ワラタ【現代ドラマ】
ハァハァと息を切らしながら、傷だらけの体を引きずって山中を進む。
組織に入って一年。
早々にでかい仕事をこなしたことで、正直調子に乗っていたのは否めない。
新参者がでかい顔をしていたら、そりゃあ潰されるのも必至だろう。
「下手こいたなあ……」
誰に聞かせるでもなく小さく呟けば、唇の端から血が滴った。
人気のない山に車で連れ去られた時点で、ある程度覚悟していた。
この足じゃ人里に降りるまで、あと数日はかかるだろう。
そんな体力は当然残っておらず、このまま勝手に朽ち果てろということだ。
俺をいたぶる奴らのいけすかない表情を思い出し、悔しさと情けなさで歩みが止まる。
「あ」
足を止めたのがいけなかった。
惰性で動かしていた足は途端に力が抜けて、体が前に倒れ込む。
全身の鈍い痛みとは別に、がさがさとした何かで皮膚に無数の擦り傷ができたのを感じた。
思わず瞑っていた瞼をゆっくりと開けると、目の前には、真っ白な花。
「あ、れ……」
白い花が、徐々に赤く染まっていく。
それが自分自身の血によるものだと気付いた時には、もう、ほとんど何も見えなくなっていた。
(まさか、花に囲まれて死ぬ人生だったとはな)
薄れゆく意識の中で、ぼんやりとそんなことを思った。
【解説】
ワラタはオーストラリア東部に自生する花で、ニューサウスウェールズ州の州花にもなっています。
一つの大きな花のように見えるのは、実は小さな花の集まり。
ワラタという名前はアボリジニの言葉がそのまま残っているもので、「赤い花」を意味するとも言われていますが、正確には分からないそう。
ワラタにはいくつかアボリジニの伝承が残っており、そのうちの一つに、元々ワラタは白かったというものがあります。
鷹に追われた鳩が傷付いたまま白いワラタの茂みに逃げ込んで、その血で赤く染まったという話。
ワラタは赤いものが一般的ですが、確かに白い品種も存在します。
花言葉は「目立ちたがり屋」。
ワラタは背も高いので、木々の間にこの花がにょきりと生えていたら、確かに目立つでしょうね。




