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花小説  作者: 九重ツクモ


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22/25

モナルダ【現代ホラー】

 あの人からはいつも、ベルガモットの香りがした。

 爽やかで誰からも好かれるあの香りは、まるであの人そのもののようだ。

 あの人の周りには、いつも自然と人が集まる。

 見た目も人柄も良ければ、当然のことだろう。

 蜜蜂が自然と花に吸い寄せられてしまうように、あの人は簡単に人を惹きつけてしまう。

 私もその、蜜蜂の一人にすぎない。

 けれどあのベルガモットの香りを嗅ぐと、途端に思いが溢れてしまう。

 もっと近付きたい。

 名前を呼ばれたい。

 その手に触れてみたい。

 あの人の瞳に、私だけを映したい。


 ——そして、閃いた。

 あの人を、私だけのものにしてしまおう。


 思い立ったら、もう止められなかった。

 あの人の後を付けて、家を見つけた。

 一晩かけてあの人が家を出るのを見届けてから、どうにか鍵をこじ開けて家の中に忍び込んだ。

 あまり使っていなそうなキッチン、少しだけ服が散らかったベッドを指先で撫でてから、クローゼットの中にそっと腰を下ろした。

 ベルガモットの香りが私を包み込んで、まるで、あの人に抱きしめられているみたい。

 夢見心地で目を閉じていると、玄関ドアが開く音がした。

 クローゼットの隙間からじっと見つめていると、あの人が部屋に入ってくるのが見えた。

 私は思わず微笑んで、手にしたライターで自分自身に火を付けた。

 火だるまのまま、あの人に抱き付く。


 ああこれで、一生、この人は私のもの。




【解説】

まるで火花が散っているように見えるモナルダの花。

その様子から、花言葉は「火のような恋」「燃える思い」「野生的」。

和名では松明花、矢車薄荷と呼ばれます。

別名ベルガモットとも呼ばれ、これはベルガモットオレンジのような柑橘系の爽やかな香りから。

個人的には、確かに柑橘やミントを思わせる爽やかな香りがするものの、匂いが強い訳でもなく、ベルガモットを名乗るのは少々烏滸がましいのではと思ったりします。

その爽やかな香りから「安らぎ」という花言葉も。

蜜蜂が好む蜜源植物でもあり、ビーバームという別名も存在します。

ハーブティーや精油にもなり、リラックスや抗菌を目的に用いられてきた歴史があります。

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