表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[第3章]DMZ同好会の危機的な
14/44

(3)イカレてる?

「あんた、ばっかじゃないの?」

 薄暗い室内で、向かい側でテーブルに両手をついて立っている蘭花が、押し殺した声でそう言い、僕を睨む。他に客がいなければ、机を叩いていたことだろう。

 馬鹿はないでしょ、馬鹿は!

 って言い返し難い雰囲気。

 時折、シャカシャカと言うノイズ混じりの音が、静寂の中を拡散していく。

 机の上の携帯プレーヤーが再生中のままだが、これまた突っ込めるような状況じゃない。


「……まあまあ、蘭花。薫君に怒るのは筋違いでしょ? それに、薫君の証言で、蘭花の処分は軽くなったんだし。二ヶ月も停学食らったら、後々面倒だったじゃん」

 怒る蘭花の隣で、ノートパソコンを操作しながら、裕樹が笑みを浮かべている。

 しかし、蘭花は、めいっぱい不機嫌な態度で、どかっと腰を下ろした。

「あたしの言うこと聞いてたわよね?」

 カップから立ち上る湯気越しに、蘭花が僕を見上げる。

 目が怖い。

「ええ、聞いていました」

「じゃあ、何で? 『聞かれないことは喋らなくて良い』って言ったわよね?」

「はい、確かに」

「聞かれたの? 改めて事実を聞かれたの?」

「いえ、『相違ないか?』としか言われてません」

 僕は、サテライトのテーブルに広げられたA4大の紙を、ぼんやり見ながら答えた。

「じゃあ何で……」

 何故か、蘭花の怒りは、収まる気配を見せない。


 保護者殿

  本日、当学園は、1ー進2 川上薫 さんに対し、

  当学園の規定(校則第29条)に基づき、

  下記の通り懲戒処分(短期停学)を実施することを

  決定いたしました旨、ご連絡申し上げます。


 〈長いので中略〉

 停学日数: 5 日(休校日を除く)

 〈長いので後略〉


 紙には、要は、悪いことをしたから停学にするよ、で、停学期間終了後ちゃんと学校に復帰できるように、家庭でよくフォローしてください、とか、何か困ったことが有れば学校に相談してください、などと言うことが書かれている。

 ご丁寧に、本来であれば学校で行われる、五日間の授業の学習計画書までついている。

 こんな紙が渡されるんだ、と、僕は変な感心をしていた。

「ちょっと! 聞いてるのっ?」

 蘭花の声に顔を上げる。

「あんたね! 停学期間中、どうするつもりなの? 何か考えているの?」

 心なしか、蘭花の声が震えている。かなり興奮している様子。

「いや、……特にありませんが」

「何の考えも無しに……、そんなの、武器も持たずに敵陣に飛び込むようなものよ! 犬死じゃない!」

 蘭花は、額に手を当てる。

「……」

 確かに、教頭から分かりやすい二択問題を出され、わざわざ『はずれ』を選んだんだ。

 僕は、愚か者かも知れない。

 だけど……。

「教頭の考えていること判らなかった? 教頭にとって薫君の処分なんてどうだって良かったはずよ」

「いえ、人の考えなんか判るわけ無いです」

 僕の変化に気づかず、蘭花は大げさなため息をつく。

「判るわけ無いぃ? 捏造された報告書の内容聞いて無かったの? ……まったく、判らない判らない、ってよく言う人いるけど、この世の中のことなんか、論理的に考えていけば大体判ってくるものよ。『判らない』なんて言う人は、思考を放棄した愚か者よっ!」

「……」

 あーそうですか。だから、愚か者で結構ですって!

「いい? うまく生きる人はね、裕樹もそうだし、後の二人も処分無しよ。どうせ、学校は誰かを処分したら満足するの。だから、処分される生徒は、一人で充分だったのっ」

 蘭花は、怒りの表情のまま続ける。

 そもそも、いい加減むかついていた僕は、『うまく生きる』という言葉がトリガーとなり、心の中で何かが弾けた。

「すみません。どうせ、僕は生き方が下手なもんで、部長の仰る、『うまい生き方』など、よく分かりませんから」

 ふてくされたような低い声を出し、蘭花から目をそらす。

 突然、蘭花の顔が、声が、仕草が、すべて鬱陶しく感じはじめる。

 蘭花は一瞬沈黙し、少しの後、苛立たしげにため息をついた。

「ごめん。ちょっと言い過ぎたわ」


 どうでもいいよ、今更。


 僕は正しいことをした、だけど、正しくない。

 気まずい空間を、カップから立ち上る湯気が満たしていく。

 一体、何なんだよ!

 自分でも訳が分からない。

 停学処分を受けるようなことをしたのだ。少なくとも褒められることは、あり得ない。

 だけど、あんな調書を聞かされて、平然と『相違ない』って言える人の方が、どうかしていると思う。

 だから、言うべき事を言った。

 何が悪い?

 文句を言われる筋合いはない。

 第一、ここまで罵られなきゃいけないことか?

 まさか、蘭花までもが『相違ない』って言ったのか?

 だとしたら、イカレている。

「薫君は、ただ、間違ったことが許せなかっただけなんだよね?」

 フォローを入れる裕樹の言葉に、目頭が熱くなる。

 別に、蘭花に『君は正直者だね』とか褒められたかった訳じゃない。

 じゃあ、何で?

 知らないよ、そんなこと!

 後悔すべき事は何もしていない、なのに、何でこんなに悔しいのだろう。

 自分でも何が言いたいのか、さっぱり分からない。

 だけど、内から沸いてくる、どす黒い物は止められない。

 今なら、蘭花に、何か、とてつもなく酷いことを言えそうな気がする。

 衛星とかネットとか総動員して、蘭花がもっとも嫌がる内容をかき集め、とにかく、この訳の分からない女を徹底的にぶちのめしてやりたい!

 まじで!


 時間にして数秒。

 理性が勝利を収める。

 僕は、通知書を鞄にしまうと立ち上がった。

 蘭花の方を見ない。

「すみません。親父に言わなきゃいけないんで。停学になったこと。あと、部活のことも、考えさせてください。あまり皆さんの役に立ちそうにないんで。では……失礼します」

 僕は、それだけ言うと、サテライトを後にした。

「あっ、薫君! 気をつけてね~。またね~」

 明るいおばちゃんの声が、やけに耳についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