(6)想定外
「ところで、教頭先生はどこに行ってるんでしょう?」
腕の血が止まらないように、たまに手を動かしながら、先ほどから疑問に思っていたことを口にする。
「多分、職員室ね。あれの中身を確かめるためにね」
「教頭先生がってことは、やっぱり校長先生もグルなんでしょうか?」
僕の問いに、蘭花はこちらを向く。
「校長は、違うわ。どちらかと言えば、あたし達の味方ね」
先ほど教頭は、僕を縛り上げ、蘭花と共に窓際に座らせると、蘭花から取り上げたエアガンで狙いながら、『妙な考え起こすんじゃないぞ?』と言い、気を失っていた生徒をひっぱたいて気付かせ、外に出て行った。
因みに、エアガンの安全装置が入ったままだったが、だからといって奪いに走る間に、包丁でも振り回されたらコトなので、僕達は大人しく従っていた。
その後、ガチャガチャと鍵を掛ける音がし、靴音が遠ざかっていった。
この教室、中からは鍵を開け閉めできない構造になっているわけ。
つまり、閉じこめられたってこと。
「それにしても、教頭遅いですね」
「ん~、まあ、あのデータ見るのも骨が折れるだろうしね」
蘭花は、僕と同じくドアの方を見ながら呟く。
「え?でも、偽装は解除したんじゃないんですか?」
驚いて振り向くと、蘭花が曖昧な笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
「あのね、偽装は、あたしが生徒会の奴らにばれないようにするために裕樹にやってもらったの。犯人には、別のトラップが仕掛けてあるみたいね」
笑みを浮かべているが、落ち着いた声で答える蘭花。
少しの後、
「まあ、校長に渡されただけだから、あたしもさっぱりだけどね」
蘭花は首を戻し、ため息と共に呟いた。
ん?
僕は何かを思い出しそうになったが、再びもやの中に消えてしまった。
ここで、再び蘭花は深いため息をつくと、身体を少し動かした。
衣擦れの音がしたので僕が首だけ動かすと、蘭花は身体ごとこちらに向け、神妙な面持ちで少しの間僕を見ていたが、
「……まあ、この先どうなるか分からないし、もし、殺されちゃったら、薫君も成仏できないだろうから、正直に言うわ」
と、なにやら凄いことをあっさりと言った。
「僕達、その、……こっ、殺されるんですか?」
僕の声がうわずる。
「まあ、最悪はね。それだけの情報だから」
期待通りの反応に満足したのか、蘭花は面白そうに僕を見ていたが、再び口を開く。
「いい? 聞いたことを、おもしろ半分にリークするのも自由。だけど、その結果について、自分で責任は取ってね? もし、自信がなければ、ここで断って」
何やら、やば気な情報らしい。
だけど、僕は決めたんだ。蘭花の全てについて、受け入れ、理解すると。
「分かりました。覚悟して聞きます」
蘭花は頷く。
「入試の問題が不正流出するって話、たまにニュースとかで出るじゃない?」
「はい、確かに……って、え?」
蘭花の言葉を危うく聞き流しそうになった僕は、蘭花が再びとんでもない事言っていることに気付く。
確かに、その類のニュースはたまに報じられ、ちょっとした社会問題になったりする。
でも、まさか、この学校で?
今年?
僕が受けた年に?
「残念ながら、この学校でも今年その疑いがあって、今回の調査は、その犯人を特定することだったの。……まあ、校長は何も言わないけど、はぼ間違いないわ」
やっぱり……って、えーと、何から突っ込んだら良いのでしょうか?
蘭花は、多分間抜けな顔で蘭花の顔を凝視している僕を少しの間見ていたが、そのまま言葉を続けた。
「あたしは、そう言った、学校内で起こる問題で、生徒とかの影響を考えると、なるべく内々に解決、処理したいような問題を調査、場合によっては解決する役目を請け負っているの」
どっかのドラマで出てきそうな話。
……っておい!
蘭花は、今、何て言った?
