プロテア【異世界ファンタジー】
暗闇に沈む王宮の廊下を、堂々と歩いていく。
途中すれ違う使用人たちは、深くお辞儀をして俺を見送る。
誰も俺が殺し屋だとは思いもしない。
どこからどう見ても、国王そのものなのだから。
俺は凄腕の殺し屋だ。
自称じゃない。自他共に認めるってやつだ。
これまで請け負った依頼は、必ず遂行してきた。
今回、破格の依頼料で請け負ったのは、国王の暗殺。
さすがの俺も度肝を抜いたが、あの額を提示されちゃ、やるしかないだろ。
得意の変装術で王に成りすまし、難なく寝室に忍び込んだ。
ベッドには国王が呑気にすやすや寝息を立ててやがった。
枕元に近付き、一気にナイフを振り下ろそうとした、瞬間。
王がカッと目を見開き、こう叫んだ。
「なんてそっくりなんだ! このままお前が王になってくれ!」
勢いに任せて、聞いてもいないのに国王は身の上を語り出した。
自分は偶然が重なり玉座に座るしかなかっただけで、本当は田舎で農作業でもして静かに暮らすのが夢だという。
欺瞞と裏切りが蠢く王宮など、もう嫌だと泣き出す始末だ。
「もし俺の身代わりになってくれたら、依頼料の十倍の額を出そうじゃないか!」
「じゅ、十倍⁉︎」
それは最早、一生遊んで暮らせるほどの額になる。
俺は思わず、そのとんでもない提案を承諾してしまった。
まあ、依頼主は上手いこと処理してしまえばいいだろう。
適当な所で事故死にでも見せかけてとんずらしよう。
そんな軽い考えで引き受けた俺は、このあと心底後悔することになる。
依頼主を始めとする不埒な輩を一掃し、この国を正しい形に導いた賢王だなどと生涯讃えられることになろうとは、この時の俺は全く予想していなかったのだ。
「遊んで暮らせねえじゃねえか! くそ!」
「君は国王が天職だったんだねえ」
時折農作物を持って遊びに来る元国王は、人の気も知らないで呑気に笑う。
俺はそんな奴を、思い切り睨みつけるのだ。
「うるせえ隠居じじい! てめえのせいだ!」
「ほっほっほっ」
奴の顔を見ると腹が立つ。
けれど、案外この仕事にやり甲斐を感じ始めている俺がいたのだった。
【解説】
プロテアは品種によって花姿が様々に異なることから、ギリシャ神話で様々に姿を変えるプロテウスから名付けられました。
それにちなんで、花言葉も「自由自在」。
大輪で存在感のある姿から「王者の風格」の花言葉も。
プロテアの中で最も有名なキング・プロテアは、その名の通りまるで王冠のような花姿。
19世紀頃、ヨーロッパの王侯貴族の間でも人気を集め、多くの種類が栽培されたそうです。




