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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第5章]楽しい停学
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(3)真夜中の侵入者とか

「……で、何で僕の頬をつねってるんですか?」

 僕は、目をこすりながら、ぼんやりした視界がはっきりするのを待つと、暗闇の中に蘭花の顔を捉え、めいっぱいの不機嫌さをぶつけた。

「さっきから呼んでるのに、……ちっとも起きないからよ」

 僕の上で、あくびをかみ殺し、こちらも不機嫌そうに蘭花が言う。

 あ、そういうことか。それは申し訳ない事を……

 ……じゃなくって!

「それで、何でまた、こんな早朝に僕の部屋にいるんですか?」

 僕はちらりと壁の時計を見る。午前四時三十分過ぎ。もう少し常識ってものが……。

 いや、突っ込むところが違うし。

「用があるからに決まってるじゃない。何度も同じ事聞かないでよ」

 そりゃそうか。

 当たり前の事を聞いてしまったな。

 ……そうじゃなくって!

「どこから入ってきたんですかっ! ……って、もうそれは良いです。あのですねっ、法律って物があって、これは立派な住居――」

「ちょっ! 大きな声出したら、またお父さん起きちゃうでしょっ!」

 蘭花が慌てて僕の口を手で押さえ、押し殺した声を出す。

 その蘭花に、僕はゆっくりと首を横に振った。

 確かに、昨日は何とかやり過ごしたが、夜中に高校生の男女がベッドの上にいる所を目撃されたら、あまり楽しい未来は待っていない。

 ただ、今日は目撃されるリスクがないのだ。

「ああ、今日は親父は泊まりがけの出張で、母さんは親戚の家に法事の手伝いに行ってますから、大丈夫――」

 ……って、しまったあああああああ

「なんだぁ~、そう言う事は早く言おうよ」

 いきなり不敵な笑みに変わる蘭花に、僕は自分の失言を呪った。

「……っで、何のご用ですか?」

 僕は諦め、現実を受け入れる事にした。

「昨日の続き。はいっ、『蘭花』っ、続けてっ」

「ふ……嫌です」

「ちょっ! 嫌って何よ! 昨日言いかけてたじゃないっ。……って、何がおかしいのよっ」

 蘭花は僕を睨み付ける。

 僕は、慌てて困ったような表情を作った。

 そんな事のためだけに、わざわざ僕の部屋に押しかけてきたのだとしたら、ここは、敢えて言わない。

 そのぐらいの反抗はいいよな?

「ほらっ、早くっ」

 蘭花が身体を揺らし、体重をかける。

「ぐっ、……だから、重っ。って、無理です……っ」

「重いとか……」


 しばらく僕を睨んでいた蘭花は、ため息をついた。

「……まあ、いいわ。今日来たのはそのことじゃないし」

 ここで、蘭花は表情を改めた。

 ……ですよね~

「薫君。楽しい停学の第一歩は何?」

 ホッとしたのもつかの間、蘭花は意味不明のことを口走った。

 ……えっと。

「まじめに勉学に励み、自らを振り返ることです」

「はい、不正解」

「……」

 ……いや、校則にもそう書いてありますが。

 そもそも、『楽しい停学』って書かれてはいないけど。

「はい、薫君。もう一回っ。楽しい停学の第一歩は何?」

「まじめに勉学に励み、自らを振り返ることです」

 頬を膨らませ、僕を睨み付ける蘭花。

「楽しい停学の第一歩は――」

「まじめに勉学に励み、自らを振り返ることです」

「楽――」

「まじめに勉学に励み、自らを振り返ることです」

「ちっが~う! ……てか、わざと言ってるでしょ?」

 頑なに同じ回答をする僕を睨み付ける蘭花。

 ええ、わざとですとも。

 もう、これ以上蘭花のペースにはまってたまるかってんだ。

 どうせまた、遊びの強要に来たんだろう。

 昨日だって、裕樹が帰った後、気分転換とか言い出して、夕暮れの堤防道路を延々歩かされたり。

 何度も言うが、停学中の身。今日こそまじめに勉強を……。

 蘭花はむすっとした表情をしていたが、小さくため息をついた。

「はい。薫君は、実はDMZ規則第十二条に違反してます」

「……と言いますと?」

 第十二条は初めて聞くな。

「同じ質問に、三回以上同じ回答をしたら重罪です」

 問いかける僕に、蘭花は厳かにそう告げた。

 またまた理不尽な!

