軋む音
今日までの長い旅で、僕は沢山のものを手に入れたつもりだ。強さも、仲間も、心も。
その中で、失ったものも多い。
だがそれにより僕たちはさらに強くなった。
それに、僕のすぐ隣には、僕の最も信頼できる味方がいる。
だから大丈夫だ。
大丈夫なはずだ。
今から数千年来の人類の天敵に、真っ向から戦いを挑む。いや挑むではない。殺す。
それでようやく、まだ始まってすらいない僕たちの物語が始まるのだ。
魔王を殺して、止まっていた時計の針を動かす。それだけだ。簡単なことだろ?
困ったことに、神殿の周りには魔力障壁が張り巡らされていて、建物を破壊することはどうやらできなそうだ。だからバカ正直に正面の入口から中へ侵入するしかない。
近づけば近づくほど、体の震えが大きくなっていくことに気がついた。鼓動が高鳴り、動悸が激しくなってゆく。
そして、やはり彼女も僕と同じ症状に苛まれていた。目を閉じて、小刻みにその小さな体を震わせている。その姿はあまりに弱々しく、そして儚かった。
イサノだけは守らなければ。という使命感を再認識すると同時に、抱きしめてあげたいという強い衝動に駆られた。
でもダメなんだ。
ここで彼女を抱きしめたら、僕はもう二度とここに入ることが出来なくなってしまうだろう。
戦うのが怖くなってしまう。
そう思ったのだ。
だから僕は、そっと彼女の手を握った。
その手は、冷たい外気とは裏腹に、とても暖かかった。こう言っては変かもしれないが、生きている。と、強く感じた。
そして彼女も、何も言わずに僕の手を握り返した。
今までにないくらいに、強く、
そうしていると、震えはいつの間にか無くなっていた、
気づけば、神殿の扉に手をかけられるほどの距離へと近づいていた。目の前の扉を1度でも開けば、もう後戻りはできない。もう旅を続けることはできない。戦わなくてはいけなくなる。死ぬかもしれない。怖い、、
でも、
始まってすらいない僕たちの物語を、今ここで始めるのだ。そのために、僕たちはこの扉を開かなくては行けない。
僕達は手を離した。
扉に手をかける。
ちょうつがいの軋む音が、僕たちの旅の終わりを告げる。少しの後悔と共に、勢いよく扉を押し開けた。
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……教会のようなその場所の、教壇の机の上にソレは腰掛けていた、、
ステンドグラスを通り抜けて色を変えた光が僕たちに降りかかる。目を細める僕たちに、ソレは微笑んだ。
「………やあ、」
言葉が出なかった、
これは、いや、
彼は、
なんといえばいいか、、、
……美しい。
魔王?これは魔王なのか?いや、魔王なんてものじゃない。
ああそうだ、これを形容するのにピッタリな言葉がある、、、
「天使、、、?」
その場を覆い尽くす白い羽を広げながら、彼はまた優しく微笑んだ。
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光を身にまとい、まるで彼は、この世の全てを味方につけているような、完全で、絶対的な存在であるような、圧倒的であるような、
雰囲気、とでも言うのだろうか、
いや雰囲気とは違うかもしれない。体の全てが、今までの経験が、直感が、
目の前にいる存在こそが、自分たちでは計り知れないほど高貴な存在であると、そう脳に直接訴えかけてきた。
「座って、話をしようか、」
ただ聞くだけで幸せになれるような、優しく柔らかい声で囁くと、彼は教会の長椅子を指さした。
不思議な感覚だ。
恐れや不安は既にどこにもなく、ただ、彼の言葉に従おうという決意だけが脳内に強く広がった。
僕たちが腰掛けるのをゆっくりとまったあと、彼は喋りだした。
「何か、質問はあるかい?」




