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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第7章]運命のいたずら
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(3)行動開始

「あ、……オッケー。蘭花のスマホの接続記録から、今の居場所特定出来たよ~」

 僕の目の前で、裕樹が、楽しげにモニターを覗きながら、キーボードを操作する。

「ほ本当ですか?」

 駆け寄る僕を、しかし、裕樹は左手で制した。

「薫君、……言うまでもないけど、見ない方が幸せな人生を送れると思うよ?」

「!」

 その言葉に、僕は我に帰り、慌てて後ずさる。

「……で、どこだと思う? 防犯カメラの映像から薫君を襲った奴らのナンバーも割り出したし、Nシステムの軌跡とも一致するから、確度は高いよ」

 悪戯っぽい笑みで、僕を見る裕樹。

 例のごとく、普通ではアクセス出来ない情報の単語に、モニターを覗かなくて良かったと心底思った。

「すみません。全く想像出来ません」

 思考を切り替えるが、そもそも判らないからここに来ているわけで……。



 先ほど、USBメモリーを握りしめ、相変わらずのんびりした調子で『頑張ってね~』と声を掛けるあやかさんに曖昧な笑みを残しつつ、サテライトを飛び出したは良いが、そこで、僕は再び現実を突きつけられることになった。


 蘭花は、どこ?


ってことだ。

 あの時、僕の意識は途切れ、走り去る車のナンバーすら覚えていない。

 何も考えていなかった自分に怒りすら感じるが、どうしようもない。

 怒りが焦りに変わる。

 落ち着いていた鼓動が、再び速くなる。

 そんな僕の両脇を、家路へと急ぐ人々が、足早に通り過ぎていく。

 その人達は、ここで呆然と佇む少年が、まさか、先輩を人質に取られ、決死の覚悟で救出に向かおうとしていることなど、知る由もないだろう。

 ある意味、今の僕にとって、恐らくは『幸せな家庭』へと急ぐ人々の平穏さが、むしろ異世界の出来事のように感じる。

 まるで、この世の中で、たった一人取り残されたかのような感覚。

 幼い頃、知らない街で、夕暮れの中迷子になった時のような不安が押し寄せる。

 僕は、わき起こる震えを抑え、考えた。


 選択肢一、連絡があるまで待つ。

 選択肢二、警察に連絡する。


 ……どっちも駄目だ。

 僕は、首を振る。第一、選択肢二は、選択肢一と同義だ。

 僕が、実は特殊能力を有しており、蘭花の居場所を都合良く感じられるわけでなし。

 どこかの本部に電話して『衛星で車を追跡しろ、ナンバーは……』とか言うと、行き先が分かるわけでなし。

 そんな世界を羨ましく思う。

 現実世界とは、高校生とは、非日常に対し、なんと無力なことか。

 助けるとか言いながら、結局何も出来ないのだ。

 どうすればいいのか、全く判らない。

 自分が、この世の中が嫌になり、全てを放棄したくなる。


 ……いや、なにか手があるはずだ。


 まず、居場所を探す手がかりには何があるか、それを考えよう。

 蘭花も言っていたではないか。

 この世の中のことなんか、論理的に考えていけば大体判ってくるものだと。



 たどりつ着いた結論が、蘭花のスマホの位置情報を都合よく引き出せないかと言うことだった。

 よく、ニュースとかで、事件があった時に警察がやっているではないか。

 裕樹なら出来る気がする。

 結局他力本願かよ! ってことになるが、この際、体裁を気にしていられない。

 そんな都合の良い事がまさか出来ないですよね~と問う僕に、「面白そうだねぇ。うん、多分出来るよ~」と、あっさり引き受けてくれた裕樹。

 事件のあった場所を告げると、モニターが4つもある、今時珍しいタワー型のPCに向かって何やら操作をし始めたのだ。

 蘭花の部屋と違い、あちこちに物が散乱しているが、不清潔というわけでは無い。

「ハッキング」「暗号」などと言う単語が目に付く本が散乱している部屋には、今使っているPC以外にも、見える範囲であと3台。

 無数、と言って良いほどのケーブルがそれぞれから伸びており、本体のLEDが、休む事なく明滅を繰り返している。

 一体、どこに繋がっているのか。

 一体、何に使ってるんだろう。

 ……怖いから知りたくないけど。

 時折モニターに、見慣れた街の景色が映る気がするが、何かの間違いだろう……。

 そんな僕を尻目に、裕樹は楽しそうに作業をしていて、10分ほどで、場所が特定されたわけ。


「うーん。……事実だとしたら、大問題だねぇ。てことは、蘭花も相手が判った上で、敢えて飛び込んだのか……、とすると、既に罠にかかっているのは、実はあちらさんってわけだな」

