質疑
全てを見透かすような眼差しでこちらをじっと見つめられて、普通だったら嫌な気持ちになるのだろうが、何故か今は心地よかった。
目を逸らしたいのに、どうしても、目が離せなかった。
なにか質問はないかい?
彼はそう言った。
質問、ね、数え切れないほどあるさ、
「……おま、あなたは、、魔王、ですか?」
僕の質問に、彼は顔色ひとつ変えず答える。まるで、最初からこう聞かれるとわかっていたように、
「人間には、そう呼ばれているね、だから、まあ、うん。私は魔王。で、間違えないよ、」
「じゃあ、本当は何者なんですか?魔王じゃなくて、正式名称は、」
彼はまた微笑んだ。そしてまたすぐに返答を返す。
「わかっているんだろう?……そうだな、これもまた人間にこう呼ばれているだけなんだけど、天使、がいちばん近いかな。」
天使、、、神の使い、一体なんだってそんな存在が魔王なんてものをやっているんだ。
イサノは僕の横で黙り込んでいる。こういう時はいつだって僕任せだ。まあ、悪い気はしないが、、
恐る恐る、次の質問をする。いつ戦いになってもおかしくないのだから、
「大丈夫、今は危害を加えるつもりは無いよ。まだ質問があるんだろう?」
不意に彼はそう口にした。全てを見透かすような、ではなく。本当に全てを見透かしているようだ。
「………なんで、天使のあなたが人間を滅ぼそうとしてるんですか?」
「簡単さ、私たちは神の使い。神の命令に従うのみ、、、つまりね、神様が、人間を滅ぼす事を決めたからだよ。私たちはその意思を実行するのみ。」
「……は?」
ようやく絞りだせた声だった。それくらいショックだったのだ。どうやら、神様はハナから人間の味方なんかではなくて、つまり、僕たちの敵は、、、神?
「人間は失敗作だったんだ。こんなにも醜く、薄汚い心を持っている。すぐ争い、すぐ裏切り、すぐ傷つく。下等な生き物だ。そんなウイルスをこの世界から排除するために、神様は魔物を作った。いわばこの世界のワクチンだね。」
諭すようなその声に、心の奥底で僕は共感していた。
人間は醜い。そんな事この旅の途中で何度も何度も考えてきた。そして、この世界の人間を皆殺しにしようと思い立ったわけだ。
つまり、目的は一緒。
だが、
残念ながら僕とイサノは人間である。
いくら共感できたからと言って、僕たちのことを脅かすというのなら、僕たちの物語の邪魔をするというのなら、戦わなくてはならないだろう、、、
イサノが僕の服の裾を強く握った。
「でも安心してよ、神様は優しいからね。君たちにチャンスを与えた。一方的に魔物を解き放ち、君たちを蹂躙するのではなく、君たちが生き残るチャンスをね、、」
頬を流れる汗を誤魔化すように唾を飲んだ。妙に喉が乾いていることに気がついた。
「……それは?」
「……私を殺すことだよ。全ての魔物の王たる、この私をね。私を殺して君たちの種族の価値を示せば人類は生き残ることができる。私を殺せばこの世界から魔物は全て消えるからね。」
なるほどな、、、
「他に質問は━━━━━」
詠唱はなかった、一瞬で手を前にかざし、完全不意打ちの一撃を魔王に向かって放った。着弾と同時に爆発する予定だった僕の魔法は、魔王の魔力障壁によって吸収された。
「もう質問はないようだね、、、」
いや、聞きたいことはまだあるが、これ以上この言葉を聞くのは危ないと判断したまでだ。
自分でも制御できないほど、言葉で制される寸前であった。




