揺らすという大義
「おおすっごくセクシーなのじゃ!」
アリシアの父さんの形見である水着を着用したエミリアが俺達の前に姿を現した。
まぁ俺は後ろを向いてるから実際どんだけセクシーなのかはアリシアのリアクションと声から察するしかない。
でも不可抗力で後ろ振り向いちゃうのはしょうがないよね?
ほら何かの拍子で驚いて振り向いちゃうってこともあるわけだしさ?
いいよね? いいよね?
二人の会話が聞こえる。
「父ちゃんにも見せてやりたかったの~」
「やめてください。見世物じゃないんですよ? それに何だかオッパイもお尻もきついし……」
「そういう水着なんじゃ~。ぱつんぱつんじゃの~」
「もう!」
もうね。この会話だけでご飯三杯はいけるよね。しょうがないね俺も勇者である前に男であるという現実は変えようがないんだからね。
よし振り向くぞ。ビンタ一発ぐらいなら俺は耐えられるぐらいには鍛えてある。俺を鍛えてくれてありがとう母さん。僕は今日その力を役に立てます。
俺は意を決してエミリアのほうへ振り向いた。今の俺の覚悟は死をも超えた。
もはや誰にも俺を止めることはできない。もし止めるのなら神でも俺は殺してみせよう。
だがその時であった、何者かの手が俺の視界を遮る。
待っているのは水着ではなく暗闇という無慈悲な現実であった。
いったい誰がこんな酷いことを? って一人しかいないのだが。
「だめなのじゃ~約束は守るのじゃ!」
「くっ……その声はアリシアだな。何故だ? 俺達はコンビだろう? 俺を裏切るのかアリシア!!」
「だめなものはだめなのじゃ」
「なんてことだなんてことだ。俺の心が壊れてしまうぞ。それにこのまま作戦の詳細を詰めろというのか?」
「そうするのじゃ」
「はい」
しょうがないから俺はこのまま作戦の詳細を詰めることにした。
俺が完全に悪いのだからこれ以上足掻きようがない。
「エミリア。もう一度確認させてくれ。今、君はあの水着を着ているんだな?」
「何でそんなこと確認するんですか? 言われた通りに着てますよ、もう!」
「いやいちおうな」
この作戦はすべて君の水着にかかっているからなエミリア。
すまないが確認させてもらったのだ。
「で、どうするんですかこれから」
「まずはエミリアがその格好でジャックに突撃してくれ」
「突撃? ようは普通に歩いていけばいいんですよね?」
普通? 普通に歩いて行く? 誘惑作戦なんだぞ?
俺はここでキレた。エミリアがこの作戦の意味を何も分かっていないからだ。
「馬鹿野郎! そんなの誘惑作戦じゃないだろ? 胸揺れだよ胸揺れ。めちゃくちゃオッパイを揺らして突撃するんだよ!」
「ええ~っ! 無理ですよそんなの。オッパイを揺らすですって? 無理です無理。恥ずかしくてできませんっ!」
「だめだ。胸揺れ突撃がなければこの作戦は失敗する。いいか? 100%失敗する。何故ならまずは第一印象で強烈に惹きつけなければならないからだ」
俺は熱弁する。つい言葉一つ一つに熱い思いがこもってしまう。すまないなエミリア。
「なんだかもの凄いこだわりを感じるのじゃ」
そんな俺にアリシアのツッコミが入る。
揺らす胸がないアリシアにフォロー入れておかないと。
「アリシアは胸揺れなんて必要ないからな。アリシアにはアリシアの魅力があるから」
「なんか知らんがありがとうなのじゃ!」
俺の熱弁を聞いたエミリアは赤面しながら顔を手で覆っていた。
頼むOKしてくれエミリア。
「本当にやらないとだめですか?」
「だめだ。エミリア、俺は君を信じている」
「……分かりました。何とかやってみます。そんな事意識して歩いたことないですけど。とにかくオッパイを揺らせばいいんですね?」
「そうだとにかくオッパイを揺らして欲しい。とにかくオッパイを揺らして欲しい」
「二度も言わないでもわかりますから」
