シーマ提督
地球艦隊旗艦・宇宙戦艦<サジタリアス>のブリッジは、静かな緊張感に包まれていた。
メインモニターには、先行させた探査機群の情報と通信傍受・暗号解読データを統合し、戦術AIが割り出した敵艦隊の布陣が冷たい光の粒子となって浮かび上がっている。参謀長のパープルトン中将が、淡々と説明を開始した。
「金星艦隊は6時方向、太陽を背に距離4000キロに布陣。艦隊正面から右十度に向けて、加速度0.2で進路を開いています。正面に新型およびナガト級が2隻ずつ。その両翼にフソウ級が各2隻、コンゴウ級が各1隻。……なお、中央の新型2隻について、演算AIが質量推定値を6000から6500トンへ上方修正しました。事前の予測を遥かに上回る超大型艦です。現在、コンゴウ級2隻の展開位置が不明。後方の輸送船団指揮官、クリフト中将とも即時にデータリンクを共有済みです」
艦隊司令官、シーマ・ナカガワ大将は静かに頷きながら、脳内で事前に組み立てた作戦プランをなぞっていた。
太陽を背にした布陣。右10度への加速。中央に主力を据え、両翼に中型艦を配する典型的な迎撃隊形。金星側が地の利と重力井戸を最大限に活かそうとしているのが、手にとるように分かった。
シーマは内心で呟いた思考を、そのまま冷めた声に乗せた。
「笑えるくらいに予想通りだわ。手札の少ない彼らが狙うなら、高速部隊での奇襲。それしかないものね」
パープルトンが微かに眉をひそめて言葉を継ぐ。
「一番厄介なのは、後方の侵攻部隊に対する奇襲です。我が方のイオ級ならコンゴウ級と十分に渡り合えますが、強引に突入された場合、輸送船団の被害は避けられません。あるいは……本艦隊主力や別動隊を狙ってくる可能性も捨てきれませんが」
シーマは小さく肩をすくめてみせた。
「貧乏くじを引くのは誰かしらね」
(誰かが面倒ごとを引き受ける。そんなものは最初から織り込み済みよ。十分とは言わないけれど、対応可能な戦力は与えてあるわ。本体が敵を止めている間に、別動隊の半分が横から突っ込めばこちらの勝ちよ)
彼女の視線が、モニター中央に鎮座する二つの巨大な光点——質量推定6500トンの「新型」に固定された。予測を超えた巨躯。事前情報ではサジタリアスと同程度のせいぜい5000トンとされていたが騙された。間違いなく金星側が隠し持っていた「切り札」だろう。
(気になるわね、あの巨体。……攻撃力の低いコンゴウを無視して先に黙らせるのが正解よね)
彼女達のサジタリアスは強力な戦艦だ。
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サジタリアス(改ゾデアック級宇宙戦艦)
質量:4500t
出力:21GW
最大加速度:0.34km/分^2(0.0096G)
主砲:41センチ9連射高速レーザー砲(3.5GJ)
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高い評価を得て量産されたゾデアック級の発展型。
前級と比較すればその怪物ぶりがわかる。
1.5倍の出力の反応炉。1.3倍の質量とそれに見合った耐久性をもつ艦体。1.25倍の加速力。
主砲の出力は変わらないが、発射速度は1.2倍、熱量投射速度が1.1倍、実質的な火力は1.3倍とみていい。
ゾデアック級と同程度のナガト級なら圧倒、格下のフソウ、コンゴウなら話にならない戦力だ。
これほどの艦が4隻もあると想像してしまう。
ゾデアック級とフォボスを敵にぶつけて、改ゾデアック級の4隻で高速機動して敵の側面を突く!
自分の戦術機動で決定的な勝利を手に入れる!
心惹かれるが総司令官が無暗に飛び回るのは間違いだ。
その役目を4隻のゾデアックに任せて、自分は旧式のフォボスを加えた部隊で敵主力と組み合う。今回は敢えて機動力を封印する。そう決めた。
だからだ、このまま、計画どおりに1対1で相手するのが最良かも知れない。
しかし、6000トン超えの巨艦が気になって仕方なかった。
シーマは優雅に指先を動かし、全艦へ命令を放った。
「サジタリアス、カプリコンは右の新型(ムサシ級)。アクエリアス、ピスケスは左の新型。アリエス、タウラスはナガト級を叩きなさい。ジェミニ、キャンサー、フォボス、ダイモスはフソウ級の4隻へ集中。コンゴウ級は放置でいいわ。……レオ、ヴァルゴ、リブラ、スコルピオは敵艦隊の側面へ回り込み、主力の側面を突いて。レオ隊の指揮はアレキサンドラ中将に任せるわ」
ブリッジに、冷徹な承認唱和が重なって響く。
シーマはメインスクリーンに浮かぶ金星艦隊の光点を、酷薄な笑みを湛えて見つめた。
(センサーの性能はこちらが上よ。敵は太陽を背にしても命中率は五分ってところでしょう。大口径砲の火力はこちらが上よ)
彼女の赤く塗られた唇が、歪に吊り上がった。




