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ラグランジェ1沖会戦②

宇宙戦艦の防御は強固だった。一辺60センチ、厚さ10センチの鈍い銀色に輝くラミネート装甲。正面方向からの被弾を想定した傾斜角で取り付けられたこの装甲は、デブリを弾くだけでなく、1枚あたり1ギガジュールの熱量に耐え抜くと期待されていた。毎秒数千メートルで移動しながら砲撃を交わす宇宙艦隊戦では、1回のパルスレーザー照射(約1/100秒)の間に命中箇所が数メートル滑る。そのため、装甲1枚あたりの熱吸収量が1ギガジュールを超えることは稀だった。


もちろん、艦橋、副砲、スラスター等の開放された構造物に直撃すればタダではすまない。


そして万が一装甲が破られても、その内部では磁気拘束された流動式吸熱材が血流のように循環しており、自らが蒸発・消耗することと引き換えに、艦の最重要区画を守る構造になっていた。


だが、流動式吸熱材の減少は艦全体の機能低下に直結する。冷却能力が落ちた主砲は発射速度が制限され、やがて推進力まで削ぎ落とされていく。冷却材の喪失が一定量を超えた場合には反応炉の暴走を防ぐため、強制停止と漂流を余儀なくされるのだ。


この防御システムは長らく絶大な信頼を得ていた。——36センチレーザー砲(2ギガジュール)の時代までは。


3ギガジュールの41センチレーザー、そして4ギガジュールの46センチレーザー。より大出力で、より短時間で熱を集中させる高速高火力砲の台頭により、現在は「攻撃兵器の進化に防御が追いついていない」という過酷な過渡期に突入していた。


砲戦開始から二十分。両艦隊の距離は1100キロまで詰まっていた。


互いの肉を削ぎ落とすような超至近距離の殴り合いの中で、ついに戦局が大きく動き出そうとしていた。


<ピスケス>の第四十射が三度目の直撃を記録し、<フリードリヒ>の砲撃能力を半減させる。


<キャンサー>の第三十四、第三十五射の連続打が、ついに<ヒュウガ>を戦線離脱に追い込んだ。


続いて被弾したのは、<コンゴウ>の第三十五射を受けた<ダイモス>だった。


このピリオドで、金星側は貴重な戦艦1隻が戦列を離れた。


脱落した艦は逆噴射ノズルを全開にして後方へ下がり、味方の陰に隠れて命がけの離脱を開始する。


<ムサシ>の艦橋で、有馬参謀長が叫ぶように報告した。


「九六式宙攻隊、本艦隊の横を通過! 突入まであと8分! 砲戦距離、900キロを切ります!」


<カプリコン>の第四十四射が<フリードリヒ>に追撃を加える。それでも<フリードリヒ>は主砲を吐き出し続けた。


意地で撃ち返したのは<フソウ>だった。<アリエス>の右甲板に大きな穿孔が開く。


<フォボス>が続いて<ヒエイ>を痛打し、


<フリードリヒ>の第四十四射が<カプリコン>の副砲を直撃、攻撃力を半減させた。


直後に<ジェミニ>が<フソウ>に有効打を叩き込む。


<ダイモス>を<コンゴウ>が再び捉え、攻撃力を半減させる。


<ムサシ>の第三十五射が再び<サジタリアス>を痛打して戦闘能力を半減させる。


だが<フォボス>の連続射撃も<ヒエイ>を削り取り、一気に攻撃力の半分を奪い去った。


<タウラス>の光束が<ビスマルク>を叩いたが、装甲がギリギリで耐え抜く。


<バイエルン>も<ジェミニ>に初の有効打を放つ。


<アクエリアス>も<ムサシ>に喰らいついたが、重装甲の前にダメージは小さい。


そのさなかに、12機の九六式宙攻隊は、地球艦隊の進路と平行に右30キロを、分速114キロ(秒速1.9キロ)の超高速で接近していた。


真っ直ぐ近づけば迎撃レーザーの餌食になるための変形アプローチだ。

最終アプローチ直前で阻止すべく、地球側の直衛<シリウス>宇宙戦闘機隊が防衛スクリーンを展開する。


<サジタリアス>の反撃が<ムサシ>のスラスターの一つを吹き飛ばし、


その直後に<ムサシ>の第四十射が、<サジタリアス>の胸郭を貫いた。


かろうじて航行能力を残すのみとなった旗艦<サジタリアス>の中で、シーマは作戦中止以外の指揮をダメージの少ない<アクエリアス>の艦長へ移譲した。艦隊撤退と作戦中止が頭をよぎる。


だが、無事な地球側の反撃も苛烈を極めた。


<ピスケス>の射撃でついに<フリードリヒ>の主砲が沈黙し、<ダイモス>の攻撃は<フランチェスコ>の攻撃力を奪った。


<ムサシ>も、<アクエリアス>の射撃を喰らい、ついに攻撃力半減へと追い込まれる。


地球艦隊へ突進する九六式宙攻を肉迫阻止すべく、8機の<シリウス>戦闘機が急機動を開始した。だが、2機1組となった九六式宙攻のグループは、予想迎撃地点の手前で秘密兵器、ワイヤー連結爆雷を一斉にリリースした。2つの爆雷を繋いだワイヤーが敵艦に触れると、爆雷は接触部分を支点に船体へ巻きつくように絡んで上下から挟み込む形で破裂した。


命中したのは3発だった。

直撃弾を食らった<カプリコン>は、それまでの砲撃被害も重なり、核融合炉の冷却機能を失った。<ダイモス>も直撃を受け、推力を失い漂流する。<キャンサー>も半壊状態に追い込まれた。


九六式宙攻隊の被撃墜は5機だった。すべてシリウスによるものだった。


予想外の被害に混乱する地球艦隊。しかし、崩壊寸前の地球艦隊の危機を救ったのは別動隊だった。


別動隊を2つに分け、残りにコンゴウ級の相手をまかせた<レオ>と<ヴァルゴ>は、金星艦隊の側面に急突撃を敢行。


速度と突入角度の関係で射撃時間こそ短かったものの、その苛烈な側撃によって軽傷だった<ナガト>を中破に、<バイエルン>を大破へと追い込み金星艦隊を混乱させた。


だが、地球艦隊にも作戦を継続できる余裕はなかった。この場の勝ちだけなら取れるかもしれなかったが、輸送船団の支援は不可能だった。


シーマは作戦中止と撤退を発令した。


地球艦隊は行動不能となった<カプリコン>と<ダイモス>を敵地に放棄し、別動隊4隻の護衛を受けながら撤退を開始した。


作戦の中止により、後方の侵攻部隊と輸送船団は無傷のまま地球軌道へと引き返していった。


金星のラグランジュ1は、ひとまず守られた。


砲戦時間は、わずか30分。

だが、漆黒の宇宙空間に残された2隻の戦艦と離脱する艦の深い傷跡は、この凄惨な死闘の重さを静かに物語っていた。


金星側の損害

大破:フリードリヒ、ヒュウガ、バイエルン、フランチェスコ

中破:ムサシ、ナガト、ヒエイ

小破:ビスマルク、フソウ、コンゴウ

宇宙攻撃機:5機

死者・行方不明者:36人


地球側の損害

破棄:カプリコン、ダイモス

大破:サジタリアス

中破:キャンサー

小破:アリエス、ジェミニ

死者・行方不明者:92人


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