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アースポートへの凱旋

「戦況の悪化に伴う戦略的転進――要するに大敗北だったはずなんだがな」


アースポートの特設区画、重力ブロックの豪華な客室で、俺はホログラムニュースの眩しい光を眺めながら溜息をついた。


画面の中では、華々しい軍楽隊の演奏とともに「シーマ艦隊、歴史的勝利を収めて凱旋!」の大見出しが躍っている。戦艦2隻を喪失し、多くの戦死者を出した悲壮な撤退戦だったはずだ。だが、画面の中の報道官は満面の笑みでこう熱弁していた。


『……本遠征における戦死者数を、我が艦隊が獲得した妊娠確定数が大幅に上回りました! さらに! 我々は地球人の血を引く希少な男性3名の獲得に成功! これは地球圏の未来を約束する歴史的大勝利であります!』


言葉が出なかった。

戦死した女性兵士の数より、俺が孕ませた子供の数の方が多い。ただそれだけの理由で、軍上層部はこの無残な遠征を「大勝利」へと塗り替えたのだ。


(……ところで、俺たちは『地球人』って設定はどこへ行ったんだ? もう誰も俺たちの出生の謎なんて気にしてないだろ。ただの種馬扱いじゃないか)


思わず頭を抱えたが、狂っているのは上層部だけではなかった。

金星から一緒に連れてこられた残り2人の「地球人」の男たちのことだ。


彼らは地球人としての疑似記憶が妙に上手く定着してしまったらしく、完全に自分たちの置かれた状況を誤認していた。話によれば、自分たちが「男女比が崩壊した貞操逆転世界に転生したハーレム主人公」だと本気で思い込んでいるらしい。痛々しくて見ていられないが、彼らは幸せなんだろう。一歩間違えたら、俺もその仲間入りして3バカトリオになってたと思うと寒い。まあ、彼らのことはそっとしておこう。真実知っても幸せになれるわけじゃないし。


ちなみに、その勘違い野郎2人は艦隊ではなく「宙兵隊」へと配属された。

金星での実戦機会がなかった1万人の荒くれ宙兵隊(陸戦隊)だが、艦内に極上のトロフィーボーイが投げ込まれたことで、熱狂は頂点に達していたという。


「……毎日、彼らとの『優先交接権』を賭けた格闘トーナメントが開催されていたそうです」


お茶を淹れながら、志野が何でもないことのように教えてくれた。


「宙兵隊の皆様は出番がなかった欲求不満もあってか、大変な盛り上がりようでした。なお、彼ら2人は『俺を巡って美少女たちが争っている!』と大変満足そうに笑っていたとのことです」


「……あいつらが無事なら、もうそれでいいよ」


なお、宙兵隊は金星ミッションの代替として、地球本国への「ドロップカプセルによる大規模降下演習」を実施して解散することが決まったそうだ。あの2人の男たちも「英雄の地球降下」として、宙兵隊と一緒に大気圏突入をやるらしい。合掌。


問題は、俺の方だった。


当初の予定では、アースポートには数日間滞在し、重力に体を慣らしてから優雅にシャトルで地上へ降りるはずだった。

しかし――「100年ぶりにアースポートに生の男がやってきた」というニュースは、5万人が暮らす巨大要塞都市を完全に狂乱させた。


「……で、志野。このスケジュール表は何だ?」


俺は端末に示された地獄のようなカレンダーを指さした。


「申し訳ありません、隼人様。アースポートに駐屯する全女性士官・技術者からの強い請願……平たく言えば暴動寸前のプレッシャーと、政治的な調整の結果です」


志野は申し訳なさそうに、しかし断固とした笑みを浮かべた。


「隼人様のアースポート滞在期間は、当初の『数日』から『約3ヶ月』に延長されました。1日3回、計300回の交接ノルマを完了することが、地球降下の絶対条件となります。

ええ。アースポートの全区画から選りすぐりのエリート女性たちが、既に300名の順番待ちリストを作成しております」


窓の外を見やると、漆黒の小惑星基地の向こうで、青く美しい地球が静かに輝いていた。

すぐそこに見えている憧れの故郷。だが、そこへ辿り着くためには、この鉄と岩石の要塞で300回のノルマを果たさなければならない。


(……地球に降りる前に、俺の寿命が尽きるんじゃないだろうな?)


豪華なベッドの上で、俺は静かに天を仰ぎ、深く、長すぎる溜息をついた。

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