さっきから突っ込みっぱなしだな。
「何で、部長が?」
何も考えられないので、とりあえず直接的な疑問が口から出る。
「この学校では、代々そういう役目を、校長が目をつけた生徒に任せているのよね。外部の調査員を雇えば情報が漏洩するし、特別なエージェントを雇えば、いずれは身元が割れ、抑止効果が無くなる。だから、少なくとも三年しか居ない生徒に、それを任せようと考えたんだろうね。なんせ、私立はイメージが大事だろうからね」
蘭花は口の端を上げる。
「そ、そんな危険なことを!」
僕の言葉に、しかし、蘭花は軽く首を振る。
「今回のことは、特例中の特例ね。たまたま、あたしがいる間に大きな問題が発生しちゃっただけだわ。ほら、いじめとか、先生による生徒に対するいかがわしい行為とか、色々あるでしょ? 本来は、そちらが目的。学校としては、表沙汰になる前に、正すべき物は正して処理しておきたい訳ね。先生のモラルが低下している中、残念なことに、先生にそれを任せられないのが痛いけどね」
「部長だけなんですか?」
蘭花は再び首を横に振る。
「多分、あと数人はいるわね。ただし、お互いにお互いのことは知らない。当然、あたしも他が誰かなんて全く知らないわ」
蘭花は少し息をついた。
「もちろん、あたしの身の安全は、当然保証されるのが前提だわよ? 今回のは、ちょっとやばかったけど。多分、今回あたし達が停学になったのも、教頭の差し金だって事を、校長は見抜いていた。ううん、犯人はとっくに分かっていたはずだわ。ただ、証拠がなかっただけ。だから、校長は、あたしが居る間は教頭が居たから言えなかったことを、薫君に託したわけ。この停学が罠だって事をね。家にいれば安全だって。表に出るなって」
そうか、それで教頭は、あれだけ不自然に蘭花のみを停学させようとしていたんだ。
ん? まてよ?
校長が僕に託したって、やっぱりあれか。
「も、もしかして、今こうなっているの、僕のせいですか?」
昼間の出来事がフラッシュバックする。
「うんっ、その通り。校長もがっかりすると思うわ」
蘭花は、にこやかに答えた。
言葉に詰まる僕。
いや、まじで?
はぁ~、ますます何やってるんだろう、僕。
そんな僕の様子を楽しげに見ていた蘭花が、いきなり体当たりして来た。
僕はバランスを崩し掛け、何とか踏みとどまる。
「なっ! 部長?」
「ほらっ、そんな顔しない。誓って言うけど、薫君のこと少しも怒っていないからねっ。それに、むしろ感謝しているわ。だって、今まさに教頭が自ら墓穴を掘っているんだもの。あとは、校長の到着を待つだけだわ」
蘭花の満面の笑みに、僕は、先ほど思い出し掛けた重要なことを思い出し、全身の毛穴から嫌な汗が噴き出す。
校長がらみで失態その二!
言えない!
言ったら、本当に殺される!
だけど……。
「あの……部長?」
「うん? どうしたの?まだ質問?」
蘭花は笑みを浮かべたまま、僕を促す。
僕は少しの間考えていたが、意を決する。
「もしかして、部長の今の言葉って、僕が校長先生に連絡していることが前提になっています?」
「あったりまえじゃん! 連絡してって言っておいたでしょ?黒服に捕まる前に。だから、薫君だけは、なんとしても逃がす必要があったの。やっと解ったの~? ふふっ、全てはこちらのシナリオ通りってやつよ! さすがは蘭花ちゃん……だわ」
自分で言って照れながら、蘭花。
僕の言葉の真意に気付いていないようだ。
「やっぱり。……あの、それで、もう一つ怒られることがあるんですけど……」
ここまで言ったところで、さすがに蘭花も僕が何を言わんとしているか気付いたようだ。
蘭花の顔から笑みが消える。
「まさか……、え? うそ? 薫君?」
僕は目をそらす。
「薫く~ん?」
蘭花は身体を寄せ、僕の顔をのぞき込む。
目が……怖い。
「……すみません」
「……やっぱり、一〇〇回ぐらい銃殺が必要みたいだわね」
蘭花は天を仰いだ。
……同感です。




