カンガルーポー【SFファンタジー】
人類の文明が衰退して幾星霜。
争いを好み自ら破滅した愚かな人類は、今やごく少数となった。
代わりに台頭した我々動物たちは、人類を遥かに超える知性と高度な文明を手にし、今のこの平和な時代がある——
「先生、本当に今の文明は人類のそれを超えているのですか?」
歴史の授業中、ルーが前足を上げてそう言った。
カンガルーは前足が短いから控えめな仕草に見えるけれど、その声にははっきりとした主張が滲んでいた。
それまで教科書を読んでいた先生の声が止まり、クラスのみんながルーを怪訝な顔で見つめる。
先生はというと、尻尾が小刻みに揺れているのが見えた。
猫族はみんな、イライラしているのが分かりやすい。
「ルーさん。訳の分からないことを言ってはいけませんよ。人間は私たち動物よりも劣った生き物です。だからこそ破滅したのですから」
先生は優しげにそう諭すと、教科書の続きを読み始めた。
ルーは不服そうに口を突き出したまま、視線を落とした。
「なあ、お前なんであんなこと言ったんだよ」
放課後。
足早に帰ろうとするルーを、飛んで追いかけてそう聞いた。
カンガルーは足が速いから、俺が鳥じゃなきゃとても追いつけなかっただろう。
ルーは昔からどこか他のやつと違う。
そんな所が、俺は気に入っている。
「ただ疑問だっただけだよ。みんな本物の人間なんて知らないくせに、好き勝手言ってるから」
「いや、お前だって人間のことなんて知らないだろ」
俺の言葉に、ルーは妙な顔をして口をつぐんだ。
そして意を決したかのように、俺の目を見つめる。
「来て」
ルーに言われるまま付いていくと、裏山にある廃屋に辿り着いた。
古びた扉を開けた途端、小さな生き物がルーに抱きつく。
ツルツルの腕と顔。
頭部にだけ生えている体毛。
これは——。
「一週間前に拾って、ここで育ててるんだ」
そう言ってルーは、その生き物の頭を撫でる。
すると小さな生き物は、短い鳴き声を発した。
その鳴き声には、まるで言葉のような旋律があった。
「人間ってさ、俺たちが思ってる以上に賢いと思うんだ」
ルーは何か確信めいた口調で、そう言った。
人間の小さな黒い瞳が、俺を見つめていた。
【解説】
カンガルーポーはオーストラリア原産の、かなり個性的な形の花です。
名前の由来は、カンガルーの足に似た筒状の花の形から。
産毛が生えていることもあって、本当に動物の足のようです。
学名であるアニゴザントスは、ギリシャ語で「不揃いな花」の意味。
そこから、現状に疑問を持つ異端さをイメージしました。
花言葉は「不思議」「驚き」「可能性」「好意」など。
ストレリチア同様、鳥が蜜を吸うことで花粉を運ぶ鳥媒花でもあります。