「はい、では、ラストチャンス。改めて、楽しい停学の第一歩は何?」

「……えっと~」

 そうくるかっ!

 いや、別の回答なんか用意してなかったぞ。

 一瞬あきらの言葉が浮かぶが、それを言った瞬間に僕の敗北が確定するわけで。

 う~ん……

「第十二条三項の規定により、降参すれば、答えを聞くことが出来ます」

「じゃあ、降参で」

 早くこの不毛な会話を終わらせたいし、いい加減眠い。

「あっさりだな~。もっと粘ろうよ~」

 いや、蘭花のお遊びに付き合っていられませんし。

 しかし、蘭花は口の端を上げると、

「じゃあ答えです。……楽しい停学の第一歩は、……それは、昼間のランチで~す」

万歳をしながらそう言った。

 だから、重いって!

 蘭花の全体重が、僕の腹にかかる。

 それに何ですか、そのどこぞのアニメのような意味不明の万歳ポーズは。

 ……って!

「何ですかそれは?」

 ちょっ! あきらと同じレベルだよ、この人!

「なお、第十二条九項によれば、降参した人は無条件に方針に従う事とあります」

 そんな僕にかまわず、再び厳かに告げる蘭花。

「えええええええ?」

 ……しまったぁああ!

 何だかんだで、結局蘭花のペースに乗せられてしまったじゃないか。

 いや、そうじゃなくって、……何か、考えていたら腹が立ってきたぞ!

「てか、もういい加減にしてくださいよっ! 停学中にそんな事ばかりやってたら、いつか先生に見つかりますよ? あと、今何時だと思ってるんですか? 大体、何度も人の寝込みを襲わないでくださいっ! いくら部長だからって、やって良い事――」

 もう、どこから突っ込んで良いの解らなくなった僕が、思いつく事を全て蘭花にぶつけていたが、突然僕の頬に落ちてきた暖かい物に、慌てて口を閉ざす。

「あ、……いや、その……」

 ……泣かなくても良いだろ!

 ポタポタと落ちてくる滴を僕はぬぐい、

「! ちょっ、ぶ部長っ! ちっ、血がっ」

思わず跳ね起きた。

 ぬるっとした感触のそれは、鉄臭く、赤黒い色をしていた。

 慌てて電気を点け蘭花を確認すると、額のあたりから赤い筋が垂れている。

「え? あ、……ああ、あれ、取れちゃった? と、とにかく、だ大丈夫だよっ」

 きょとんとした表情をしていた蘭花が、慌てて額をぬぐい、珍しく狼狽する。

 言っている事も意味不明だ。

「大丈夫じゃないですよっ。まさか、寝ぼけてタンスの角にでもぶつけたんですか?」

 僕は、枕元のティッシュを取ると蘭花に手渡しながら聞いた。

「タンス? えと、まあ、そんなところね。……あ、ありがとう」

 冗談で言ったのに、まさか本当だったとは……。

「ちょっと待っててください」

 僕は、ベッドの中で身体を滑らせ、横からするりと降りると、戸口に向かった。

 え? こんな事もあろうかと、今日はちゃんと短パンをはいてるよ。

 ……って、あれ? 何で備えてるんだろうな、僕は。


 居間で救急箱を取り、部屋に戻った僕が目撃したのは、僕の布団に潜り込み、寝息を立ててている蘭花の姿であった。

「ていうか、それ、僕のベッド……」


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