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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第5章]楽しい停学
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(1)勉強は?

 えーと、停学って何だっけ?

 確か、性行不良で、学校の掲げる学生生活の趣旨に著しく反した生徒に科せられる、懲戒処分の中の一つで、いわゆる謹慎処分と類似の扱いがほとんどのはずだ。

 もっとも、高山学園は私立であるためか、進学校であるためか、まあ、両方だろうな、停学期間中の『生徒の生活そのもの』については、特に規定がない。

 それが証拠に、他の学校で行われているような、日々の反省文の提出や、担任による家庭訪問は無い。停学期間終了後に、本人と親と担任と校長との四者面談があるのみだ。

 しかも、学習計画書を渡されるわけだから、自分で努力すれば、学校で受けるはずの授業分を、自習という形で補うことは可能だ。

 ある意味、騒ぎを起こす生徒は、他の生徒の迷惑になるから、学校外で大人しくしててくれ、ってことだろう。っで、自分の失態は自分で責任取れってことで、もし、停学期間中に遊びほうけていたら、学校は知らないぞ……ということだな。

 もちろん、停学期間中に問題を起こしたら、さらなる懲戒処分の上積みはあるわけだが。

しかし……


「わお、裕樹、さっすが~」

 聞こえない聞こえない聞こえない見えない聞こえない聞こえない――

「こちらが予備回線ね。万が一セキュリティが気付いてロックかけられたときのためで……」

 あーあー、見えない聞こえない知らない聞こえない聞こえない聞こえない――

「もしばれたら、さすがにやばいかな~」

 聞こえない聞こえない何も見てないわからない、小麦粉か何かだ……って、これは違うか。

「あー、逆探知パケットを検出したときは自動的に――」

 僕が耳を塞いでいる前で、何やら楽しそうな蘭花と裕樹。

「ふ~ん、ロシアのサーバーかぁ~。てことはさ――」

 聞こえない聞こえない聞こえない――

 

 さて、蘭花の家……と言ってもサテライトだが、とにかく、そこで勉強を教えてもらうという名目で、ここに来たわけだが、待ち構えていたのは、『猿でも解るCG作成講座』

「あの~、勉強は~」

「判ってるわよっ! 後でちゃんとやるわよ。良いから、手を動かすっ!」

 恐る恐る切り出す僕をびしっと指差し、その指をテーブルの上に置かれたノートPCに移す。

 僕は、ため息をつくとノートPCを操作し、紙に書かれた意味不明の数字を入力していく。

 どうやら、CGで描画するキャラクターや背景の座標データらしい。

 僕が入力する度に、画面内の絵が変化していくから、何となく判る。

 レンダリングってのをするソフトらしい。

 てか、僕はこんな事をするために高校に入ったんじゃないんだぁーーっ!

 って、大声で叫びたい。

 対して、蘭花は僕が作ったばかりの曲データをイヤフォンで聴きながら、A4の紙に何かを書き込んでいく。たまに腕を広げたり激しく首を動かしたりしているのは、CGで描くポーズを考えているんだろうな。

A4の紙に殴り描きのような〈コンテ〉がいくつも描かれており、記号が振ってある。

 楽譜の方には同じような記号が書かれており、蘭花曰く、この記号が各〈フレーム〉に対応しているのだという。

 ……はい、もう解りません

「あれ? 薫君、サビのギターパートおかしいわよ。ちゃんと入ってないじゃん」

 イヤフォンを外し、蘭花。

 ああ、言いたい事は解る。

 ギターパートなのに、ギターっぽくなく、まるでピアノでガンガン弾いているように聞こえるのだ。

「えっと、音色色々試したんですが、良いのがなくって」

「違うって~、音色じゃないって」

 蘭花がチッチッと人差し指を振り、ため息をつく。

 音色じゃない? どゆこと?

「薫君、ここの和音普通に入れたでしょ?」

「ええ、そりゃあ。コードに従って入れましたけど」

 蘭花が伴奏の所に基本となるコードを書いており、そのコードに従って和音をデータとして入れていくのだ。「C」なら「ドミソ」といった感じで。

 僕は、蘭花が僕に貸してくれたノートの「コードとは」ってページを見ながら答える。

「あのね、薫君。ギター弾くときどうやって弾く?」

「え? そりゃ、ジャーンって弾きますよね」

 弾いた事はないが、テレビで演奏を見た事はある。

「じゃあ、『ジャーン』って入れようよ~」

 僕の言葉にぷっと吹き出し、蘭花はそう言った。

「ジャーン……ですか」

「も~、だからぁ~、最初の音と最後の音で時間差があるでしょ? だから、ジャーンじゃん。薫君のデータは、ジャンってなってるの」

「ああ、……でもどうやって」

 蘭花の言いたい事は解った。しかし、それが出来たら最初からそうしてる。

 蘭花はすっと立ち上がり、スカートを軽く払うと、僕の方に歩いてきた。

 そのまま後ろにしゃがみ、そっと僕の右手に蘭花の手を添える。

「ちょっ、部長っ」

「うるさい! 部長部長言うなっ」

 スイートオレンジの香りに包まれ、手の甲から感じる蘭花の体温にドキマギしている僕にかまわず、蘭花はそのまま右手を動かした。

 ……ああ、マウスを動かしたかったのね。

 自分の手をどける事も出来ず、何となく蘭花に操られるようにして一緒にマウス操作をする。

 CGのソフトが閉じられ、砂時計の後、楽曲編集ソフトが立ち上がり、曲が表示される。

 画面の中で五線譜に並んだ音符をクリックし、上のメニューから「シフト」という物を選ぶ。

「ほら、ここでさ」

 蘭花は、今度は僕の肩越しに左手を伸ばすと、「ティック」という欄に「5」と入力していく。

 手を伸ばすたびに背中に蘭花の身体が密着し、何だか集中できない。

「あとさ~、ギターは弦が六つあるし。三音じゃ駄目。特に、低音を入れておかないと、それっぽく聞こえないの。あっ、ちょっと貸してっ」

 蘭花は言うなり、僕の右耳からイヤフォンを外すと、自分の耳につける。

 突然耳を触られ、僕は思わず身体を硬くした。

 蘭花は、僕の入れた音符の下に音を付け加え、少しずつずらす。

 そのまま何回か同じ操作をした後、蘭花はすっと手を離した。

 背中が急に涼しくなり、僕が振り向くと、蘭花は口の端を上げ僕の隣に座り直した。

「はい、再生してごらん?」

 僕は言われるがままに再生ボタンを押した。

 軽快なサビパートが始まる。

「! おお、ギターっぽい!」

 先ほどと打って変わって、ギターらしい音になっている。

「そのコマンドで、発音に時間差をつけるの。解った? 音の追加は、解るわよね」

「はい」

 なるほど、また一つ賢くなった。

「じゃあ、それ全部やり直しね」

「……はい」


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