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ありのままの姿

「遅かったようじゃの」


 俺達が辿り着いた頃にはすでに魔王軍の四天王は倒されていた。

 跡形もなく拠点ごと吹き飛ばされている。

 無念だっただろうな。あんなチートとかいう力に何も分からないままやられて。

 『我こそは四天王の一人の~』とか名乗り上げて死闘を繰り広げたかっただろうな。

 本当にすまない。俺が遅かったばかりにこんな事態になってしまって。

 本来ならこの世界に誕生すべきナチュラル勇者によって倒されるのが本来のストーリーだ。

 それを異世界から来た転生者なんかに倒されてしまったのだから死んでも死に切れないだろうな。


「手を合わせてなにをしておるのじゃ?」

「いや、ちょっとご冥福をお祈りしてたんだよ」

「お祈りか? わしもやるのじゃ」

「ああ、アリシアも無念に散っていった四天王の一人さんのご冥福を祈ろう」

「よくわからないが分かったのじゃ!」


 その無念はこれから俺が晴らしてみせるからな。

 ところで魔の物が死んだらどこへ行くのだろうか。

 地獄か? 魔界と地獄って何が違うんだろう。

 

「さてと、あいつらはまだ遠くへ行ってないはずだ。探そう」

「分かったのじゃ」


 残骸を見るのにまだ火が残っているぐらいだから近くにいるはずだ。

 どうせまた温泉の事でも考えているんだろう。

 俺達は近くを探しまわった。

 そしてやはり見つけた。どうやら休憩しているようだ。

 その様子をこっそり覗き見することにした。

 何か俺この世界に来て覗き見ばっかしてんな。



「何だか揉めているようじゃの~」


 また糞みたいな和気あいあいムードで休憩していると思ったら今回は違うようだ。

 なにやら険悪な空気を感じる。

 あの皇帝の一人娘と他の4人が対立しているようだ。


「近寄らないで下さい気持ち悪い!」


 ジャックに対し強い口調で警告する皇帝の一人娘。

 本当に心から嫌がっている感が凄い。


「どうしたんだエミリア。さっきから様子がおかしいぞ」


 ここでやっと皇帝の一人娘の名前が判明。そういえばアリシアから聞いてなかった。

 エミリアというのか。可愛い名前だな。

 

「もしかして毒にでもやられたのでは?」

「いや魔法の力かもしれない」

「とにかくこっちに来て体を見せて」


 騎士団長、エルフ、魔法使いがそれぞれエミリアのことを心配している。

 それでもエミリアは近づこうとしない。


「私はどこもおかしくない!」

「落ち着いて。こっちにおいで、さぁ」


 ジャックがエミリアの手を無理矢理つかもうとする。

 それを思い切りエミリアが振り払う。


「ふざけるなよ! 汚い手で私の手に触れるんじゃない豚野郎が。クセェんだよ豚」


 今までのイメージが完全に崩れる喋り方であった。

 まるで田舎のオラついた若者ではないか。

 エミリアは怒るとこんな風になってしまうのか?

 いや、意外とありだなこれも。ギャップってやつは侮れない。


「勇者様に何てことを言うのです。こんなにカッコいい勇者様に豚だなんて。謝りなさいエミリア!」


 騎士団長がエミリアの言い方に対しキレたようだ。

 しかしエミリアも引かない。


「この男がカッコいいですって? 皆はこの姿が見えないの? どう見ても豚じゃないの」


 そうか、ここでやっと分かった。

 エミリアは俺の手に触れたことによって力を発現し、ジャックの本当の姿が見えるようになったからこういうことになったのか。

 アリシアが言っていたことは確かに本当だった。


「やはり面白いことになっておるのぉ。あのリアクションからするに今回の転生勇者は相当な容姿をしているってことじゃの」

「俺の想像を越える逸材みたいだな。しきりに豚って単語を使ってるのも気になるところだ」


 そのまましばらく喧嘩の様子を見ていた。

 事態は平行線を辿り一向に前へ進まない。

 そしてついにジャックが切り出した。


「とにかく疲れているんだろう。きっと幻覚を見ているに違いない。さっきの雑魚、いや四天王が何かの魔法をかけたのだろう。エミリア、とりあえず俺達は向こうの湖で休んでいるからな。しばらくしたら戻っておいで」


 そう言ってジャック達4人は湖へと歩いて行った。

 ここの近くの湖は水浴びができるほど綺麗で美しいと評判だとアリシアが言っていた。


「幻覚なんかじゃない。私がどうかしてるって言うの? でも絶対に幻覚なんかじゃないわ」

 

 そう小さく呟いたエミリアはその場に座り込んでしまった。

 相当なショックを受けているに違いない。

 


「どうするのじゃ?」

「とりあえずエミリアから話を聞こう。奴の本当の姿というのももっと詳しく知りたいからな」


 俺達はジャック達が完全に去ったのを確認してからエミリアの元へ向かった。

 

「また会ったねエミリア。大丈夫?」

「貴方はさっきの行き倒れの人……。どうしてここに? それにその格好は何?」

 

