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花小説  作者: 九重ツクモ


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29/31

紅花【ヒューマンドラマ】

 リップを塗って化粧を仕上げ、鏡をもう一度覗き込む。

 パーソナルカラーに合わせたシャドウとチーク、計算し尽くしたシェーディング。

 努力の賜物で、すっぴんの何倍も見られるようになった顔が、鏡の中から見つめ返している。


(とは言っても、ブスには違いないけどね)


 どんなに化粧を研究しても、元が悪ければ限界がある。

 SNSで流れてくるメイク動画はどれも、結局元の顔がそれなりだから成り立っているのだ。

 かと言って整形する勇気はなく、毎日鬱々と鏡を覗き込んでいる。

 深いため息を吐き出したところで、スマホが震えた。

 文字通り、スマホに飛び付く。


『ごめん、今日やっぱキャンセルしてくれない?』


 彼からのメッセージを視線でなぞるうちに、だんだん頭が下がっていく。

 この世の全てに裏切られたような気分だ。

 きっと、他の女性とデートの予定でも入ったのだろう。

 彼には他にも親しい女性が居る。それも何人か。

 本命と噂されるのは、私とは似ても似つかない綺麗な人だ。

 どうせ私は、ただの暇潰しでしかない。


『お詫びに、この間観たいって言ってた映画行こうよ。来週はどう?』


 再び届いたメッセージに、目頭が熱くなる。

 まだなんの返信もしていないのに、私が今日のキャンセルを了承する前提で話を進める。

 彼が不誠実で傲慢なことは間違いない。

 けれど彼はこうやって、些細な会話を覚えていてくれるのだ。

 それが、嬉しくてたまらない。


『そっか残念。でも来週楽しみにしてる!』


 私はそれだけ送って、ベッドに倒れ込んだ。

 せっかく作り込んだ顔に手を当てて、一人涙を流す。

 私にできるのは、ただそれだけだった。




【解説】

名前の通り、古くから化粧用の紅や染料に使われてきた紅花。

「末摘花」の別名は『源氏物語』に登場する不美人として描かれている女性の呼称にもなっています。

彼女は長い鼻を持っていて、しかも鼻先が赤い。

それが末摘花という呼称の由来。

光源氏が関係を持った女性の中でも、彼女は異質な存在です。

紅花の花言葉は「化粧」「装い」「包容力」など。

和歌や俳句にも詠まれ、食用にも利用され、日本人と関係の深い花と言えるでしょう。

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