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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[終章]蘭花と僕と……
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(2)校長室で判決的な

 と言うわけで、少し時間をさかのぼって、土曜日の夕方。

「……君もかばい立てすると、同罪になるよ?」

 目の前の中年のおっさんが、僕を意地悪く(そう見えるから仕方ない)睨み一息つくと、

「えーと、一ー進二、川上薫君」

と、書類に目を落としながら言った。

『一ー進二』とは、『一年進学コース二組』ってことだ。

 そんなことはどうでも良いか。

 話さなきゃいけないことは、今、僕が、すべからくして窮地に陥っているって事だな。

 ちなみに、僕の名を、フルネームで淡々と読み上げるおっさんは、この学校の教頭だ。

 かつら疑惑が生徒の間で持ちきりだ。

 これも、どうでも良い情報だな。

 教頭の後ろに、なかなか落ち着いた感じの黒い大きな木の机があり、その奥に初老の男性が座っており、一部始終口を閉じたまま、こちらを見ている。

 僕の記憶が正しければ、確か校長だ。

 まあ、『校長室』に連れてこられたのだから、奥に座っているのは校長に決まっている。


 ん?


 確か、以前に全く同じこと説明したよな。

 デジャヴか?

 だが、僕はそれがデジャヴでない証拠を見つけた。

 僕の横に、同じく直立不動で佇んでいる、セミロングの黒髪に薄緑色の高山学園の制服を着た小柄な少女は、僕が知る限り蘭花で間違いないであろう。

 前回は、僕一人だったはずだ。

 はっきりと思い出したぞ?

 ああ、そっか、今回の騒動は、僕が停学になるところから始まったんだな。

 思わず口元に笑みがこぼれる。

「何が可笑しいのかね。川上薫君!」

 教頭が僕に向かって威嚇する。

 小さい小さい。

 表情を改めると、教頭は、ふんっと言う感じで僕を再び睨み、次に、蘭花の方を向く。

「市ノ瀬蘭花君、そろそろ正直に言い給え。パスワードは何かね」

 蘭花は黙ったまま、校長を見ている。

 蘭花は、あのとき言っていた。校長は味方だと。

 だから、そのときを待っているのだ。

 この物語に終止符を打ってくれる、その言葉を。

 僕もよく分からないが、要するに教頭が犯人なのだ。

 だから、蘭花を消そうと画策した。

 しかし、その作戦が失敗に終わったため、教頭は作戦を変えることにした。

 つまり、罪を蘭花に着せてしまおうと言うわけだ。

 教頭は、蘭花と校長の関係を知らないから、蘭花にとって、校長は最後の砦ということ。

 その校長が少しため息をつき、口を開いた。


 よしっ!

 やっと来た!

 本当にここまで長かった!


 僕の中で、エンディングのテロップが流れ始める。

 しかし、そんな僕の耳に入ってきたのは、信じられない言葉だった。

「市ノ瀬君。君は成績も良く、必ずや良い学績を残してくれるものと思って期待していたのですが、……正直、残念です」


 は?

 えっ?

 何言ってるの?

 この人。


 脳内のエンディングテロップが止まり、僕の目が、いきなり現実の景色を映し出す。

『ありえねー』と思っている僕とは対称に、蘭花は落ち着いた様子で校長を見ている。

「教頭先生の仰ることが事実だとしたら、さすがに私も断腸の思いで、君を処分せざるを得ない。せめて、自分の罪を反省しているのなら、協力してください。多少の情状酌量の余地は残っていますからね」

 うおいおいおいおいおいおい!

 蘭花は何で黙っているんだ?

 僕の魂の叫びに気付くはずもなく、校長は続ける。

「何事も、一歩一歩着実に前へ進むことが大事。初めから終わりまで、一歩前進。全ては、日々小さな努力を積み重ねた結果。全て、小さなね。だけど、初めて成し遂げたときは大きな喜びとなるでしょう。初めての時は、大きい。そうは思いませんか? 蘭花君。加えるなら、もう十六でしたよね? 十分物事の分別が付く歳だと思いますが?」


『蘭花君』だって!

 何だよこいつ!

 蘭花の味方じゃなかったのか?


 これじゃあ、まるで……。

 やっぱり、大人は信用できない。

 僕が憤る隣で、しかし、蘭花は口の端を上げた。

「はい。仰るとおりです。でも、私も、無実の罪を被ることは出来ません。大切な後輩の人生も賭かっています。ですから――」

「こんな明確な証拠があってもかね? これは、君達の部室のPCに入っていたデータだね? 調べはついているんだ」

 教頭が蘭花の言葉を遮る。

「それは……確かに」

 口ごもる蘭花。

「校長! もう、罪は明白です。私は、彼女に対し、退学を要請します」

 げっ! た、退学ぅ?

 僕は、『停学』よりも重い言葉に、目の前が一瞬真っ暗になるが、それよりも強く沸き上がる感情によって、すぐに意識が覚醒した。

「まあまあ、教頭先生。処分などいつでも出来るでしょう。それよりも、そのメモリーに入っているのは、確かに彼女達の問題が分かる内容なのですか?」

 校長は、教頭の方を向く。

 白々しいぞ!

 蘭花が言っていた。

『校長に渡されただけだ。中身は知らない』って。

 だから言ったじゃないか!

 校長もグルだって。

 蘭花も、たまには僕の言うことを聞いておけば!

