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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第3章]DMZ同好会の危機的な
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(5)あきら

 まるで、自分の家でないような階段をのろのろと下り、リビングに入った僕の目に飛び込んできたのは、意外な人物であった。


 その人物は、親父に向かって何かを喋っていたが、僕を確認すると一旦口を閉じる。

 今時珍しい、黒で統一された軍隊か何かを思わせる制服。

 整然と並んでいる金色のボタンには「高」と記されている。

 高山第一工業高校の制服だ。

 短く刈り上げられた、これまた今時珍しいスポーツ刈り。あそこは校則が厳しいのだ。

 大きめのちゃぶ台の向こうで正座をしているのは、紛れもなく僕の親友であるあきらだ。

「よお~」

「お~、久しぶり」

 あきらが手を振り、僕もそれに応える。

 なんだ、あきらか。

 ……あれ? 折角あきらが来てくれたのに、このがっかり感は何だろう。

「あ、そうそう。んで、おじさんに、そこんところ協力してほしいと思ってるんす」

 あきらが珍しくまじめな表情で親父を見上げる。

 そうか、今日はあの爆音の中にいたわけじゃないんだ。

 それにしても、何の話だろう。


「あきらちゃん偉いわねぇ~。課題、大変なんでしょ?」

 母親は、僕とあきらの前にオレンジジュースの入ったコップを置くと、あきらの隣に座った。

「いえ、別に。ていうか、俺だけなんです、まだ課題決まってないの。だから、ダメダメっす」

 母親に褒められ、居心地悪そうにするあきら。

「お父さんの会社は、都合つかなかったのか?」

 親父のその言葉にあきらだけでなく、母親の表情もざわめく。

「……親父は、……そういうの関係ないっすから」

 つぶやくように言うと、あきらが下を向いた。

「まあ、それはそれで……。よし、わかった。いや、ものには順番があるからね。一応聞いただけだから、気にしなくていいよ。じゃあ、おじさんがあきら君の申し出を引き受けよう」

 親父が何かをつぶやきかけたが、大きく息を吸うと、笑顔を浮かべ、あきらに言った。

「ありがとうございます! いつも申し訳ないっす」

 あきらは、ホッとしたように笑顔を浮かべた。

 あきらの家庭の事情は複雑だ。

 まあ、プライベートなことなのであまり話すことはよすが。

 彼の素行は彼だけの責任じゃない。だから、お前と彼が信頼しあっているのなら、周りがどう思うかは小さな問題だ。と、常々親父が言っていた。

 親父も母親も、できるだけ彼には協力するようにしている。

 根はいいやつなんだ。本当に。


「ところで、あきらくんは、……まだ参加してるのか?」

 親父が表情を改める。

「……すみません。何分、一度入るとなかなか抜け出せないもんで。やっぱ、ダメダメっす」

 あきらは悔しそうに下を向いた。

「……まあ、心がちゃんとしていれば問題ないだろう。ほめられた事じゃないけどね。無理に抜け出そうとして、わざわざ身の危険に晒される事はないが、なるべく早く脱退した方がいい」

