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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第4章]市ノ瀬蘭花という人物
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(5)そして共犯者へ……

「何よ、どうやって入ってきたんですか? って聞かないの?」

「いえ、あまり興味ありません。てか、触れたくありません、……って、重っ、……苦しいですって!」

 僕の答えが気に入らなかったのか、体重をかける蘭花。

「重いとか言うな!」

 ベッドがぎしぎしときしむ。

 再びスイートオレンジの香りが漂ってくる。

 ……ていうか、このシチュエーションって、なんか怪しくね?

 いくら相手が蘭花とは言え、僕だって高校生の男の子なんだよ?

 意識した瞬間に、収まっていた鼓動が速くなる。

「なに変なこと考えてるのよ」

 そんな心中を見透かされたのか、蘭花が半眼で僕を睨んだ。

 ごめんなさい反省してます。

 てか、すごく怖いです、その顔。

「い、いえ。だから、……その、どどうやって入ってきたんですか? 鍵かかってたと思いますけど?」

 取り繕うため、やむを得ず触れたくない話題を持ち出す。

「しょうがないなぁ~。特別に教えてあげる」

 蘭花は口の端をあげた。

 いや、別に知りたくありませんし、もったいぶらなくてもいいですから。

「外から鍵を開ける方法があるのよ。ここ2階だし、狙い目ねっ」

「……そうですか」

「反応薄いなぁ~」

 いや、想定内の答えですから。

「そんなことより、用事って何ですか?」

「あっ、そうだ。もう時間がないわっ。早く着替えて」

 蘭花はちらりとスマホを取り出すと、そう言った。

「へ?」

 間抜けな声を出す僕。

 着替ろって、今何時だと思ってるんだ?

 僕は壁の時計が二時過ぎを示しているのを見ながら、蘭花を見上げた。

「なにポカンとしてるのよ。取り返しに行くのよ」

「……何を、……ですか?」

 念のために聞いてみる。

「薫君が取られたメモリーに決まってるじゃない」

 ああ、やっぱり。

「あの~、僕達、一応停学中なんですけど……」

「だから? 落とし物拾いに行くのに、停学が何か関係あるの?」

心底分からない、といった顔で蘭花。

 ですよね~

 言う相手を間違えていた。

 ちなみに、落とし物じゃなくって、押収されたんですけどね。

「ああ、そうだ。ここんとこちょくちょく地震あるじゃないですか~。また地震が起きたら、母さんが心配して見に来るかも」

 必死に言い訳を考える僕。

「地震? なら、今日は絶対に地震発生しないから」

 蘭花は、ふんっと腕を組んで自信満々に言い切る。

 だから、重っ!

 てか、もう、この人に何を言っても無駄だ。

「もー、僕は眠いんです。今何時だと思ってるんですか、部長だけで行ってきてくださいよ~」

 眠さも手伝った不機嫌さいっぱいの僕のその言葉に、蘭花の表情が険しくなる。

「……」

 あ……、「部長だけで」ってのはちょっと冷たすぎたかな。

「えと……」

「部長って呼ぶなって言ってるでしょ?」

 そっちか!

「いや、……それは」

「あたしの名前は『部長』じゃないの。言ってるでしょ? 蘭花って名前があるの。はい、やり直しっ」

 あああ、地雷踏んだ。こっちの方がやっかいだ。

「無理っす」

「何? 学校では、皆がいるから呼べないですって言ってたけど、今なら問題ないわよね」

「そういう問題では……」

「DMZの規則第三十八条にも、お互いを呼ぶときは下の名前でってあるでしょ?」

 はいはい、確かに僕が蘭花を名前で呼ぶこと拒否した直後に出来ましたね、そんな規則が。

 だいたい、本当に三十八条も規則あるのかよ。

「てか、論点ずれてません?」

「今はその話なのっ!」

「す、すみません」

 ……回避失敗

 反射的に謝る自分が憎い。

「すみませんじゃない。はいっ、蘭花っ。仕方ないから、『蘭花先輩』で許してあげる」

 いや、許すとかそういうことでは……。

 ていうか、まだ続いていたのか、それ。

 無言で腰のエアガンを抜く蘭花。

 ちょっ!

 何故、蘭花はそこまで名前にこだわるのか!

 だが、しかし、言ってしまえば、たかがそんなことで怪我をしたくない。

 それに、何でそこまで蘭花を名前で呼ぶことが出来ないのか、よく考えると分からない。

 心の中ではいつも言っているではないか。

 ええいっ!

「えと、ら、……ら――」

 僕が腹を決め、口を開いた瞬間、

「薫、さっきから何を騒いでいるんだ? 今何時だと思っているんだ」

ドアの外から親父の声。

 やばっ!

 想定外の事態に、さすがの蘭花も硬直する。


 ややあって、ガチャリとドアを開ける音。

「薫、起きているのか?」

 部屋の中をうかがう気配がする。

 僕の身体の中で、二つの鼓動が最高潮に達する。

「ん、……えと、ああ、父さん。……もしかして、声出てた?」

 僕は首を動かし、入り口の方を見る。

「どうした、寝られないのか?」

 親父が、部屋の中へと一歩踏み出す。

 やばいって!

