スカビオサ【現代恋愛】
「義姉さん。いつまで喪服を着るつもり。もう半年も経つじゃないか」
「私があの人を忘れるまで……かしら」
ぽつりと呟くように義姉さんはそう言って、仏壇で場違いに明るく笑う兄貴に目を向けた。
結婚して三年経っても、愚かな兄は女遊びをやめられずにいた。
俺の苦言などどこ吹く風。何度ぶつかったかわからない。
結局、兄貴は愛人の一人と旅行中に事故に遭い、この美しい人を遺して、あっけなく逝ってしまった。
そんな男を、この人はいつまでも悼んでいる。
「どうして」
「あの人を、愛しているから」
どうして。もう一度心の中だけで問う。
——俺なら、もっと大切にするのに。
口をついて出そうになる言葉を、そのままこくりと飲み込んだ。
「夫婦にはね、二人にしか分からない絆があるのよ」
何かを思い出すように、義姉さんは小さく笑ってみせる。
そう言われたら何も言えなくなるじゃないか。
はあと小さく息を吐いて、俺はさっき買ったばかりの包みを手に取った。
「何してるの?」
「義姉さん、花が好きだっただろ。兄貴が匂いを嫌がって、ずっと飾ってなかったけど。仏壇に置かなきゃ、兄貴も分かんないよ」
適当なコップに花を生ける。
ちらりと仏壇に目をやって、ことりと窓辺にコップを置いた。
義姉さんは驚きながらも、花を見つめて顔を綻ばせる。
この花が、義姉さんの心を癒せばいい。
「今度、花瓶を買いに行かない? 義姉さんの、気分がいい時でいいから」
いつまでもこの人の側に居よう。
彼女の心に、空席ができるまで。
【解説】
スカビオサとは、ラテン語で「疥癬」という意味。
これはかつて、スカビオサがかゆみを伴う皮膚疾患に有効だと考えられていたから。
今はその効果は否定されています。
花言葉は「不幸」「未亡人」「私は全て失った」。
この花言葉は、昔、伴侶を亡くした女性に紫のスカビオサを贈ったという欧州の風習からとも言われています。
悲しい花言葉の多いスカビオサですが、「無からの出発」というものも。
悲しみを乗り越え、もう一度人生を歩み始める。
そんな意味の込められた素敵な花です。




