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花小説  作者: 九重ツクモ


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12/27

ルリタマアザミ【異世界恋愛】

「絶対に侯爵様に逆らっては駄目。どんなことをされても黙って従いなさい。それがあなたの役目よ」


 お母様が強く掴んだ肩が痛む。

 今日は私の結婚式という名の、生贄の儀式だ。

 私が嫁ぐのは、残虐なことで有名な侯爵様。

 彼に嫁ぐのは本来お姉様のはずだった。

 けれどお姉様は、結婚式まであとわずかというところで、使用人の男と姿を眩ませてしまった。

 娘を政略の道具としか見ないこの家で、二人で肩を寄せあって生きてきたのに。

 自分が残虐侯と結婚することそのものよりも、お姉様に見捨てられたという事実の方が、ずっと辛い。


「もう時間よ! 早く行きなさい!」


 お母様にせき立てられて、白く重いドレスを引きずって教会へと向かう。

 教会からは『好奇心』と『嘲り』の匂いがした。

 きっと参列者たちが、姉の身代わりになった私を面白がって待っているのだろう。

 私は昔から、人の感情が匂いで分かった。

 特別鼻がいい訳でもないのに、感情の匂いだけははっきり分かる。

 この能力のおかげで、これまでもどうにか生きてきた。

 お父様やお母様の『苛立ち』の匂いを感じたら逃げることができたし、『侮蔑』の匂いがする人には近付かなかった。

 きっと、これからも何とかなる。

 そう自分に言い聞かせると、開かれた教会の扉から、一歩一歩祭壇の前で待つ侯爵様に近付いていく。

 それにつれて、嗅いだことのない匂いが漂い始めた。

 匂いの元は、侯爵様だ。

 てっきり『嫌悪』か『面倒』か、はたまた何も匂わないかだと思ったのに。

 この甘い花のような香りは、一体どんな感情なのだろう。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか侯爵様の目の前に来ていた。

 そっと侯爵様が私に手を差し出し、恐る恐るその手に自身の掌を重ねる。

 すると、一気に甘い香りが強まった。

 侯爵様の、瑠璃色の瞳と目が合う。

 その瞳には、どこか熱がこもっているようで。

 この得体の知れない香りを纏った侯爵様と、上手くやっていくことはできるのだろうか。



【解説】

アザミという名前ですが、アザミではありません。

葉に棘があり、アザミに似ていることからこの名前が付けられました。

別名はエキノプスといい、これはギリシャ語の「ハリネズミ」と「似る」が合わさった言葉。

ルリタマアザミの花言葉は刺々しい見た目にちなんだものが多く、「傷つく心」「鋭敏」など。

他にもひっそりと咲く姿から「秘密の恋」、青紫の色から「貴族」「権威」というものもあります。

主人公は匂いを「鋭敏に」嗅ぎ取っていましたが、ルリタマアザミ自体にはほとんど匂いがありません。

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