 全くついていけない僕の前で、裕樹は何か結論にたどり着いたようだ。

「あのー、で、部長はどこなんでしょう?」

「ああごめん。蘭花はねぇ、学校にいるみたいだねぇ」

「学校……ですか」

 色々あり過ぎて「学校に居る」と言う事実を告げられても、何も感じなかった。

 そんな僕を意外そうに見ると、裕樹は続ける。

「うん、最後に通信が途絶えた所がそこだねぇ。っで、念のため、学校のルーターのセキュリティログ見たら、蘭花のスマホから無線でアクセスした痕跡が残っていたよ」

「痕跡……ですか?」

 またもやついていけない。

「ああ、つまり、蘭花のスマホが、自動的に校内のネットワークを感知して接続試みたけど、当然生徒は使えないからねぇ。接続拒否した記録が残っていたわけ。因みに、4階のブロックBのハブを通って来てるから、教室棟4階東って、……多分音楽室だね」

「そういう事ですか」

 理解度30パーセント。

 だが、4階の専門科目教室は、確かに音楽室しかない。

 少なくとも、蘭花が音楽室にいる事は判ったし、あとは……


「さて、……と言う事で警察に連絡しようか」

「それは駄目です! 先輩」

 立ち上がる裕樹を引き留める僕。

「……薫君。気持ちはわかるけど、これは、僕達がどうこう出来るレベルじゃないよ。第三者を使った拉致監禁。それに傷害。さすがに一線越えている。警察に通報した方が良いよね。それに、助けに行こうにも、そもそも学校はもう入れない時間だし」

 僕を見下ろすような体勢で、諭すように言う裕樹。

 初めて見る、真剣な顔。

「それは解りますが、先輩、第一、どうやって部長が学校にいる事を知ったか、説明出来ないじゃないですか。仮に、隠して言った所で、根拠も無い学生の話なんか、警察が取り合ってくれるわけ無いです。どちらにせよ、警察に連絡しても無駄だと言う事ですよ」

 早口にまくし立てる僕を、びっくりしたような顔で見ていた裕樹は微笑んだ。

「ふふ、確かに、その通りだねぇ。薫君の言う事は筋が通っているよ。困った困った」

 全然困ってない顔で、祐樹。

 どうやって僕を納得させようか、楽しんでいる、そんな感じ。

 でも、本心は気付かれていないようだ。

 相手があきらでなくて良かった。

 そう、祐樹の言う通り、どう考えても、警察に通報した方が賢い。

 でも、それじゃ駄目なんだ。

 ……だって

「そうそう、そもそも学校に入れない事に変わりはないんだ。だからやっぱり警察に――」

「わかってます。ですから、キーを発行して下さい」

 裕樹の言葉を遮り、僕は携帯電話を差し出した。

 想定外の反応だったのか、祐樹がたじろぐ。

「……薫君。そんな事、さすがの僕でも出来る訳ない――」

「部長から聞きましたよ。ほら、このメモリー、部長に無理矢理学校に連れて行かれて、取りに行ったんです。それで、先輩がキーを発行したからって、部長が……、夜の学校に入りましたから」

 僕は、再び裕樹の言葉を遮り、ポケットからUSBメモリーを取り出した。

 よし、完全に僕のペースだ。

 いつも蘭花にやられているからわかる。

「蘭花のやつ……、薫君に余計な事を」

 裕樹は大きなため息をつくと、表情を改めた。

「……あのさ、薫君、一応今は停学中の身なんだよ。これ以上問題起こしたら、薫君どうなるか判らないよ?」

「だから何です? 僕は部長を助けに行くんです。停学が何か関係あるんですか?」

 ここで、裕樹はプッと吹き出す。

「ふふ、蘭花みたいな事言うんだね。あの日もさぁ、蘭花ってば、薫君が作ったデータ取り返さないとって必死でさぁ、……さすがの僕も止めたんだよ? でも、薫君の物取り返しに行くのに停学が何か関係あるのかって聞かなくてね」

 ……やはりそういうことだったんだ。

 いつだって僕の都合など無視で、面白半分に僕を巻き込み、本能の赴くままに行動していた蘭花。

 断る事の出来ない後輩の僕は、蘭花にとって、いくらでも代わりがある都合の良い存在なんだとさえ思った。

 でも、僕の居ない所では、僕の事を大事に考えてくれていたって事。

「……蘭花も、また人を信頼しようと言う気になってきたって事だし、喜ぶべきなんだけどね」

「あの、それってどう言う……」

 あやかさんさんも同じような事を言っていた。

 また、って事は、人を信頼出来なくなるような事が、過去にあったのだろうか。

 応えず、しばらくの間、複雑な表情で僕を見ていた裕樹は、おもむろにPCの方へ向き直った。

「話は後。とりま、作業やっちゃうよ。薫君の携帯では出来ないから、僕のを貸してあげる。前のだから通話は出来ないけどね~。あと、犯人に感付かれるとまずいから、カメラは切れない。悪いけど、部活動棟から入ってね。あっちはカメラ無いから」

「あ、ありがとうございます!」

「さて、これで僕は、運が良くて校則違反で退学、悪けりゃDMZ規則違反で銃殺か~。人生詰んだな」

 言葉とは裏腹に、裕樹の表情はとても楽しそうだった。


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