ソラナム・パンプキン【異世界恋愛】
「ただいま」
「おかえりなさい。お仕事お疲れ様」
ぼろぼろのエプロンで手を拭きながら、私は彼を出迎えた。
擦り切れて袖口がほつれたシャツに、いくら洗ってももう元の色が分からなくなったパンツ。
輝かしかった彼の金髪は、今や土埃で汚れてくすんで見える。
目の前のこの人が、一年前までこの国の王子だったとは、誰も思わないだろう。
「ご飯ができてるわ。さあ温かいうちに食べて」
「いつもありがとう。そうだ。今日さ、弁当屋のノラさんに、可愛いかぼちゃをもらったよ。料理に使えないかな」
そう言って彼は、小さなオレンジ色の実をテーブルにごろごろといくつも置いた。
「ほら、艶やかで美味しそうだろう?」
「まあ。これはかぼちゃじゃないわよ。それに食用ではなくて、秋の収穫祭の装飾に使うものなの」
「そ、そうなのか……」
彼は目に見えて肩を落としている。
ここに来てから、彼はこんな姿をよく見せる。
いや。私と出会う前から、きっとそうだ。
性悪な男爵令嬢の色香に惑わされて、婚約者だった公爵令嬢に婚約破棄を迫った挙句、王から廃嫡された時も。
婿として男爵家に入ったものの、愛しの令嬢はあっさり彼を捨て、両親共々国を出てしまった時も。
路頭に迷い、追い剥ぎに遭いながら身一つで路上を彷徨っていた時も。
彼はこうして、肩を落とし、美しい顔を翳らせていたのだろう。
「すまない。本当に知らないことばかりで……。こんな僕を家に置いてくれる君に、少しでも恩返しができたらと思ったのだが……」
「いいんです。ほら、こうして窓辺に置いたらとても素敵ですよ。それに、今はきちんと働いてくれているし、十分助かってるわ」
私がそうやって微笑めば、この愚かな王子様は、また罪悪感の滲む微笑みを返すのだ。
そのなんとも情けない表情が、愛しくてたまらない。
きっと彼は知らないだろう。
この貧しくも穏やかな日々が、私のつまらない人生の中で、最も輝いているということを。
【解説】
まるで小ぶりなかぼちゃのような実を付けるソラナム・パンプキン。
しかしかぼちゃではなくナスの仲間です。
ソラナムとは、ナス属のこと。
アフリカなどでは食用に栽培されるものもあるようですが、日本では観賞用として流通しています。
花言葉は「ささやかな幸せ」「つつましい幸せ」「広い心」。
英名では「Pumpkin on a Stick(棒に付いたかぼちゃ)」と呼ばれます。
今回の作品は、ダリアのその後としてお読みいただいてもいいと思います。




