誘惑作戦
「水が冷たくて気持ちいいなぁ皆」
「うふふ」
「きゃはは」
湖で水浴びをしているジャック達。女の子達は水着を着ている。
呑気なもんだ。
今の今まで戦っていたのだろう。それも相手は魔王軍の四天王。
まだまだ残党がいて奇襲をかけてもおかしくないんだぞ?
それをあんな無防備な格好で女の子と楽しむとは。
まったくこいつも戦いというものを舐めている。
大体何で水着を持ってるんだよ。
魔王討伐の旅に必要か?それ
旅に必要なものだけを持って行けよな。俺は魔王討伐の旅に水着が必要なんてこと誰からも教わらなかったぞ。
「豚が、豚が、豚が水浴びしています。醜い豚が水浴びを。吐きそうです」
俺とは別の光景がエミリアには見えているのだろう。
そのリアクションから察するに相当気持ち悪いのは間違いない。
早く俺もその姿が見てみたいものだ。
恐らく俺が今まで見たことがないレベルの気持ち悪さということだからな。
「ゲロ袋ならここにあるのじゃよ~」
「ありがとうアリシア。まだ何とか我慢できるわ」
「いつでも言うのじゃぞ」
「うんわかった」
二人の会話を聞いていると笑ってしまう。
アリシアとエミリアはいいコンビになりそうだな。
「で、もう突撃するのか?」
アリシアがワクワクした様子で聞いてきた。
できるならそうしたいのだがそうもいかないんだよなぁ。
「いや突撃は無理。普通に死ぬから」
俺は冷静に返した。
だって実際そうなんだもん。
さっきの残骸見てもやはりチートを持っていることは間違いないし。
あのレベルの攻撃に耐える自信はない。ていうか無理。
「どういうことですか? 勇者なら正面から戦えばいいのでは?」
「いや無理。死ぬから」
「え? でもさっき異世界を旅してる勇者だって」
「いやそうなんだけどさ。あのチートはちょっとね」
「チート?」
俺はチートについて説明した。
明らかに常識を超えていて、あり得ない力。不正だしズルい力がチートということを説明した。
「確かにあの力は私もおかしいと思っていました。この世界にこんな力が存在するのかと。今までの私達の国の兵士たちの苦労は何だったのかと思ってはいました」
「そうだろう。そんな力存在しちゃいけないんだよ」
「貴方はチートを持っていないのですか?」
「あるわけないだろ!! 俺はナチュラル勇者。100%ナチュラルなんだよ!」
「そ、そんなに怒らなくても」
俺の突然の激昂にビビるエミリア。
そりゃあそうだキレるタイミングを間違えた。
エミリアにキレてもしょうがないだろ俺。キレるならジャックに切れろよ。
「すまんな。ついナチュラルとしての意地が出てしまった。とにかくだから俺はアイツとは真正面から戦うことはできない。何とかして触れれば勝ちなんだが」
俺の力が触れれば発現し効力を発揮するということをエミリアに教えた。
その反応は微妙なものであった。
まぁ実際普通の戦いには何の役にもたたないのだからしょうがない。
完全に対転生者用の力だからな。
「分かりました。じゃあ何とかしてアルスさんが触れることができるような隙を作ればいいんですね?」
「そういうこと。とりあえずまだアイツらはイチャイチャしてそうだからここで作戦会議だ」
俺は奴に一度顔を見られているし近付くのは容易ではない。
それに触れる前に一撃でも食らったら終わりだ。
さっきの奴の態度からして警戒心は結構強い。
慎重に事を進めなければならない。
「思いついたのじゃ!」
「お、アリシアまた何か名案が?」
「水の中に潜って後ろからそっと近付いて触れればいいのじゃ」
「……確かに地上よりは近付きやすいだろう。しかしリスクが高すぎる。もし気づかれたらすぐ逃げることもできないし」
「うーん弱気じゃのう」
「いや弱気とか言う前に俺の命がかかってるからな? 失敗=死だから今度こそ」
「実はあの人は男に対しては異常に厳しいのです。恐らく一度見た男の顔は覚えていますし、怪しければ問答無用で攻撃してくる可能性もあります」
「なんだよそれ。よくそんなのと一緒に旅してたな」
「今の私にはまったく理解できないのです。だけど今まではそれが普通だと感じていました。というかあの人を魅力的だとも思っていたのです」
「やはり洗脳か。怖いなぁ。恋は盲目って状態と似ているな」
「思い出しただけでも鳥肌が立ちます」
しかしエミリアからそれを聞いてしまうとますます手が出しにくい。
しかしこのままここで逃せばこの世界はより痛みを受けることになってしまう。
絶対にここで狩らねばならない。
「じゃあ気づかないほどに気をそらせばいいのじゃ」
「アリシア、どういうこと?」
「これなのじゃ!」
アリシアはポケットから布切れらしきものを取り出した。
いったい何だこれは。その自信からして何か凄い物なのか?
