ヒマワリ【現代恋愛】
彼は今日も、カンバスに筆を走らせている。
自分の服が汚れることも厭わず、一心不乱に。
カンバスの中には、美しいヒマワリが咲き誇っているのが見えた。
カンバスの向こう側には、実物のヒマワリを生けた花瓶がある。
彼の目には、ただのヒマワリもこんな風に生き生きとして見えているのか。
私には、至って普通のヒマワリにしか見えないけれど。
きっと、彼と私では、目に見えるものが違うのだろう。
鮮やかな色彩と生命力に溢れる彼のヒマワリを見ていると、一度でいいから、彼の目で世界を見てみたいと思う。
「いつもそうしていて暇じゃないの?」
一度もカンバスから視線を外さないまま、彼は言った。
なんだ。私の存在を覚えていたのかという、小さな感動すら覚えた。
「いいの。絵を描いているあなたを見るのが好きだから」
「そう。ならいいけど」
短い言葉の中に、私の精一杯の愛情が隠れていることを、彼は気付いているのだろうか。
気付くわけない。彼はそういう人だ。
だからこそ、私は彼を愛するのだろう。
アトリエに、筆を走らせる音だけが響く。
このアトリエには、彼と、私だけが存在する。
それだけは確かだ。
【解説】
ヒマワリは薔薇やチューリップなどと並んで、誰もが知っている花の一つでしょう。
太陽に向かって首を振る向日性でも有名で、花言葉の多くはそれにちなみますが、これは蕾の頃まで。
花が咲くと東を向いて固定します。
基本の花言葉は「私はあなただけを見つめる」「憧れ」。
本数ごとでは、1本だと「一目惚れ」、108本だと「結婚してください」などロマンチックな花言葉が多い中、15本だと「ごめんなさい」、17本だと「絶望」になります。
色ごとに花言葉が変わる花はいくつかありますが、ヒマワリは花の大きさでも花言葉が変わるという珍しい花で、一般的な大輪のものは「偽りの愛」、小輪なものは「高貴」となります。
こうなってくると、結局目の前のこの花はどんな意味になるんだい! と腹立たしくなってきます。
ヒマワリというと、ゴッホをイメージする人も多いでしょう。
明るく前向きなイメージのあるヒマワリとは正直真逆の印象があるゴッホですが、「ひまわり」を描いた頃、彼はアルルでの生活に希望を抱いていたと言われています。
今回の作品は、そんなイメージを少し盛り込みました。




