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花小説  作者: 九重ツクモ


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19/31

ソラナム・パンプキン【異世界恋愛】

「ただいま」

「おかえりなさい。お仕事お疲れ様」


 ぼろぼろのエプロンで手を拭きながら、私は彼を出迎えた。

 擦り切れて袖口がほつれたシャツに、いくら洗ってももう元の色が分からなくなったパンツ。

 輝かしかった彼の金髪は、今や土埃で汚れてくすんで見える。

 目の前のこの人が、一年前までこの国の王子だったとは、誰も思わないだろう。


「ご飯ができてるわ。さあ温かいうちに食べて」

「いつもありがとう。そうだ。今日さ、弁当屋のノラさんに、可愛いかぼちゃをもらったよ。料理に使えないかな」


 そう言って彼は、小さなオレンジ色の実をテーブルにごろごろといくつも置いた。


「ほら、艶やかで美味しそうだろう?」

「まあ。これはかぼちゃじゃないわよ。それに食用ではなくて、秋の収穫祭の装飾に使うものなの」

「そ、そうなのか……」


 彼は目に見えて肩を落としている。

 ここに来てから、彼はこんな姿をよく見せる。

 いや。私と出会う前から、きっとそうだ。

 性悪な男爵令嬢の色香に惑わされて、婚約者だった公爵令嬢に婚約破棄を迫った挙句、王から廃嫡された時も。

 婿として男爵家に入ったものの、愛しの令嬢はあっさり彼を捨て、両親共々国を出てしまった時も。

 路頭に迷い、追い剥ぎに遭いながら身一つで路上を彷徨っていた時も。

 彼はこうして、肩を落とし、美しい顔を翳らせていたのだろう。


「すまない。本当に知らないことばかりで……。こんな僕を家に置いてくれる君に、少しでも恩返しができたらと思ったのだが……」

「いいんです。ほら、こうして窓辺に置いたらとても素敵ですよ。それに、今はきちんと働いてくれているし、十分助かってるわ」


 私がそうやって微笑めば、この愚かな王子様は、また罪悪感の滲む微笑みを返すのだ。

 そのなんとも情けない表情が、愛しくてたまらない。

 きっと彼は知らないだろう。

 この貧しくも穏やかな日々が、私のつまらない人生の中で、最も輝いているということを。


【解説】

まるで小ぶりなかぼちゃのような実を付けるソラナム・パンプキン。

しかしかぼちゃではなくナスの仲間です。

ソラナムとは、ナス属のこと。

アフリカなどでは食用に栽培されるものもあるようですが、日本では観賞用として流通しています。

花言葉は「ささやかな幸せ」「つつましい幸せ」「広い心」。

英名では「Pumpkin on a Stick(棒に付いたかぼちゃ)」と呼ばれます。

今回の作品は、ダリアのその後としてお読みいただいてもいいと思います。

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