「これは……水着じゃないですか!」
エミリアがそれを見て直ぐ様反応する。
「そうなのじゃ。これを着てエミリアが気を引いてる間に後ろからアルスが近寄っていけばいいのじゃ!」
「なるほどさすがアリシア。無類の女好きのアイツならうまくいきそうだな!」
「そうじゃろそうじゃろ」
よしこれならいけるぞ。
アリシアの発想は本当に頼もしい武器だ。
俺には到底思いつかない発想だよ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。どうして私が当然着る流れになっているんですか?」
エミリアが顔を真っ赤にして話を中断してきた。
いやだってそれしか手がないんだからしょうがないじゃん。
「え? 駄目なのエミリア。名案だと思ったんだけど」
「ダメダメです! 私そんな格好で誘惑なんてできませんからね。それに何ですかその水着は。凄く面積が小さいじゃないですか」
「これは父の形見なんじゃ~。セクシー水着なのじゃ」
「いい趣味してるなお父さん。さすが魔王だ」
「じゃろ?じゃろ?」
「うむ。俺もグッくるな」
その水着とは確かに面積が小さく。
いわゆるセクシー水着と言って過言ではない。
昨今水着業界ではスタイルをごまかすためにパレオなどというふざけた水着が多いと聞いていた。しかしこれはまさに王道を征く水着だ。しかも色は黒。よりセクシーさを強調させるいい色だ。
「ちょっと、そんなことどうでもいいんですよ。大体アリシアが着ればいいじゃないですか」
「わしはおっぱいがすくないのじゃ。だからだめなのじゃ……」
「おいアリシア泣くな! 需要はあるぞ。俺にもあるぞ。だから泣くんじゃないアリシア」
俺はうつむくアリシアを慰めた。
まったく巨乳至上主義者というのはこういう被害者を生み出しているということを自覚してもらいたいね。世の中みんな巨乳至上主義じゃないんだが?
「エミリア、アリシアを泣かせるようなこと言うのはやめてくれ。大人気ないと思わないのか?」
俺はエミリアを叱った。
アリシアはまだ幼い少女なんだぞ。
無限の可能性を秘めているのだ。
「ご……ごめんなさいアリシア。そういうつもりで言ったんじゃないのよ」
「許すのじゃ!」
「よしアリシアも許したところで」
「いやいや違いますから。何流れを持っていこうとしているんですか。私は絶対嫌ですからね」
あくまで拒否するというスタンスを取るようだなエミリアは。
でもこの作戦しかアイツに触れることができる方法は他にないはずだ。
絶対に着てもらうぞエミリア。
「エミリア、よく聞いて。このチャンスを逃せば更にこの世界は危なくなる。それに君のような洗脳される女の子も増えるだろう。それでいいのか?」
「それは阻止したいですけど……」
「そうだろ? 君のセクシー水着一つで世界を救えるんだ。素晴らしいことだと思わないか? たった一瞬の恥じらいで世界を救えるんだ」
俺はエミリアの手をしっかり握り語りかけた。
俺の真剣な眼差しがエミリアの瞳に突き刺さる。
「……でも」
「エミリア!」
俺はエミリアを抱きしめた。
そして止めの一撃。
「俺はこの世界を救いたい。頼む。力を貸してくれ。何でもするから。あと絶対に俺は見ないから」
俺もいい演技をするようになったものだ。
もしかしたら勇者より役者の才能のがあるのかもしれないな。
「アリシアも何か言ってくれ」
俺はアリシアにも説得を促した。
そしたらアリシアもエミリアに抱きついてきた。
「お願いなのじゃ。父ちゃんもそれを望んでいるはずなのじゃ」
そうだアリシアのお父さんだってこんな素晴らしい女性に形見を着てもらえるなんてこんなに嬉しいことはないだろう。いいぞ父への愛という力が説得の材料になった。
それから数分沈黙が続いただろうか。
エミリアはそっと口を開いた。
「……絶対絶対見ませんね? 絶対ですよ? 分かりました。そこまで言うのならやります」
こうしてエミリア巨乳セクシー水着誘惑作戦が決まった。