 こうなったら、やけくそだ。

 正義の鉄槌を下してやる!

 上等だ! どうせ、退学だろ?

 僕が拳を握りしめ、怒りにうち震えていると、蘭花が僕の拳をそっと握った。

「!」

 振り向いた僕が見た蘭花の目は、確かに言っていた。

『あたしに、まかせてっ』と。

 いつもの、全てが自分の手中にある時の、好戦的な目。

 この期に及んで、何か作戦があるというのか?

 最後の砦は、既に無くなっているんだぜ?


「はい、確かに。全く色々手の込んだプロテクトが掛かっていて、正直解読に時間を要しましたが、何とか解読できました。あとは、このパスワードさえ分かれば、彼女らが如何に汚い犯罪に手を染めていたかが、おわかりいただけると思います」

 教頭が校長に答えている。

 最低の茶番劇だ!

 校長は、蘭花を見た。

「市ノ瀬君。そういうことだから、パスワードを教えてくれませんか? なに、協力してくれれば、悪いようにはしませんよ。私に任せておきなさい」

 ぬわぁ~にが、『任せておきなさい』だ!

 言ったが最後、全ての罪は蘭花に着せられ、校長と教頭は今後も大手を振って生きていくというわけだ。

 学生の言うことなど、世間は相手にしない。

 悲しいが、それが現実。

 絶対に言っちゃ駄目だ!

 僕は、蘭花に視線を送る。

 しかし、蘭花は笑みを浮かべたまま、教頭を見、

「わかりました。白状します。パスワードは、エス・ビー・オー・エル・ビー・ニイ・ナナです。あ、最初だけ大文字で、あとは全て小文字です」

 それだけ言うと、再び校長を見た。

 校長が頷く。

 あちゃ~! 言っちゃったよ。本当に、何か作戦があるんだろうね?

 てか、何満足そうに頷いているんだ、校長の野郎!

 僕がどちらを先に殴り飛ばすか悩んでいる前で、教頭はPCを操作し、文書を開く。

『文書を開くにはパスワードが必要です』という画面が出たところで、突然校長が口を開いた。

「教頭先生。確認しますが、そのファイルには、えっと、何が入っているんでしたっけ?」

「はい、彼女らがリークした、今年度の入試問題が入っています。今、ご覧に入れます」

 教頭の鼻息が荒い。

 校長が立ち上がり、教頭のそばに向かう。

 蘭花と僕も、恐る恐る画面を覗く。

 パスワード入力ウィンドウに、『*』が七つ表示される。

 教頭が、『OK』をクリックする。

 ウィンドウが消え、砂時計のアイコンが表示された後、文書が表示された。

 僕は、ごくりと生唾を飲み込む。

 鼓動は最頂点に達し、気のせいか目眩がする。

 万が一の時は、あのPCを破壊して逃げよう。と、僕が身体を緊張させたとき、

「は? え? これは?」

教頭が、素っ頓狂な声を上げる。

 僕が何事かと身を乗り出すと、文書のタイトル部分が目に飛び込んできた。

『第十二期生 学習指導計画』

 その下に、ずらずらと細かい表が現れる。

「ばかな!」

 教頭が、マウスを慌ただしく操作する。

 しかし、どれだけ送っても、同じような表が表示されるだけ。

「なぜだ! リソースIDもタイムスタンプも確かに同じだったはず……」

 意味不明のことをぶつぶつ言いながら、教頭が、やけくそになり、マウスを繰り返し操作していると、白紙のページが表れた。

 画面を送っていくと、突然二四ポイントぐらいの赤文字が表れる。


『おめでとう! これを見ているあなたが、犯人です。校長より』


 あははは、何てベタな告知文……。

 蘭花も僕の横でプッと吹き出す。

 しかし、一人だけ笑えない犯人――教頭――の顔色が、真っ赤になり、その後青くなり、更に白くなる様子が、端から見てもよく分かった。


「……さて、教頭先生」

 教頭の肩が、ピクッと動く。

「かねてより疑問だったのですが……、本件は、非常にシビアな問題でしてね。生徒への影響もありますから、中途半端に外部に情報が漏れるのも困りますし、私も極秘裏に、独自で調査していたのですよ。別に、訴えもありませんでしたからね。つまり、本件は、私しか知らないはずなんです。理事会でも報告してませんしね」

 校長は軽く息を吐く。

「……もちろん、彼女らもファイルのことなんか知りませんよ? この場でも、私は一言も言っていませんしね。それを、教頭先生は何故ご存じだったのかと言うことです」

 校長は、何かを思いついたように表情を動かすと、ぽんと手を打った。

「ああ、そうそう、そうでした。確かに、全教員のPCを判りやすくハッキングしたように見せかけました。DMZにいるパソコンマニアの生徒が、データを盗んだかのようにね。ですから、後一人、知っているはずの人物がいました。それは……」

 校長は、ちらりと蘭花と僕を見た。

 緊張する僕。

「データを持っていた張本人。……犯人ですよね。やはり」


 少しの沈黙の後、校長は付け加える。

「あと、何か警察の方が、教頭先生にお伺いしたい事があるそうです。私も、『そちらの件』については皆目見当がつきませんが、何かお心当たりがあるのでしょうか?」

 相変わらず口元に笑みを浮かべながら飄々と言っていたが、最後の台詞を言うときに校長の目つきが鋭くなったのを、僕は見逃さなかった。


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