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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第1章]ジャーナリストじゃない僕
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(3)蟻地獄にて……

 かくして、僕は、蘭花と肩を並べて部活動棟への渡り廊下を歩いているわけ。

 小柄な割に歩くペースが速く、僕は、やや早歩きでついて行く。

「キミは、川上……、薫君で良いねっ。あたしのことは、蘭花って呼んで良いよっ」

 蘭花は、ああ、この笑顔を向けられたら、恋愛未経験者ならすぐに恋に落ちてしまうな、と言うような笑顔で僕を見た。

 その間、僕は、『市ノ瀬蘭花』という名札の情報から、二年生の実力テスト第一位に名前が載ってた事と、DMZ同好会という部活の部長で、新歓イベントの時にオリジナル曲を発表していたと言うことを、脳内データベースから引き出していた。

「や、僕のことはともかく、……先輩のことは無理っす」

「えー、じゃあ何で? あり得ないし~」

 蘭花は口をとがらせた。

 あり得ないとか、意味不明だし。

 蘭花と呼べって言われたって、実際、先輩を呼び捨てに出来るわけがない。

「てかさぁ、薫君、何であんな所に居たの?」

 蘭花は、当たり前の疑問を口にする。

「ああ、えっと、部活どこにしようか考えていて、そしたら先輩が入ってきてですね~」

 本当のことを言えるはずがない。

 ……失態その二。だが、この嘘が、さらにこの後の事態をややこしくしたことに、僕は気づいていなかった。


「そっか~。で、どこの部活に行こうとしてたの?」

 何で音楽準備室で? 等と聞くことはなく、はにかみながら、蘭花。

 学年一位の頭脳だから、いつ嘘がばれるかとヒヤヒヤしてたが、案外天然なのかも知れない。

「えっと、UFO研か、超自かどっちかですね~」

 あ、お世辞でもDMZ同好会を入れておくべきだったかな。

「ふ~ん。そうなんだぁ~。超自とUFOね……」

 蘭花は、何度も頷いた。

 ……そして僕の失態その三。ここで僕の入部希望先を教えてしまったこと

 そう、夏美とのことを見られていなかった、と言う安心感から気を許してしまったのだ。

 程なくして、蘭花と僕は『DMZ同好会』と書かれた木製のドアの前に立った。

 しかし、蘭花は、ドアを開ける様子もなく、何か右手を挙げたり、手を開いたりしている。

「先輩、入らないんですか?」

「ちょっと待って!」

 蘭花は、前を向いたまま、短くそれだけ言うと、おかしな身振りを続ける。

 程なくして、カチッと金属音がし、扉が少しだけ開いた。

「さっ、むさ苦しいところですが、どうぞ~」

 蘭花は、にこやかな笑みを僕に向けると、ドアを開き、ぐいっと僕を部屋に押し込んだ。

「裕樹ぃ~。部員一名ゲットしたぞ~」

 ……え?

「って、……え?」

 慌てて振り返る僕を不敵な笑みで見つめ、後ろ手にドアを閉める蘭花。

 ……はめられた!

 笑みの種類も、ドアを開ける前は、爽やかで可愛い先輩って感じだったのに、今目の前で口の端を上げている蘭花は、もはや、猫を撫でている的な地下組織のボスそのもの。何かを企んでいる笑みに変わっていた。

 そう、ニヤリって言葉がこれほど似合う女子高校生は他にいないだろう。

 ニヤリグランプリ間違い無しだ。

「やあ、初めまして~。これで被害者三人目かぁ~。さすが蘭花。部長としての責務を全うしてるねぇ」

「被害者とか言うな」

 蘭花が睨む先を振り返ると、長身の二年生が、ニコニコしながら僕を見下ろしている。

「僕は南条裕樹。今日から同じ部員だし、裕樹で良いよ~。あ、でも、上級生に呼び捨ては厳しいかもだね。まあ、お好きにどうぞ」

 ああ、何か似たもの同士が居る。てか、部員って確定してるし。

 ふと視線を移すと、壁際にソファーがあり、まるで、誘われてついて行ったら英会話の教材の契約をさせられました、って感じでうなだれている同学年の女子一名、男子一名が座っていた。

 ……確かに、被害者、計三名って所か

 いや、僕はまだ入部書類にサインしてないし、セーフだな。

「ぼ、僕は、べっ別に……」

「裕樹。薫君はねぇ、UFO研と超自だって~。あ、櫻井と大山んとこね~」

「おっけ~。櫻井先輩と大山先輩ね」

 裕樹はそう言うと、にこやかな笑みで、奥にあるPCを操作し始めた。

 大山先輩の説明は、もういいよな。何事もなければ、僕の部長になる予定だった人だ。

 それにしても、あの(僕にとって)偉大な先輩を呼び捨てか……。

 僕は、徐々に蘭花の恐ろしさを知ることになる。


「あの、僕は入部希望じゃなくって……」

 そうそう、例のビデオ、あのビデオを確認しないとだ。

「薫君さぁ、これ、な~んだ?」

 蘭花は、僕に取り合わず、相変わらずの不敵な笑みで、僕の目の前に何やら細かい文字やグラフが印刷された、B4大の紙をかざす。

 二歩後ずさったところで、焦点が合った。

「えっと、『一学年 春期実力テスト[数学]』……って、えええええ?」

 春期実力テストって、今度の連休明けに開催されるテストじゃないか!

 何で、それがここに?

 蘭花は、満足げな笑みを浮かべると、

「見たよね? 今、薫君、見たよね?」

 僕の顔をのぞき込んだ。

 ……失態その四。蘭花が見せる書類を何の疑いもなく見てしまったこと。

「おっ、薫君は、我らがDMZ同好会の最高機密事項を見てしまったか~。DMZ規則第二条、機密事項漏洩は銃殺だし。こりゃ、もう、生きてここを出られないな~」

 混乱する僕に、わざとらしい身振りをし、楽しげな声を上げる裕樹。

 てか、DMZ規則第二条って何?

 そんな校則あったっけ?

 一体、何が何だか……

 蟻地獄って、あるよな。

 そこに落ちていく蟻って、こんな気持ちなのかな。


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