12.スライムは舞踏会に参加した(下)
「これこれ、どうしたの」
継母が貴族たちの間から出てきた。
妹が怒鳴ったから、貴族たちがどんどん集まってきている。
これは見ものだと思って、見物を始めたんだよ。
継母は妹とおそろいのピンク色のフリルとリボンでいっぱいのドレスを着ていた。年齢的に無理があると思う……。
継母を見たベルナールが小さく息を飲んだ。継母の格好に、すごく驚いているんだろう。
「あっ、あら、王太子殿下。嫌ですわ」
継母は顔を赤くして、身体をくねくねさせた。
そんな継母を見て、妹が舌打ちをする。
「わたくし……、結婚しておりますけれど、王太子殿下がどうしてもと言うなら……。人妻ですけれど、王太子殿下がそいういうのをお好きなら……」
継母は上目遣いにベルナールを見た。
ベルナールは小さく「うっ!」と声を漏らした。
ベルナールは今ちょっと吐きそうなんだと思う。
「そうですね。私もいつまでも独身というわけにはいきませんね」
ベルナールは妙にやさしい声で言った。
貴族がこういう声を出す時は、危険なんだよ。
スライムは娼館にバカ息子をお迎えに来た両親が、こういう声を出しているのを何度も聞いたことがある。
バカ息子たちの末路は、廃嫡からの幽閉か追放だった。
「一曲、踊っていただいても?」
ベルナールは継母に手をさし出した。
すごいな、ベルナールは。
王族というのは、貴族の上に立つだけある。
「おかしいじゃないのよっ!」
妹がいきなり継母を突き飛ばした。
継母は膨らませすぎているスカートのせいで、顔から床に突っ込んだ。
「お母様にはお父様がいるでしょ!? 王太子殿下は、わたくしのものよ!」
「選ぶのは王太子殿下ですぅー!」
継母は床でもがきながら、大人げない口調で妹に言った。
妹はいきなり、継母の頭を勢いよく蹴ろうとした。
さすがにそれはまずいと思って、スライムは妹の腕をつかんで止めた。
貴族の舞踏会で殺しはまずいと思うんだ。
見物人の間からお父様が出てきて、継母を立たせた。
継母は妹を睨みつけてから、スライムを見た。
スライムはベルナールの真似をして、にっこり笑ってみせた。
「あの女! その顔は、あの卑しい平民女!」
継母がいきなり叫んだ。
「えっ、誰!?」
妹の問いに、継母が「あなたは小さかったから、知らないでしょうけど」と説明を始めた。
「王太子様と先の王妃様に対して、なんという無礼な発言!」
スライムはまわりのみんなに聞こえるように、大きな声で言った。
スライムがこういう風に言ったら、みんなは継母がベルナールのことを言ったって思うよね。
ベルナールのお母様も、スライムのお母様と同じで『旅立ちの村』出身の平民なんだもの。
スライムはスライムのお母様も平民だって知っているけど、まわりの貴族の人たちは知らないはず。
きっと、みんな勘違いしてくれるよ。
「不敬である! 捕らえよ!」
ベルナールが前の騎士団長に合図を送った。
前の騎士団長は、元部下の騎士たちと共に、暴れるお父様と継母と妹を連れて大広間から出ていった。
「いきなり王太子殿下を侮辱するとは……」
「あの方たち、少しおかしかったですものね……」
あちらこちらで、貴族たちがささやきあう。
ベルナールは前に、即位してからお父様たちを断罪してくれるって言っていた。
だけど、予定よりずっと早く、三人を捕まえてもらうことができた。
「ベルナール、スライムも行くね」
スライムはベルナールの背中に話しかけた。
ベルナールは弾かれたように、スライムに向き直った。
「行く? どこへだ?」
「牢屋だよ。スライムもジゼロック侯爵家の者だもの」
王族に対する不敬罪は、重罪だよ。一族も連座させられる。
スライムは、お父様と継母と妹を罰してもらえたら満足だよ。
お母様に意地悪した人たちだもの、ずっと許せなかったんだ。
「ミシェル・ジゼロック侯爵令嬢の罪は、魔王討伐の功でもって不問とする!」
不敬を働かれたベルナールが、スライムを許してくれた。これで、スライムは罰せられないことが決まった。
「魔王を倒した勇者を罪に問うなどできぬ! そうだろう、皆の者!」
ベルナールが貴族たちに問いかけると、貴族たちが「その通りです、王太子殿下!」と口々に答えた。
「勇者様に栄光あれ!」
貴族たちがスライムに祝福の言葉をくれた。
スライムは本物の勇者じゃないけど、ちょっぴりうれしかった。




