↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

13.王太子はスライムと結婚したい

 ジゼロック侯爵らが連行されて、しばらくしてから、父上と王妃と第三王子が大広間に入ってきた。


 私はスライムを伴って三人のところに行った。


 スライムと共に、三人への挨拶を済ませる。


「先ほど、ジゼロック侯爵家の三人を、私に対する不敬罪により捕らえました」


 先ほどの件は、父上には報告しておかねばならないだろう。


 母上に対する不敬罪でもあったが、そちらは王妃がいるので黙っておいた。


 いずれ知れるかもしれないが、ここで私から聞かせる必要もないだろう。


「良きに計らえ」


「はっ、そういたします」


 父上はご興味なさそうだ。


 街中にまで魔王が入り込んできたのだ。


 舞踏会で起きた一貴族による不敬罪のことなど、考えたくもないのだろう。


 父上のお許しが出たのだから、好きにさせてもらおう。


 先ほどの三人のみを、絞首刑とする。


 スライムは、ジゼロック侯爵家の女当主に据える。


 私がジゼロック女侯爵であるスライムを娶る。


 その後は、ジゼロック一族のまともな者に侯爵位を継がせて、私とスライムの役に立ってもらう。


 よし、完璧だ!


「その後ろに控えている娘は、どこの令嬢か?」


 王妃が閉じた扇の先をスライムに向けた。


 私はスライムをふり返り、その手を握った。


 私が笑いかけると、スライムはかすかに頬を染めてうつむいた。


「ジゼロック侯爵家の長女、ミシェル・ジゼロック嬢です」


 私はスライムを自分の横に立たせた。


 スライムは貴族の令嬢としてのふるまいも完璧だった。娼館には貴族も訪れるからだろうか。


「ジゼロック侯爵家は、不敬罪で騒ぎを起こし、捕らえられたのではなかったのか?」


 王妃は嫌味ったらしく言ってから、スライムを値踏みするように見た。


 私もスライムを見ると、スライムは困ったような顔をして私の目を見返した。


 スライムの水色の目は、転生前の水色のプルプルしたスライムを思い出させる。


 私は今度こそ、この者と離れたりはしない。


「ミシェル嬢は魔王討伐の功により、罪を免れました」


「ああ、あの従騎士は女だったのか」


 王妃はスライムに興味をなくしたように見えた。


 スライムが男ではなくて、さぞや残念だっただろうな。


『男が相手では跡継ぎが作れない』と主張して、私を廃位したかっただろう。


「そろそろ失礼して、民たちにダンスを見せてきます」


 民を喜ばせることも、王太子の役目だからな。


 私はスライムの手を引いて、大広間の中央で踊っている人々のところに行った。


 私がただの一貴族であったなら、この場でスライムに求婚したかった。


 スライムをすぐにでも王太子妃にしたいが、さすがにそれは難しいだろう。


 ここでまたスライムに『娼婦にするようなことはダメ』だのと言い出されたら、話がこじれてしまう。


 まあ……、宰相があれだけ張り切っていたのだ。


 近いうちに、私とスライムの婚約式から結婚式まで、一通りの儀式が行われることだろう。


「スライム、踊ろう」


 私はスライムの手を握り、腰を抱いた。


 スライムはダンスにも慣れているだろうに、ひどく驚いたような顔をした。


「どうした?」


「えっ、えと、ええとね、女性の方を踊るの、久しぶりだから」


 スライムの顔が真っ赤になった。


 私は愛らしすぎるスライムを抱きしめそうになった。


 いや、ここでそれはいけない。


 まだ婚約すらしていない。


 私は湧き上がる衝動を必死で抑え込んだ。


「スライム、私のお嫁さんになってくれないか?」


 私は言葉を選んで伝えてみた。


 スライムの気持ちも聞いておかねばならないからな。


 私にだって、それくらいの理性は残っている。


 我が王国一の頭脳はだいぶ死んでいるがな……。


「スライムが……、ベルナールのお嫁さん……?」


「ああ、お嫁さんだ」


「それって、ベルナールとずっと一緒にいられるってこと?」


「ずっと一緒だ」


 死ですらも、私たちを引き離すことはできないだろう。


 スライムの顔がさらに赤みを増した。


 さすがに『お嫁さん』がなにかは、知っているようだ。


『お嫁さん』すらよく知らないのではないかと、だいぶ不安だったのだ。


「スライムでいいの……? 水色のプルプルしたスライムだよ」


「もちろんだ」


 今はまったく水色のプルプルしたスライムではないしな!


 さすがの私も、水色のプルプルしたスライムならば、妻に迎えたりしない。


 あのスライムのままなら、侍従にして、常に付き従わせただろう。


「逆に、今は、水色のプルプルしたスライムじゃないけど、いいの……?」


「もちろんだ。私は今のスライムをお嫁さんにしたいのだ。スライム……、好きだぞ」


 これでスライムの不安を拭えただろうか。


 愛しているとまで言った方が良かったか?


 スライムは娼館でいろいろなことを見てきたらしい。


 今では、愛など信じないような人間になっているかもしれない。


 だから、愛を語りはしなかったのだが……。


「じゃあ、スライム、ベルナールのお嫁さんになる」


 スライムは耳の先や首まで真っ赤にして、小さな声で答えてくれた。


 私も自分の顔が熱くなっているのを感じた。


 さらに、鼓動もだいぶ早い。


 断られるとは思っていなかったが、それでも緊張していたようだ。


「人間になって、ベルナールに会ってから、スライムおかしいの」


「なにがだ?」


「心臓がすごくドキドキするの。顔もすごく熱くなるの」


 私はダンスをやめて、スライムを強く抱きしめた。


 踊っている者たちが、私たちを避けて通っていく。


 多くの者たちに見られているとわかっていた。


 私はその場でひざまずき、スライムの手を取った。


「ベルナール?」


「改めて申し込む。私のお嫁さんになってほしい」


 私はなんと無粋な男だったのだろう。


 ダンスをしながら訊いてみることではなかった。


 私が見上げると、スライムは茹ったように赤くなっていた。


 実に愛らしい。


「はい」


 スライムは一生懸命にお返事してくれた。


 やっぱりお話ができるのは良いな。


 大広間ではいつの間にか音楽が止んでいた。


 人の声すらしない。


 私は立ち上がると、真っ赤になっているスライムを抱きあげた。


 こんなかわいい顔を、他の者たちに見せてやりたくない。


 私は大広間から早足で出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。