 さっきはボロボロの服装で汚い格好だったからな。

 今はザ・勇者みたいな格好してるから驚くのも無理はない。


「俺の名前はアルス・ハンター。よろしくエミリア。さっきはすまなかった。実は俺は行き倒れなんかじゃなかったんだ。騙してすまないな」

「ちょっと意味が分からないんだけど……。あとそちらのかわいいお嬢さんはどなた?」


 アリシアに会ったのは今回が初めてだったな。

 可愛いお嬢さんか。実は元魔王なんだけどね。


「わしはアリシアなのじゃ。よろしくなのじゃ」

「なのじゃ……? よ、よろしくねアリシア。可愛い妹さんね」

「わしはアリシアなのじゃ! 妹じゃないのじゃ」

「そ、そう。ごめんなさいねアリシア。てっきり背格好から妹さんかと思ったの」

「うむ許すのじゃ」


 確かに俺にこれぐらいの妹が居てもおかしくないな。

 それにアリシアの格好と来たら美少女がコスプレしてるみたいなもんだからな。

 

「ところでお二人共何か私にようですか? 私は今混乱してしまっていて大変なのです」


 うむ見れば分かるぞ。明らかに取り乱してる様子が。

 まぁさっきからずっと隠れて見ていたからな。


「その事で君に話があるんだ。実はさっきから君たちの様子をずっと見ていた」

「え? 何でそんなことを?」

「それは俺達がこの世界に来た理由から説明しないといけない」


 俺は全てを説明した。

 本当の姿をすでに見ているエミリアには説明しても問題ないだろう。

 それに今回は世界に重大な影響を及ぼす可能性があった魔王アリシアの時とは違う。

 

「ナチュラル勇者……ですか。つまり異世界を旅して転生者とかいう存在を狩っているということですか」

「そう俺はナチュラル勇者。この世界にこれから生まれるであろうナチュラル勇者を守るため、そして転生者によるバランス崩壊を防ぐためにここに来たんだ」


 どうやらだいたいここまでは分かってくれたみたい。

 かなり突拍子もない話だけどエミリアは頑張って理解しようとしてくれている。

 

「そしてわしはこのナチュラル勇者アルスの相棒なのじゃ~。それに元魔王なのじゃ!」

「魔王? 何を言っているのですか!?」

「元じゃぞ元」

「???」


 おいおいせっかく理解できそうだったところをかき回すのはやめないかアリシア。

 おかげでますますカオスが深まってしまったじゃないか。

 

「アリシアの事は置いておいて。とにかく今はあの転生勇者のことだ」

「転生勇者? ジャックのことですか?」

「そう。奴は本当の勇者なんかじゃない。俺がさっき説明したような転生者。そしてバランスを崩す者なんだ。俺は転生勇者と呼んでる」

「まさかジャックがそんな存在だったなんて信じられません」


 自分であれだけ言い放ってもまだ心のどこかでは自分がおかしいんじゃないかという思いも持っているようだ。ここは俺が後押ししてやらないと。


「でも実際見たんだろう? 奴の本当の姿を」

「……確かにこの目で見ました。あれが本当の姿何ですか?」


 その目で見たことを信じるんだエミリア。

 君の目は間違ってないし幻覚なんかじゃないんだぞ。


「そうだよ。俺にはまだ見えないが君には偽りの姿を見破る力があったんだ」

「じゃあやっぱり豚だったんですね。あの豚があの男の本当の姿だったとは」


「さっきから豚を連呼してるけどそんなに豚みたいなのか?」


 俺は一番聞きたかったことを聞いた。

 奴の本当の姿の詳細が知りたい。


「そうです。正確には豚みたいに太っていてという意味での豚野郎です。あとは汗だくで鉢巻きをしていて服装は白い半袖シャツに短パン、そして何故か白シャツから見事に透けている乳首、腐ったような体臭、恐らく何日も風呂に入っていないような臭いというのもあります」


 おいおい具体的すぎるだろ。

 しかしそんな奴見たことないけど実在するのか?

 もし本当ならマジでいるだけで産業廃棄物じゃねーか。

 

「聞くだけで気持ち悪くなるのじゃ~」


 アリシアの言うとおりである。

 そんな奴が勇者として活動しているだと? これは許されないな。


「エミリア。わざわざかなり詳細な情報をありがとう。凄く参考になったよ。君は間違っていないはずだ」

「私さっきからいきなりそう見えるようになったんです。そう見え始めてからとても一緒にいるなんて事できませんでした。だからさっき喧嘩になってしまったのです。他の3人の女の子は私のようには見えてないみたいでした」

「それはまだアイツの力で洗脳されているからに違いない。もうアイツを野放しにしておくわけにはいかない。俺はこれからアイツを決着を付けに行く。エミリア、君も一緒に来てくれないか?」


 今後のエミリアの人生のためにも完全なる真実を一緒に見たほうがいい。

 そしてまだ洗脳されている3人を救うためにもエミリアが必要だ。


「もし貴方の言う話が全部本当なら私はアイツを許せません。あの豚野郎のケツを思い切り蹴りたいです」

「あ、ああ。そういうことなら一緒にいこうか」

「エミリアの喋り方怖いのじゃ~」


 こうして俺とアリシアにエミリアを加えた三人で戦いを挑むことになった。

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