12.スライムは舞踏会に参加した(上)
お着替えをしたスライムは、すごくかっこいいベルナールと一緒に大広間に行った。
もうすっかり夜になっていた。
大広間には貴族たちが大勢いた。
みんながスライムとベルナールをじろじろ見てくるから、すごく居心地が悪い。
もう帰っちゃいたいな……。
「王太子殿下、そちらのご令嬢はどなたですかな!?」
宰相様が駆け寄ってきた。
前の騎士団長も一緒だった。
二人はスライムを上から下まですごくじろじろ見てきた。
ええと……、たしかドレスを着ている時は、ひざまずかなくてよかったはず。
「ジゼロック侯爵家の長女、ミシェル・ジゼロック嬢だ」
ベルナールがスライムを紹介してくれた。
スライムはスカートをつまんで、二人にお辞儀をしてみせた。
「あの従騎士は女性だったのですかっ! いや、よかった! 女勇者だったのですかっ! 王太子殿下のためならば、男でも娶れるよう法改正するつもりでしたが! いや、実によかった!」
宰相様はベルナールの両手をつかんで、上下に揺らしていた。
終いには泣き出していて、かなり情緒不安定みたいだった。
「侯爵令嬢ならば、身分も釣り合っておりますね! すぐにでも婚約しましょう! こうしてはおれません! すぐに書類を作らねば!」
宰相様は走り去っていった。
スライムとベルナールを婚約させてくれるならよかった。
スライムは娼館で、貴族が婚約したとか結婚したとかで、恋人だったはずの娼婦を捨てるのを何度も見た。
スライムはベルナールに捨てられたら、きっとすごく辛いと思うんだ。
「女性に転生してくれてよかった」
ベルナールがやさしく笑いかけてくれた。
今夜のベルナールは特にかっこいい。
心臓がすごくドキドキするから、スライムはそっと胸を押さえた。
「王太子殿下ぁー! 王太子殿下ぁー!」
少し舌足らずな感じの声が、ベルナールを何度も呼び始めた。
ピンク色をしたフリルとリボンの塊が近づいてくる。
「王太子殿下の従騎士になったミシェルの妹ですぅ!」
貴族は『上位の者から話しかける』という決まりがあったと思うんだけど……。
娼館で姐さんに教わったことだから、間違ってたのかな……?
「兄が勇者を詐称して、申し訳ありませぇーん!」
金髪に大きなリボンを結んだ妹は、すぐそばまで来ると、ひざまずこうとした。
ベルナールがスライムから離れて、慌てて妹を止める。
スライムはそんなベルナールの後ろに付き従った。
「詐称ではない。やめてくれないか」
ベルナールが怒り抑えている感じの声で言った。
妹はなぜかスライムを見て、勝ち誇ったような顔をした。
「だけどぉ、兄のしたことだからぁ、お詫びしないといけないと思ってぇ」
なんのために語尾を微妙に伸ばしているんだろう……。
流行りなのかな?
他のご令嬢の話し方を確認して、あれが普通なのなら、スライムも真似しないといけないな。
「兄、か……」
ベルナールの声が怖い。
妹はベルナールの怒りがまったく気にならないみたい。
緑の目を見開いて、ベルナールをじろじろ見ている。
「無礼ですよ」
スライムは妹の名前を思い出せなかった。
妹だって人間なんだもの、名前くらいあるはずなのに。
「卑しい付き添いの侍女がっ! うるさいわよっ! 誰に意見しているつもりなの!?」
妹はスライムに怒鳴ってから、「ね、王太子殿下」と甘えた声で言った。
スライムはベルナールに言ったんじゃなくて、妹に言ったんだけど……。




