スモークツリー【現代ドラマ】
教室の窓際に座る鳥の巣頭。
私は今日も、彼のことを見つめていた。
いつもは前髪で隠れて見えないけれど、実は丸くて可愛らしい瞳を持っていることを知っている。
私が彼に告白をしたのは、三日前の放課後のことだった。
『なんか……たぶん俺のこと勘違いしてると思う。やめた方がいいんじゃない』
その微妙な言い回しに、振られたんだと気付いたのは、彼が教室を出て行った後だった。
飄々としていて、他の人と連まず、自分の世界を持っている。
そんな彼がとてつもなくかっこよく見えて、振られてもなお、私は彼のことが好きだった。
けれど、それから半年と経たずに彼は学校に来なくなってしまった。
彼の名前を再び聞いたのは、卒業して五年目の夏。
彼が、遺体で発見されたというニュースを目にした時だった。
彼が母子家庭だったこと。
母親が男と姿を消してしまったこと。
四人の弟妹を育てる為、一人で働き詰めだったこと。
お金の為に危ないバイトを掛け持ちしていたこと。
最期は仲間割れの末、殺されてしまったこと。
全て初めて知ることばかりだった。
私は彼のことを何も知らないまま、ただ口先だけの愛を叫んでいただけだった。
ニュースはその後も、私の知らない彼のことを喋り続けた。
それから何年経っても、彼のことを忘れられない。
私の青春は彼の記憶と共に、苦いまま、いつまでも漂い続けている。
【解説】
スモークツリーの名前の由来は、ふわふわな煙のような姿から。
花自体は5mmに満たないほどのごく小さいものだそう。
花言葉は「煙に巻く」。
その連想で「賢明」というものもあります。
他にも、すぐに消えてしまう煙のように「儚い青春」。
作中では切なく表現してしまいましたが、「賑やかな家庭」という花言葉もあります。




