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花小説  作者: 九重ツクモ


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7/31

クロホオズキ【現代ドラマ】

 初めて彼女を見た時、あまりの美しさに目を見張った。

 癖のない黒髪は美しく、一際目を引く。

 異次元の存在過ぎて精霊か何かと思えるほどだ。

 ごくたまに、空気を読まない大馬鹿者が彼女を口説こうと近付くことがあるけれど、まるで虫でも追い払うかのように軽くいなしている。

 とてもではないが、私だって声を掛けられない。

 せっかく隣の席になったのにな。

 物理的な距離は近くても、違う次元に棲む私たちは何も交わることはない。

 そう思っていたある日のこと。

 私は日直の仕事で遅くなり、早く帰ろうと教室に急いだ。

 ガラリと教室の扉を開けると、彼女が一人、窓際の席に座っていた。


「ご、ごめん」


 私は何故か謝りながら、慌てて鞄をひったくり教室を出ようとした。

 その時だ。


「ねえ」


 私ではない声。この場には、私と、もう一人しか居ない。

 つまり、この声は、彼女のものだ。


「えっ! え⁉︎」


 思わず声が裏返る。振り返ってみれば、彼女は頬杖をついたまま、こちらを見ていた。


「ねえ、見たんでしょ」


 言葉の意味が分からず、困惑しながらよく見れば、彼女の机の上には、煙草の箱と、何らかの薬と思われるものが乗っていた。

 明らかに、やばい。


「あっえっ、と……」

「試してみる?」


 ヒュッと息を飲む。

 鞄を胸に抱えたまま、じりじりと後ずさる。

 けれど、どうしても彼女から目を離すことが出来なかった。


「いいじゃん。共犯になってよ。隣の席のよしみでさ」


 まるで、彼女の言葉が毒のように全身に回る。

 そのまま、毒に侵されて溺れてしまう。

 そんな予感がした。

【解説】

鬼灯は死者や精霊を導く明かりにも見立てられます。

しかしクロホオズキは鬼灯と名が付いているものの、赤い鬼灯とは別物です。

遠い親戚くらいの関係と言えるでしょう。

名前の由来は見た目の通り、黒い鬼灯のように見えるから。

ニカンドラ、オオセンナリとも呼ばれます。

英名ではシューフライプラントともいい、直訳すれば「しっしっ!あっちいけハエ!の植物」。

クロホオズキの匂いがハエを寄せ付けにくいためだそうです。

鬼灯は熟した実を食べることができますが、クロホオズキには毒があります。

ニカンドラという名前も、毒をモチーフに詩を読んだニカンドロスというギリシャの詩人に由来するそう。

花言葉は「可憐な愛」「自然美」と言われています。

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