 親父の言っているのは、あきらが参加している暴走行為についてだ。

「ご心配ありがとうございます。努力します」

 親父は微笑むと、立ち上がった。

「じゃあ、細かいことが決まったら、また連絡しなさい」

「はい」

 あきらは親父を見上げると、明るい声で返事をする。

 親父は頷き、奥へと消えていった。

 あきらは親父を信頼している。だから、頼みにくいことでも頼みにくる。

 親父は信頼されているから、それに応えようとする。そして、人の親として、彼の素行を心配している。

 そんな感じ。

「てかさぁ、お前、十時からの約束、忘れてないか?」

 僕は、扉が閉まるのを確認すると、向き直り、あきらに抗議の目を向ける。

「いやいや、忘れてないし。ここ来る間にちゃんとお前の部屋と学校の方と交互に見てたぜ」

「じゃあいいけどさ~」


 十時からの約束、とは、中学生の頃あきらが発案した、「緊急時の通信」である。

 まあ、その話は、後で説明する機会があるだろう。

「ところでさぁ~。お前、停学になったんだって?」

 いたずらっぽい声に慌てて顔を上げる。

「あ~。親父がしゃべったのか」

「まさか、俺に対抗しようとしてるんじゃないだろうなぁ?」

 あきらがにやにやしながら僕を見ている。

「んなわけないだろ! 俺は被害者だっつーの」

 基本「僕」「私」な僕だが、あきらの前でだけは「俺」って言ってる。こういう使い分け、普通だよな。

「はいはい、解ってるって。……しょうがないなぁ、んじゃ、俺が特別に、楽しい停学の極意を伝授してやろう。まずは、初級編。平日のランチだ」

「いや、要らないって。大体、平日のランチって何だよ。漫喫とかじゃないのかよ」

 僕は鼻で笑うとジュースを口に含む。

「行ってこいよ~。お前のあこがれの先輩とさぁ~」

「――っ!」

 ここで僕はジュースをコップの中に吐き出した。

「ちょっ……、俺っ……、部……っ長と……、……ないっ、……」

 激しく咳き込む僕。気道にジュースが入ってしまったらしい。

 蘭花とデートとか、考えただけで恐ろしい。

「おいおい、大丈夫か?」

 あきらが笑いながら駆け寄り、僕の背中をさする。

 涙で視界がにじむ。

「お前……っ、なんで、部長もっ……たこと、知って……」

 喉が枯れて、声が裏返る。

「あ~、やっぱり。仲良く二人で停学になったんだ~。俺ってば天才!」

「!」

 ……はめられた

 てか、今思えば、僕って蘭花だけじゃなく、あきらにもよくはめられてなかったっけ?

 もしかして、そういう残念なキャラなのか? 僕って……


 数分後、何とか咳が収まった僕は、大きく深呼吸をした。

 まだ、のどがイガイガする。

「いや、ぶっちゃけそれはない」

 僕は台所で水を一気飲みすると、努めて冷静にあきらに言った。

「だけどさぁ~、お前、昔から興味のない女子には果てしなく冷たかったしなぁ。なんつーの? 見えてないって言うか、隣の席でも名前すら覚えようとしなかったじゃん。なのに最近は、メールでも部長が部長がって、……お前はごますりの中間管理職かっ」

 あきらが、自身のネタに受け、腹を押さえて笑う。

「だから、それは、無理矢理入部させられて、毎日生命の危機にさらされていたら……。あきらも俺の立場になってみたら解るって~」

 まあ、確かに、蘭花は不細工かって言うと、むしろかわいい部類だけどね。

 じゃなくって!

「そうかぁ? でも、いじめるって事はほら、あれだ、案外お前に気があるんじゃないの?」

「あー、それは確実に無いって言い切れるね。あの人は単に、部活の手駒がほしいだけ。この間も部員が2人辞めちゃって、やったこともない俺に無理矢理曲データとか作らせるし、今度はCGまで作れってさ。薫君薫君って呼べば、何でも俺がやるって勘違いしてんじゃねぇの? 大体さー、学年一位なんだぞ、どうせ、その優秀な頭脳で俺をいかに働かせて自分が利益を得るかって事考えてんだよ、いつもさ」


 そう、結局、蘭花が本当は何を考えているのか、いつも解らないのだ。

 いつも無茶苦茶なこと言ってくるし、僕が反抗すると規則を作って強制するし。

 そうかと思えば、今日は僕が停学になったことをあんなに怒って……

 顔を上げると、反論する僕を見ながら、あきらは目で笑っている。

「おまえさぁ、口数の多いときは、大体何かを取り繕うときなんだよな~」

「!」

 鼓動が高鳴り、顔がほてってくる。

「そうやって、自分自身をごまかすように理論武装するあたり、変わってないよなぁ~」

「いや、そんなんじゃないって」

 蘭花は他の生徒とは違うんだって。

 ……それに、既に絶交状態。

 結局蘭花は、あの後僕の家を押しかけることもなく、おとなしく退散したようだ。

 さすがの蘭花も最低限の常識は持っているって事だろう。

 そして、僕は明日からの停学期間を粛々と過ごしていき、来週には退部届を出して……、あ、……いや、まあ、退部届は生徒会経由でいいな。

 あれ? でも正式な部活じゃないから、生徒会に出しても意味ないよな。

 そもそも、退部届自体出さなくて良いんじゃ?

 ……まあいいや、考えるの面倒くさい。

 うん、そうだ、とにかくこれで、晴れて超自に入部できるし。

 でも、


 ……さっきから心の奥底に重くのしかかっているものは何だろう。

 

 いやいや、どうせ、もう蘭花との関係は修復不可能なんだ。ちょうどよかったじゃないか。

 蘭花が家に押しかけてこなかったって事は、つまり、そういうことだ。

 ゲームで言えば、フラグが立たなかったって事。

 そう、このゲームのエンディングに蘭花はいないはずだ。

 そんな事を考えつつ、「泊まっていけば~?」と言う母親を尻目に、僕をからかうことに飽きたあきらを送り出した。

 てか、もう11時だし。ずいぶん話し込んだな。

 もう寝よう……。


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