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花小説  作者: 九重ツクモ


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14/25

ベニアオイ【現代恋愛】

「ごめん」


 目の前で頭を下げる彼の後頭部を見下ろして、私は諦めに似た落胆を覚えた。


「片桐っていうから、てっきり……」

「柚(ゆず)だと思った?」


 言葉に詰まる彼を見て、やはりと嘆息する。

 柚は同じ高校に通う従姉妹。

 明るく美人で、誰からも慕われている。

 密かに片想いをしていた彼に告白しようと、勇気を出して下駄箱に手紙を入れておいたのが、今朝のこと。

 彼は今日一日、目に見えて浮かれていた。

 だから、もしかして両思いなのでは……などと期待していた自分が恨めしい。

 なんてことはない。

 同じ苗字の柚からの手紙だと思っていたわけだ。

 きちんと『梓(あずさ)』と書いたはずだけれど、浮かれ過ぎて見間違えでもしたのだろう。

 誠実な彼らしく、誰にも手紙のことを話していそうもないのが不幸中の幸いだった。

 校舎裏に来た瞬間、残念そうに「あ、そっちか」と口走ったことに対してだろう、罪悪感の滲んだ顔が腹立たしい。

 逃げるように彼が去っていった後も、腹の虫はなかなか治らなかった。


「なんか面白いことやってんね」


 怒りに任せて校舎の壁を蹴り上げていたところ、後ろから声がかかった。

 思わず振り返ると、隣のクラスの西くんが居た。

 高身長。バレー部レギュラー。イケメン。

 全ての要素が、彼の学校での地位を明示している。

 西くんと会話をするのは、入学以来これが初めてだ。


「君、『じゃない方』の片桐さんだ」


 酷く失礼なことを言われているけれど、顔が良過ぎてそれどころではない。


「なんだ、全然可愛いじゃん」


 にかっと眩いほどの笑顔で西くんは言い放つ。

 ことん。

 いとも簡単に、新たな恋に落ちる音がした。

【解説】

ベニアオイはハイビスカスの仲間で、ローゼルとも言います。

花は確かにハイビスカスに似ていますが、雄しべの形状のせいか若干地味。

むしろベニアオイは花の後にできる赤い萼の方を楽しみます。

よく「ハイビスカスティー」として売られているものの正体は、この萼を乾燥させたもの。

ローズヒップとブレンドしたハーブティーが有名ですよね。

あのお茶の赤色は、ベニアオイの色です。

ベニアオイの花言葉は「新しい恋」「常に新しい美」。

これはハイビスカスにも共通する花言葉で、1日のうちに咲いては枯れる一日花であることに由来すると言われています。

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