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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第7章]運命のいたずら
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(5)絶体絶命の中で

「薫君、馬鹿でしょ」

 薄暗い室内で、蘭花が呟いた。

 現在、僕と蘭花は後ろ手に縛り上げられ、音楽室の窓際に仲良く腰を下ろしているというわけ。

 他の教室と異なり、教室の後ろの方が高くなっている。

 つまり、蘭花と僕が座っている床は斜めになっているわけで、気を抜くと、教室の前の方へ倒れ込みそうになる。

 僕が下にいるから、誤って蘭花の方に倒れ込み銃殺確定、と言う事態は防げるわけだが。

 結局、僕の段取りは、運命のいたずらにより水泡と化し、取引に使う予定であったUSBメモリーはあっさりと取り上げられ、今のところ手詰まり状態。

 はぁ~、ホント何しに来たんだか……。

「既にご存じだったはずでは?」

 僕の言葉に怒るかと思ったが、蘭花は、くすくすと笑った。

「そうだよね~。あたし、もともと馬鹿は嫌いだったんだけどな~。何でだろ、薫君のことは、嫌いになれないわぁ」

 あっさり肯定か? 少しは気を遣えよ~。ちょっと傷ついたぞ?

「……それは、光栄です」

 僕は蘭花の軽口に安堵しながら、呟いた。

「怒った?」

 その間を別の感情に捉えたのか、蘭花は固い声を出した。

「いいえ。怒る理由がありません。部長こそ、怒ってません?」

 僕は、笑みを作った。

「う~ん。半分は。だけど、もう半分は、あたし自身に怒ってるかな~」

 蘭花は呟く。

「部長自身に……ですか?」

 僕は蘭花の方を向いた。

 くそっ、教頭の奴、きつく縛りやがって、手がしびれてきたぞ?

 蘭花は痛くないのか?

「うん。あれだけ言ったのに、やっぱり来ちゃった薫君に、『何で?』って思っているのも事実。だけどね……」

 蘭花はこちらを向き、

「本当は、心のどこかで薫君が来てくれることを期待していたりして……、だめだな~、あたしも馬鹿だわ」

 力なく笑った。

「じゃあ、仲間ですね。結果はともかく来て良かったです」


 少しの間、複雑な表情で僕を見ていた蘭花は、急に悪戯っぽい笑みを浮かべ、肩で小突いてきた。

「ところで、薫君って意外に変態成分があったんだね~」

「!」

 何のことを言われているのか、残念ながら心当たりがある。

 ついに来た! って感じ。

「黙ってちゃ分からないな~」

 蘭花は笑みを浮かべたまま、半眼になる。

「す、すみませんっ。それは、つまり……」

 ほんの出来心で!

……って、ちゃうちゃう!

「やらしいんだ~、女の子の部屋を物色して、あんな物やこんな物を見ちゃったんだぁ」

「やっ……、あ、そそんなこと無いですよっ!僕はですねぇ、ただ単に……」

 僕の狼狽ぶりに、蘭花は肩を震わせた。

「ふふっ、どうせ『部長のためだ!』とか、自分に言い訳して、恐る恐るあちこち探していたんでしょ? 目に浮かぶわぁ」

 何故か、上手に僕の口まねをして笑う蘭花。

 いつものパターン。

 蘭花は僕の心中などお見通しで、マシンガンのように攻撃をし、満足したら解放される、と言うことだ。

 僕が反撃する間など、与えられない。

 でも、大正解!

 どこかで見ていたんじゃないのか?

「と、ところで、彼らは、二人だけですか?」

 どう考えても不利な状況なので、僕は話題を変える。

「そうね。あの黒服さん達は、あたしをここに連れてきたら、すぐに帰っちゃったわ。『契約はここまでだ』って。何か、変装しているみたいだから、警察に言っても無駄だよって言ってたわ。教頭とも初対面みたいだったし」

「そうですか」

 と言うことは、相手は二人か。

 チャンスを逃さなければ、何とかなりそうだ。

「ところで~、さっきの続きだけど~」

 話題転換失敗!

 蘭花は、まだ僕をいじり足りないらしい。

「すみませんっ! 怒られついでに、もう一つ謝っておきます!」

 僕は、いずればれることを、今言ってしまうことにした。

「怒られること?」

 蘭花は、不思議そうな顔で僕を見る。

「あの、見ちゃいました。って言っても、不可抗力ですけど……。今日の授業のメモの……」

 僕が言うに連れ、蘭花の表情が引きつっていくのが分かる。

 ああ~、やっぱり怒っている。真面目に怒っている。

「本棚……見ちゃったんだ」

 蘭花は下を向く。

「しょ、正直言って、感謝しています。ていうか、何をやるにも、言い出したことに対し、きっちり責任を全うすると言う姿勢は、尊敬できます。一後輩のために、あそこまで、真剣にやっていだたいているとは、思ってませんでした」

 僕は一気に喋ると、呼吸を整える。

 怒るんなら怒れっ!

 しかし、罵声を覚悟している僕の隣で、蘭花は下を向いたまま。

 しばしの静寂。

「相手が薫君じゃなきゃ、あそこまでやらないよ~。私も、釣り合うために努力してるんだよ」

 蘭花は何故かホッとした様子で、ぽつりと呟いた。

「え?」

 僕は蘭花の言葉をどう解釈したものか悩む。

 再び沈黙。

 蘭花は、ため息をつき、

「……まあ、いいわ。助かった後、スケベの罪により、とりあえず銃殺ねっ」

 こちらを見ると、微笑んだ。

 まじかよっ!


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