アガパンサス【異世界恋愛】
旦那様と結婚したのは、五年前。
騎士団の中で要職に就いている旦那様は、任務の為に家を外すことが多く、共に過ごした時間は決して多くない。
元々政略結婚で、実家から追い出されるように嫁いだ身。
旦那様が家に居なかろうと、ほとんど会話をしたことがなかろうと、衣食住に困らず生活できているだけで、不満など何もない。
そう、思っていたのだけれど。
「奥様、旦那様からまたお手紙が届いています」
「えっまた!? 昨日のお返事も書けていないのに!」
事の発端は、半年前。
任務で足を負傷された旦那様は、珍しく家で数か月過ごされることになった。
一応日々穏やかに過ごせていることに感謝していたし、妻として夫の看病は必須だろうと、私はほとんど付ききりで世話をすることにした。
最初こそこれまで通り、まるで使用人の一人のように私に無関心だった旦那様が、なんだかだんだん変になってしまった。
「ドレスは足りているか?」
「好きな食べ物は何だ」
「そんなことはしなくていい。あなたの綺麗な手が汚れる」
急に私のことを知ろうとしたり、何かと気遣ってみたり、よく分からないことをする。
正直戸惑っていたところ、すっかり回復した旦那様は、また任務に出かけていった。
内心ほっとしていたのに、今度は手紙攻撃だ。
内容は旦那様の近況報告と、私がどうしているのか、元気にしているかといった大したものではない。
けれど、こうも頻繁に送られては返事が追いつかない。
「急いでお返事書かなくちゃね」
慌ててペンを取って、時候の挨拶から書きつけていく。
戸惑っているし、都度返事を書くのは大変だ。
けれど案外、嫌な気はしない。
自然と口角が上がっていくのを、私は気付かないふりをした。
【解説】
アガパンサスの名前は、ギリシャ語で「アガペー(愛)」と「アンサス(花)」を意味する言葉に由来し、「愛の花」とも言われます。
ヒガンバナ科の南アフリカ原産の植物ですが、アジサイとならび梅雨時期を彩る美しい花です。
英名では「アフリカンリリー」または「ナイルのユリ」と言い、花が小さなユリに似ていることから名付けられたそうですが、正直、似ているだろうか……? と疑問に思います。
花言葉は「恋の訪れ」「愛の便り」「ラブレター」「知的な装い」。
ギリシャ神話の虹の女神イリスの逸話からこの花言葉になったという説もありますが、それはアヤメとの混同な気がします。
むしろ「愛の花」からの連想と考えた方が自然でしょう。




