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花小説  作者: 九重ツクモ


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15/25

チューベローズ【現代ホラー】

 津田くんからは、いつも良い香りがする。

 香水なのかシャンプーなのか分からないけれど、甘くて、でもどこかエキゾチックなあの香りを嗅ぐと、私は思わずうっとりしてしまう。

 背が高く凛としていて、どこか中性的な顔立ちは、まさに麗人という言葉がよく似合う。

 彼に告白した子の数は両手の指で足りないほどだというのに、津田くんの下の名前も、出身地も、どこに住んでいるのかも、誰も知らない。

 そんなところが津田くんの魅力でもあるのだろう。

 ある日の夜。

 ゼミの課題が終わらず、夜も更けてからキャンパスを後にすると、偶然、街で津田くんを見つけた。

 大学の外で津田くんを見るのは初めてで、もしかすると何か分かるかも、と、こっそり跡を付けることにした。

 騒がしい繁華街の路地をふいと曲がった津田くんを、私は慌てて追いかける。

 その瞬間、津田くんの真っ直ぐな視線とぶつかった。


「ねえ、どうして僕に付いてくるの?」

「ご、ごめんなさい」


 ただ謝ることしかできず俯く。

 そこで気付く。

 津田くんの香りが、妙に強く香っている。


「津田くん……?」

「もしかして、この香りに気付いてる?」


 その言葉に顔を上げれば、驚くほど近くに津田くんの顔があった。


「やっぱり。気付いてるんだ」


 にたりと津田くんが笑う。

 途端、咽せ返るような甘い香りに包まれた。

 呼吸すらままならないほどに。


(あ、食べられる)


 本能的に、そう思った。

 月が、恐ろしいほどに明るく輝いていた。



【解説】

香水などにも使われる、甘くエキゾチックな香りで人気のチューベローズ。

名前はラテン語の tuberosa に由来し、「塊茎のある」という意味。

地下部が塊茎状になることから名付けられたもので、薔薇とは関係ありません。

和名は「月下香」。夜になると香りが強くなる特性から名付けられました。

花言葉は「危険な快楽」「冒険」「官能的」。

いずれも芳しい香りにちなんだものです。

確かに、少し怪しげな印象のある香りがします。

原産地はメキシコとされていますが、野生で自生する姿は確認されていません。

長い栽培の歴史を持ちながら、野生の原種が見つかっていないという、どこかミステリアスなお花です。

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