11.スライムはドレスに着替えた(下)
私も自分の身支度をするために、侍女たちを引き連れて衣裳部屋に向かった。
スライムのドレスが何色になるかわからない。
私は今、王太子と騎士団長を兼任している。
騎士団長の騎士服でも良かったが……。
転生前のスライムを殺した男と同じ姿というのは、よろしくない。
私はクローゼット内にずらりと並んでいる、王太子用のパーティー服を見つめた。
悩んだ末に、スライムの髪と同じ黒を選んで身につける。
軍服風の詰襟のパーティー服で、肩から斜めにタスキ状の布をつけるようになっている。
タスキ状の布は、スライムの瞳と同じ水色。
髪の毛も水色のリボンで一つに結んだ。
「これでは、スライムと婚約でもしているように見えるな……」
まあ良い。
私はスライムを娶る決心をしている。
スライムを他の男に任せるなど、とてもできないからな!
侍女たちは、立太子勲章や騎士団長勲章などの細々とした装飾品も付けていった。
勲章とは、国や王に尽くした功労者に与えられるはずのものだ。
この国では王太子になったり、騎士団長になったら、それを功労として勲章が与えられる。
こんなことで与えられて良いのだろうかと、前から少し疑問に思っている。
魔王を討伐したスライムのような猛者にこそ、魔王討伐勲章を与えたりするのが正しいのではないだろうか……。
魔王討伐勲章か……。
スライムに魔王討伐勲章をやるというのは、とても良い考えに思えた。
その功労をもって、我が妃とするのだ。
「女勇者というのは、都合が良いな」
スライムのことは『男のふりをして従騎士になった者』ではなく、『女勇者が私の従騎士になった』で押し通そう。
なんで女勇者が私の従騎士になどなるのか……?
そこはもう『王太子の従騎士だから』で誤魔化すしかない。
私はこの国一の頭脳と呼ばれて、賢者になった。
きっとなんとかなる。
スライムと再会してから、次々にいろいろありすぎて、頭が働かなくなってきているが……。
たぶん大丈夫のはずだ!
私が身支度をしたり、考え込んでいるうちに、スライムの元にドレスが届けられた。
「あら素敵!」
「すごいですね!」
スライムが着替えをしている部屋からは、侍女頭や侍女たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
あの様子からするに、ドレスは使える物であるようだ。
スライムが侍女頭に手を取られて、部屋から出てきた。
「なん……だと……!?」
田舎の娼館のおかみさんが選んだドレスではないのか!?
なぜ王都で流行りだしたばかりのデザインなのだ!?
流行の最先端である上に、スライムに似合っている。
バッスルスタイルと呼ばれる、スカート部分が後ろに大きく膨らんだデザインだ。
スライムの白い肌を、エメラルドグリーンのドレスが引き立てている。袖口や胸元は、黒色をした細かいフリルが縁取っていた。
一目でスライムのために作られたドレスだとわかる。
結いあげられた髪には、ドレスと同じエメラルドグリーンのリボンが編み込まれている。
「美しいぞ」
この国一の頭脳とまで呼ばれた私の語彙力が、死んでいる。
スライムを褒め称えるべき言葉たちよ、どこに行ったのだ!
「そう? よかった」
スライムは頬を薄っすら赤く染めた。
照れているらしく、うつむいてしまった。
かわいすぎるではないか!
「すごく美しい」
化粧をしたことで、スライムの美しさに磨きがかかっている!
こんなに美しい女性を、舞踏会になど出して良いのだろうか!?
男たちがスライムに群がってしまう!
「うん、ありがとう」
スライムが顔を上げて、私にほほ笑んでくれた。
指輪だ! 指輪を調達しなければ!
今すぐひざまずいて、指輪の入った箱を開けてみせて、我が妃となってくれるよう懇願しなければ!
「実に愛らしい」
言葉が出てこない!
こんな時は、花が良いのではないか!?
花束を用意しておくべきだった!
スライムの前でひざまずいて、花束を捧げなければならなかった!
「ベルナールもかっこいいよ」
「そっ、そうだろか!?」
返事を噛んでしまった!
なんなのだ、『そうだろか』とは!?
そこまで動揺することか!?
「うん、とっても素敵だよ」
その笑顔は、会心の笑みか!?
愛らしすぎる!
スライムを見ているだけで幸せだ。
こんな幸せがあったなど知らなかった。
これまでに引き合わされてきた令嬢たちには、一度として感じたことのない不思議な気持ちだった。