 すぐにでも逃げ出したい感覚に襲われるが、動いたら最後だ。

 今、僕の脇では蘭花が息を潜めているわけで、ここで布団でも剥がれたら、あまり明るい未来は保証されない。

 怪しまれないように、自然に……。

「ううん。……えと、ちょっと変な夢見ててさ」

 これは事実だ。

 親父が、すぐ脇に来た。

 思わず、腕に力が入る。

 蘭花が苦しそうに息を継ぐが、我慢してほしいところだ。

「……まあ、初めてのことで混乱しているだろうが、所詮学生の身での出来事だ。人生が狂う訳じゃないんだ。あまり思い詰めない方が良い」

「……うん」

 手のひらは汗でぐっしょりだ。

 親父は軽く僕の頭を叩くと、出口に向かった。

「早く寝なさい。明日、市ノ瀬さんと勉強するんだろ? いきなり遅刻して迷惑かけるんじゃないぞ」

「うん」

 明日って言うか、ここに居ますけどね。

 カチャリとドアが閉まる。

 僕は息を殺して耳を澄ませた。

 床を踏む足音が徐々に遠のいていき、ぎしぎしという階段を踏む音、その音の向こうで、キイと言うドアの開く音、カチャリとドアの閉まる音、何かぼそぼそと人の話す声。

 そこまで確認し、僕は大きく深呼吸すると、腕の力を抜いた。

「ふ~、危なかったね~」

 蘭花はゆっくりと起き上がると、笑った。

 あんな事があったのに、何でそんなに楽しそうなのか、理解出来ない。

 もっとも、二階の窓から誰かが侵入しているなんて事は、一般的な常識では想定にないだろうから、そもそも心配する必要などなかったのかもしれないが。

「さあ、早く着替えてっ」

「……本当に行くんですか?」

「冗談なんか言わないわよ」

 大まじめな顔で蘭花。

 まあ確かに……。というより、冗談じゃないからこそ余計たちが悪いのだが。

「それに、あれ無かったら、薫君、曲データ一から作り直しよ?」

「そ、それは困ります」

「でしょ?」

 蘭花がうんうんと頷く。

 確かに、取り返さないとえらいことになる。

 ……じゃなくって!

 見つかったら、もっとえらいことになるって!

「あ、あの、明日から勉強教えてくれるんですよね? 部長も準備とか、忙しいのでは」

 だから、そんなことをしている暇はないのでは? と、最後の抵抗を試みる。

 親父に約束をした蘭花だ。これなら、もしかして……。

「も~、あたしを誰だと思ってるの? そんなの織り込み済みだし。言っとくけど、一年生の範囲ぐらい、あたしが片手間にやっても、あそこの馬鹿教師より教え方上手いわよ」

 先生すら馬鹿扱いですか……。

 いや、判っていたさ。この人に何を言っても無駄だって。

 今まで、言い出してから意見を曲げたことは一度もない。

「……わかりました。着替えますから、外見ててください」

「も~、何を今更。はいっ、これでいいでしょ?」

 心底楽しげに窓の方を向く蘭花を見、僕はため息をつくと、シーツを身体に巻き付けたままクローゼットに向かった。

 言い忘れていたが、僕はパジャマを着ない習慣なので……。

 え? まずそこから突っ込めって?



 その後のことは、あまり喋りたくない、てか、思い出したくない。

 蘭花と共に二階の窓から出ると、見覚えのあるロープが張ってあり、恐る恐る降りた。

 いやいや、完全に犯罪だろ、これ。

 っで、自転車で二人は学校に行き、とはいえ、学校は電子キーによるオートロックシステムがあり、一階と二階の窓には侵入者対策がされている。

 まさか、三階の部室までロープで登る気じゃないだろうな?

「え? もちろん、普通にドアを開けて入るわよ?」

 僕の質問に、何当たり前の事聞いてるのよと、蘭花。

 いや、そのドアが開かないでしょうが!

 僕の当然の疑問に、蘭花はぱたぱたと手を振り、ポケットの中のスマホをちらりと見せた。

「裕樹にねぇ、今日メンテ業者が入るって事にしてもらって、キーを発行してもらってるの~」

 えっと、すごく普通のことを言っているけど、翻訳するとこうだ。

 学校のサーバーに侵入して業者のメンテスケジュールを書き換え、電子キーを不正取得して蘭花のスマホに転送した、と。

 蘭花の宣言通り、ピピッと軽い音と共に、あっさりと校舎のドアが開いたわけで。

 校内のセキュリティは二時三十一分から三時二十九分まで裕樹が解除してくれていると、得意げに説明する蘭花について、青い光に包まれた人気のない校内を疾走し、生徒会室を物色、無事にメモリーを取り返したというわけだ。

 何でも定期的なサーバーチェックが毎時三十分にあるらしく、セキュリティが止まっていると警備会社に警報が出るので一時間しか時間がなかったんだとか何とか。


 えっと、もういいかな?

 何か本格的に頭痛くなってきたから、もう寝たいんだけど。

僕は、勉強机の上に転がっている、青色のUSBメモリーを恨めしそうに見ると、大きなため息をついた。

 もう、後戻りは出来ない。

 僕は、名実ともに蘭花の立派な共犯者になってしまったというわけ。


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