よし作戦の第一段階はこれでいける。
まずジャックの視線はエミリアの揺れるオッパイに釘付けだろう。
俺はその間に湖を泳ぎ奴の背後に着きタイミングを待つ。
触れるところまで行っても気付かれないタイミングだ。
「で、近付いたら今度は何をすれば?」
「そうだな。ポージングだ」
「ポ、ポージング!? 何ですかそれ」
「参考資料がここにあるのじゃ!」
「おおでかしたアリシア。まさかこれも君のお父さんの?」
「そうなのじゃ。形見なのじゃ~」
アリシアが取り出したのは『魔界のセクシー美女百選』とかいうグラビア雑誌であった。
中には水着を着たサキュバス達のセクシーポーズが収められているという。
俺も見たいから後で見せてくれよアリシア。
「これが参考資料ですか? 私にこんなポーズをしろと?」
「そうだ。オッパイを揺らすよりましだろう。これでジャックをさらに釘付けにしてほしい。その場で動かないほどに釘付けにしてくれ」
「ちょっと待って下さいよ。何ですかこれこんなにオッパイを寄せて? こっちはお尻をつきだしてって。何てイヤラシイ」
目を隠されてそんな言葉を聞かされると何かのプレイだと思ってしまうんだが?
まじで俺が危ないからやめろ。
「イヤラしくなきゃだめなんだよ! むしろそうじゃなきゃだめ」
「でも私うまくできるかどうか」
「ちょっとここでわしに見せてみるのじゃ!」
「ここでですか? 絶対その手離しちゃだめですからね」
「うむ。安心するのじゃ」
「……じゃあちょっとやってみますね」
どうやらエミリアは俺の目の前でポーズの練習を始めたらしい。
ああ見たい。見たいんだが? ああ見たい。
だけどアリシアの手が俺の目から離れることはない。
きっと今エミリアは俺の目の前で人生初のセクシーポーズをしているのだ。
皇帝の一人娘という堅物がそんなポーズをしているという現実。
俺も体感したいよ。
「なかなかいい感じじゃ。あとは表情じゃな。もっとこの本のお姉さんたちみたいにしてみるのじゃ」
「表情……こうですか? うまくできているか分かりませんが」
「おおいい表情なのじゃ。これならいけるのじゃ」
どうやら完成したらしい。
結局俺は見ることができなかった。俺はこの日の切なさを一生忘れないであろう。
「よし準備万端だな。頼むぞエミリア」
「終わったら覚悟してくださいね」
「お、おう」
ということで作戦開始。
三人はテレパシーで会話ができるようアリシアに魔法をかけてもらった。
これで細かい指示をアリシアがエミリアに出せるし俺はタイミングうまく合図できる。
まずはエミリアがオッパイを揺らしながらジャックに突撃する。
俺は離れたところから湖の中に入り静かにゆっくりとジャックの元へ泳いでいった。
相変わらずジャックは水浴びを楽しんでいるご様子。
今日は暑い。水浴び日和だから最高だろうな。
「こちらは所定の位置についた。エミリア、そっちはどう?」
「大丈夫です。いつでもいけます」
「こっちもOKなのじゃ。ばっちり皆の姿が見えるのじゃ」
よしあとはスタートの合図をかけるだけだ。
とその前に。
「皆聞いてくれ。この一戦にはこの世界の未来がかかっていることを忘れないで欲しい。俺達の失敗はこの世界の崩壊を招くはずだ。かならずやり遂げるぞ!」
スタート前に気合を入れないと。
何事も気からって言うぐらいしな。技術よりも気持ちが大事。
「……おー!」
エミリアの小さい声が聞こえた。
今回はエミリアにかなりの重圧がかかってしまった。
本当に申し訳ないと思っている。だけど頼むぞエミリア。君ならできる。
「おーなのじゃー!」
アリシア、全ては君無しでは考えられなかった作戦だ。
的確な指示を頼むぞアリシア。全ての状況を把握できるのはアリシアだけだ。
「よしそれでは『エミリア巨乳セクシー水着誘惑作戦』開始!」




