レッドジンジャー【現代恋愛】
朝日が頬のうぶ毛を明るく照らし、そこに残る昨夜の熱をじわりと溶かしていく。
素肌のまま彼の肩に頬を寄せると、大きな手が私の後頭部に回された。
「たぶん一目惚れだったんだよ。じゃなきゃこんなことになってない」
気怠げな空気を纏ったまま、彼は何度目か分からない台詞を口にする。
それはどこか、私に言い訳をしているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
昨日、全てを賭けて書き上げた小説が、最終選考に落ちた。
ただどこかに消えてしまいたいと街を彷徨って、気付けば、海に着いていた。
そこで、彼と出会った。
あの時の私はそのまま入水してしまいそうな雰囲気があって、引き留めるために声をかけたのだと、彼はそう言っていた。
決してそうしようとしたわけではなかった。
けれど、確かにあの時の私は、一人で居るべきではなかっただろう。
自然と彼に寄り添って、感情の赴くままに身を委ねたのだ。
「ねえ。僕のこと信じてくれる?」
服を着て、鏡の前で身支度を整えていたとき。
彼は後ろから私の左耳に触れたと思うと、そっとピアスを取り去った。
「明日の今頃、また海に来て。それまで預かっているから」
初めての給料で買った小さなダイヤのピアス。
思い入れというほどではないけれど、失くすには惜しい物。
一瞬躊躇して、私は鏡越しに彼の瞳を見つめた。
「わかった。信じる」
自分でも驚くほどすんなりと言葉が出た。
ほんの少し、彼の瞳が鏡の中で揺れた気がした。
そのまま彼とはホテルの前で別れた。
明日、また再会できることを、ほんの少しだけ期待して。
【解説】
レッドジンジャーは名前の通り生姜の親戚で、和名では赤穂月桃といいます。
花に見える部分は苞。カラーやクルクマと同じですね。
本当の花は、苞の隙間から顔を出す、小さく真っ白なものです。
南国原産らしい見た目同様、花言葉は「情熱」「一日だけの恋」。
また「あなたを信じます」というものもあります。




