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花小説  作者: 九重ツクモ


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ヘリコニア【現代ファンタジー】

 詩壇に彼が現れた時、人々は驚愕した。

 異素材の布を継ぎ当てたような風変わりな服。インクのように鮮やかな朱色の髪。

 今時の若者然とした風体でありながら、彼の紡ぐ詩は繊細で、時に大胆で、独創性に富んでいる。

 千年に一人の逸材として、彼はやがて時代の寵児と呼ばれるようになった。

 彼が神話的な題材を好んだことから、世間は彼を「ホメーロスの化身」と囃し立てるようになり——


「いや、ホメーロスの化身って。そりゃそうだろ。ホメーロス本人なんだから」


 ソファに寝転びながら自身の特集記事を読んでいたホメーロスは、思わず鼻で笑った。

 興味を失ったように雑誌を放り投げ、気怠げに立ち上がり洗面所に向かう。

 鏡の前に立つと、その中の見飽きた顔と対峙した。


「もう三千年かあ。いい加減、生きるのにも飽きてきたな。そろそろ死なねーかな」


 三千年。

 それはまさしく、彼が生まれてからこれまで過ごしてきた、時の長さのことだ。

 古代ギリシャに存在した、永遠の命を持つ種族。

 幾多の災害や戦争でその数を減らしたが、今でも尚その命を繋いでいる者がいる。

 彼は、その一人だった。


「もっかい詩でも書いてみっかなと思ったのが間違いだったな〜。まじ鬱陶しい」


 髪型をいじりながら、ため息を吐き出す。

 いまいち髪が決まらず小さく舌打ちをすると、手元のスマホが鳴った。

 画面には、古い悪友の名が表示されていた。


「おーヘシオドスじゃん久々。百年ぶりくらい? なに後ろうるさ。え? 今クラブにいんの? えっ可愛い子いんの? ヘレネーくらい!? 行く行く!」


 ホメーロスは意気揚々と部屋を飛び出した。

 三千年の時を生きても、体はまだ衰えない。

 彼の人生は、もうしばらく続きそうだ。


【解説】

ヘリコニアは、バナナやショウガの仲間の植物。

ギリシャにある「ヘリコン山」が名前の由来です。

ヘリコン山とは、ギリシャ神話で詩や音楽、芸術を司るムーサと呼ばれる女神たちの聖地といわれる山。

詩人たちに霊感を与える泉もあるんだそう。

何故この花がヘリコン山と関係があるかというと、実はバナナの属名がムーサだから。

バナナの属名は人の名前から取ったもので女神は関係ないのですが、バナナの近種故の言葉遊び説が有力と言われています。

花言葉はその個性的な見た目のとおり「注目」「脚光」「風変わりな人」「独特な個性」。

赤い苞の見た目から、「ロブスターの爪」という異名もあります。

ロブスターは、脱皮で内臓まで新しくなってしまうため、「理論上の不老不死」と言われることもあるそうですよ。

ちなみに作中のホメーロスは「イーリアス」や「オデュッセイア」などで知られる古代ギリシャの有名な詩人です。

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