界が傷ついたと思っているんだ。

 あの魔王配下の四天王だってそうだ。あいつは自分の力を存分に発揮して戦いたかっただろう。そしてこの世界の勇者と熱い想いを交換したかったはずだ。お前はそのような者も殺してしまったんだぞ。これぐらいで済むと思うなよ。


 そして俺が一瞬目を離した隙に豚が逃げ出した。

 まずいザ・リアルの力で一時的にチートを失っているとはいえ回復したら俺は殺される。

 何とかして捕まえてチートを没収しなければ。


「こっちなのじゃ! あれが本当のジャックなのじゃ」


 アリシアがいいタイミングでやってきた。

 それに何と他の女の子も連れて来ているではないか。

 さすがアリシア。何という気が回る女。

「アリシア助かったぞ」

「これからが見ものなのじゃ!」


 俺はアリシアとこれから始まる楽しい出来事を一緒に観戦することにした。



「あんなのが私達を洗脳していたなんて。許せないわ」

「ちょっと逃げるつもりよ」

「……私に任せて。サンダーボルト!」


 逃げる豚に向かい怒りを込めた言葉をつぶやく女の子達。

 魔法使いの女の子が豚に向かい雷の魔法を唱えた。

 

「ぶひゃ!?」


 豚にクリティカルヒット。その場で焼豚になる豚。

 こりゃあ相当怒ってるな他の子達も。

 そして走って豚の元へ行くとやはり始まってしまった。

 そう、蹴りと罵倒の大会である。


「この豚! 騎士団長である私を娼婦のように扱いおって! 勇者が聞いて呆れるんだよ!」

「本当許せませんわ。いくら蹴ってもたりないんですのよ!」

「……しね」


 とても俺の口からは言えないような放送禁止用語を連発しながら三人にリンチされる豚。

 そりゃあエミリアと同じくこれだけ怒るのも当然だよなぁ。

 

「一緒に旅した仲間じゃないか。それに君たちは僕の事好きなんだろ? だったらやめてくれ」


 豚が言ってはならない言葉を言ってしまった。

 この一言が更に女の子達を激昂させることになってしまうのだ。


「私がアンタみたいな醜く太った豚を好きになるわけないでしょ。顔だって全然イケメンじゃないじゃないか。騙してたんだろうが!」

「こんな顔の奴クソ喰らえですわ」

「……ドブサイク」


 さらに激しくなる蹴りと罵倒。

 豚よ、その一言だけは言ってはならなかったな。

 ところがここで豚の様子がまたおかしくなる。

 今までは痛がって嫌がっていたのだがそれがどうも違ってきたのだ。


「もっと、もっと蹴ってくれ。そして僕を罵倒してくれ」


 !?

 何を言ってるんだこいつは。

 俺と同じように困惑し動きを止める女の子達。


「どうした? もっとだもっと。僕はこういうのも好きぶひゃ」


 そしてよだれを垂らしながらニヤつく豚。

 しかも白シャツから見える乳首がビンビンに立っているだと……!?


【これはM属性の転生者。目覚めてしまったようですね。彼の深層に眠っていた性癖が】


 何ということだろうか。

 そう、度重なる巨乳美少女達の蹴りと罵倒によって豚は目覚めてしまったということなのか。これではいくら怒りをぶつけても快楽になるだけで意味がない。


【もはや物理的な攻撃は意味がありません。さぁ、唱えるのです。彼からチートを奪うための言葉を】


 そうだここでチートを奪わなければならない。

 M属性に目覚めた豚がこれから何をしでかすかわからないからな。

 早期決着だ。

 

「おい豚。いいか良く聞け。それ以上Mの快楽を味合わせるわけにはいかない」


 俺は豚を指さし唱えた。


「エターナル・ハローワーク!!」


 すると紅い炎と共に豚は飛ばされた。

 そう、奴は行ったのだ。あのニートを完全に破壊した地獄へ。


【どうしますか? 今回も人生をダイジェストで味わってみますか? 恐らくかなり不快な場面が含まれると想いますが】


 俺はもちろんOKした。

 そうだ今回はアリシアも一緒に見てもらおう。転生者がどんな者なのか分かるはずだ。

 

「アリシア。もっと楽しい事が見られるけどどうする?」

「勿論YESなのじゃー」


【分かりました。それでは参りましょう。ジャック、いいえ、かつてキモオタと呼ばれし者の転生前の人生へ】


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