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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第3章]DMZ同好会の危機的な
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(4)深夜の訪問者

 カラカラと窓を開ける。

 初夏の涼しい風が頬をなで、心地よい。

 何か、嫌な気持ちが風と共に流れていき、今日の出来事が夢のように感じる。

 僕は時計を確認した。

 十時ちょうど。


 僕は、窓から街の風景を眺める。

 様々な色で瞬く光を遠目で見ながら、景色の端から端まで見渡す。

 遠くの方では、自動車の走る音。それに混じって、バイクの発する、けたたましい音。パトカーのサイレンの音。

「あきら、今日も出動なのかな。ほどほどにしておかないと……」

 僕は、遠くを見ながら苦笑する。

 あきらとは、中学の時まで一緒だった。

 僕が、唯一親友と認めている奴だ。

 だが、あきらは、世間で一般的に言う真面目な学生ではない。

 多分、あの爆音の中の一人だろう。

 もちろん、それは決して褒められた物ではないし、何の正義もないのだが、人間的には一目置いている。

 悪ぶっているが、決して弱い者に手を上げないし、約束は絶対に守る。

 もちろん、僕の知っている範囲での話だが、知らないところでもそうだろう。

 僕に対して良い顔しても、一文の得にもならないからだ。

 あきらにとって、この世の中は、少しサイズの違う服のような物なのだと思う。

 だけど、僕達は成長期で、身体が服に合う時期は、やがてやってくる。

 それだけのことなのだ。


「お、また来たか」

 僕は、窓枠から身を乗り出して、空を見る。

 周期的な重低音とともに、夜の空にさらに漆黒の影を落とす物体が、ゆっくりと視界の左端から右へと進んでいく。

 「何輸送してるんだろう。訓練かな」

 僕は、輸送機が視界から消えてからも、しばらくの間空を眺めていた。

 時計の針は、十時三十分を指していた。



 家に帰って来てから、通知書を見せ親父に話した。

 当然の如く怒られた。

 ただし、停学処分になった事にではなく、停学処分になるようなことをしておいて、何をやったのかをはっきり説明できなかったこと、停学期間中にどうするのか考えていない事に対し、怒られた。

『学生なんだから、悪いことの一つや二つすることもあるだろう。もちろん、褒められた事じゃない。だけどな、一番情けないのは、何で罰せられたのかが分からないって事だ。しかも、明日からの停学期間中、何をするか考えていないのか? 逆に、停学期間を利用してレベルアップしてやろうとか、そういう発想はないのか! それでも高校生なのか?』

 親父の言うことは、もっともだ。

『じゃあ、一〇〇歩譲って聞くが、薫は、停学期間中、何を反省するつもりなんだ? 言ってみろ!』

 何も答えられなかった。

 確かに、冷静に考えれば、何が悪かったのか、よく分からない。

『停学』と言う言葉に翻弄され、『停学処分を受けるぐらいだから、僕は悪いことをしたに違いない』と考えていたに過ぎない。


「部長が怒ったのは、そういうことなのかも知れないな」

 僕は、蘭花の怒りに支配された顔を思い出しながら、呟いた。

 先ほどまで、自分のした事は正しい、故に後悔はしていないと考えていた。

 だけど、自分の振りかざした『正義』とやらは、一体何のためのものだったのだろう。

 調書の内容が、おかしかった。それを訂正したかった。

 ただ、それだけ。

 これって、本当に『正しいこと』なのだろうか?

 意味もなく、現実を無視した環境保護を訴える団体のように、独りよがりの正義を貫いただけなのでは無かろうか。

 第一、僕自身、あのときの背景がどうなっていて、一体何が問題なのか、何一つ理解出来ていなかったのだ。

 木を見て森を見ず、まさにそれを地で行ってしまったのだ。

 首を突っ込む以前の問題だ。

 急に恥ずかしくなってくる。


 僕が、自暴自棄のループに入っていると、突然携帯電話の着信音が鳴り響く。

 慌てて表示を確認した僕の手が震え出し、心拍数がいきなり最高潮に達する。

『Eメール受信・部長』

 思わず辺りを伺い、その後、震える指で携帯電話を操作する。


『用がある。出てきなさい』


出てこいって、まさか!

 僕は姿勢を低くしたまま、そろそろと窓枠から視線を走らせる。

 少しずつ身体を伸ばし、慎重に家の外をうかがう。

 門灯が視界に現れたとき、手の震えが全身に伝染する。

 こういう状況を上手く対処できる高校一年生が居たとすれば、それは、既にりっぱな大人と言うことであろう。

 僕の家の門の前でこちらを睨んでいる、高山学園の制服を着た女子生徒。

 蘭花であることは、改めて確認するまでもない。

 高山学園の女子生徒で、僕の家の前で腕を組んで睨み付ける人物について、残念ながらそれ以外に心当たりはないからだ。

 僕は、息を止めると、膝に顔を埋め身体を小さくする。

 おちつけ! ばれてないばれてない。

 自分に言い聞かせるが、震えが止まらない。

 一体、何をしに来たのか。

 まさか、銃殺?

 その前に、何で僕の家の場所を知っている?

 まあでも、学生名簿見れば分かるか。

 ……って、冷静に分析している場合じゃない!

 窓を閉めたいが、今閉めたら確実にバレる!

 今にも蘭花が塀を乗り越え、ベランダから進入してきそうな感覚に、身体の中がしびれたような感じになる。

 そう、そうだ。僕は今日のことで疲れて早く寝ちゃったんだ。そうしよう。そうやって、明日謝ろう。

 メールだから既読フラグも立たないし。

 僕はきつく目を閉じ、蘭花が諦めて帰ることを強く天に向かって祈った。


 直後、階下が騒がしくなる。

『まあ~、――ねぇ。ちょっと散らかってるけど、……恥ずかしい』

 などという、母親の声が聞こえる。

 来客のようだ。

 しばらくの後、

『薫! ちょっと来なさい』

 親父の声。


 その声に、何となく僕の祈りが天に通じなかったことを悟る。


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