(4)可愛いって?
「あら、……ちょっと、薫君」
結局、洗いざらい白状させられ、「DMZ規則第二条。誰かに喋ったら、判ってるわね?」と凄まれ、しおしおになっている僕を見上げる蘭花。
「はい?」
これ以上、何か?
答えず、いきなり蘭花は、僕のネクタイを掴んだ。
「ちょっ! どうしたんですか?」
いろんな意味で狼狽する僕。
まさか! ちゃんと自白したのに、いきなり絞首刑とか?
「動かないでっ!」
答えず、蘭花は、しかし、僕の予想に反してネクタイをほどく。
「も~、男の子なんだから、ネクタイぐらいちゃんとしなさいよね」
ぶつぶつ言いながら、手際よく僕のネクタイを結んでいく。
一気に身体の力が抜ける僕。と、同時に、別の意味で身体が強ばっていく。
これって、まるで……
首元でくすぐったい感じがし、あれこれ想像しながら何か変な気分になる。
と、突然蘭花がネクタイを思いっきり絞めつけた。
「がっ! なっ――」
何するんですかっ!
しかし、気道が塞がり、僕の叫び声が空間を木霊することはなかった。
「おっ、蘭花~。また薫君が何かしでかしたのか~? ……って、極まってるって、蘭花っ! ネクタイはやばいって! 薫君死んじゃうって!」
目の前が暗くなっていき、薄れる意識の向こうで裕樹が駆け寄り、慌てて蘭花の手を掴む。
直後、僕の気道が確保され、脳が酸素をむさぼり、激しい頭痛とめまいの中視界が回復する。
まさに、これぞ九死に一生を得るってやつだ。
「ぶ……長っ! ……ろす……気ですかっ!」
激しく咳き込みながら、涙目で蘭花に抗議する僕。
しかし、なぜか不機嫌さ全開の様子の蘭花は、僕を一瞥すると、
「もう、最悪っ。人のこと覗いたりしたんだから、当然よっ!」
腕を組みながら、そう吐き捨てた。
いや、最悪なのはこっちだよ!
「まさか、薫君! 蘭花の着替えを覗いたとか? 勇気あるなぁ~。もし僕が階段上ってこなかったら薫君やばかったかもね~。ということで、命の恩人に、罪を告白しちゃおうか~」
対して、こちらは楽しさ全開で僕を見下ろす裕樹。
くそっ。この際、洗いざらい喋ってやる!
そう思った僕だが、蘭花にギロリと睨まれ、口をつぐんだ。
はいはい、第二条、拷問されたって喋りませんよ。銃殺も絞首刑も嫌ですからね。
「いやー、蘭花今日も遅刻してさー、担任に……って、あ~、今の無し無し。ほら、もう言わないから~、ねっ?」
上機嫌の裕樹が付け加えるが、蘭花にエアガンを突きつけられ、慌てて口を閉ざした。
なんだ、蘭花ってばエアガン向けるのは僕だけじゃなかったんだ。
……あれ? 何でちょっと残念なんだ?
今日は思考がおかしいぞ、僕。
その後、『あっ! あんたのせいで、皆行っちゃったじゃない! もう! ご飯付き合ってよね!』などと理不尽な事を言われ、手を振る裕樹を尻目に、連行されるように木之本のところにたどり着いた頃には、三キロは痩せていた。
いや、本当に。
食事中、蘭花は、持ち前の外面の良さで愛嬌をふりまき、木之本からは『おお、これが噂の……。可愛い先輩で羨ましいぞ』と小突かれる始末。
まあ、こいつには夢見させておくとするか。
それにしても、蘭花が遅刻か。
最近の地震で、怖くて寝られなかったとか? ……いや、それは無いな。
しょっちゅう遅刻してるっぽいが、まあ、さもありなんって感じだな。
そんなことより、……好きな人いたんだな。こっちの方が意外だ。
午後の授業中、何故か僕の頭は、蘭花のことで一杯だった。




