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花小説  作者: 九重ツクモ


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17/26

レッドジンジャー【現代恋愛】

 朝日が頬のうぶ毛を明るく照らし、そこに残る昨夜の熱をじわりと溶かしていく。

 素肌のまま彼の肩に頬を寄せると、大きな手が私の後頭部に回された。


「たぶん一目惚れだったんだよ。じゃなきゃこんなことになってない」


 気怠げな空気を纏ったまま、彼は何度目か分からない台詞を口にする。

 それはどこか、私に言い訳をしているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


 昨日、全てを賭けて書き上げた小説が、最終選考に落ちた。

 ただどこかに消えてしまいたいと街を彷徨って、気付けば、海に着いていた。

 そこで、彼と出会った。

 あの時の私はそのまま入水してしまいそうな雰囲気があって、引き留めるために声をかけたのだと、彼はそう言っていた。

 決してそうしようとしたわけではなかった。

 けれど、確かにあの時の私は、一人で居るべきではなかっただろう。

 自然と彼に寄り添って、感情の赴くままに身を委ねたのだ。


「ねえ。僕のこと信じてくれる?」


 服を着て、鏡の前で身支度を整えていたとき。

 彼は後ろから私の左耳に触れたと思うと、そっとピアスを取り去った。


「明日の今頃、また海に来て。それまで預かっているから」


 初めての給料で買った小さなダイヤのピアス。

 思い入れというほどではないけれど、失くすには惜しい物。

 一瞬躊躇して、私は鏡越しに彼の瞳を見つめた。


「わかった。信じる」


 自分でも驚くほどすんなりと言葉が出た。

 ほんの少し、彼の瞳が鏡の中で揺れた気がした。


 そのまま彼とはホテルの前で別れた。

 明日、また再会できることを、ほんの少しだけ期待して。



【解説】

レッドジンジャーは名前の通り生姜の親戚で、和名では赤穂月桃といいます。

花に見える部分は苞。カラーやクルクマと同じですね。

本当の花は、苞の隙間から顔を出す、小さく真っ白なものです。

南国原産らしい見た目同様、花言葉は「情熱」「一日だけの恋」。

また「あなたを信じます」というものもあります。

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