↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

SE-L4の氷晶

「隼人様! 400人ご達成、誠におめでとうございますーーっ!」


割れんばかりの歓声と拍手が、サジタリアスの食堂に響き渡った。


目の前に差し出されたのは、からあげ、ピザ、ドーナツ、壁には大きく『祝・400人斬り&妊娠確定58名突破!』と踊るような文字で書かれている。


「……あの、食堂でこんなパーティーを開くのはどうなんでしょうか」


俺が困惑交じりに呟くと、周囲を取り囲む女性クルーたちが「何を仰いますか!」「偉大な功績です!」と口々に熱い視線を送ってきた。


地球艦隊に身を投じてから、4か月と少々。

俺の「お仕事」は順調そのもの……というか、想像を絶するペースで成果を上げていた。


これまでに肌を重ねた女性クルーはちょうど400人。そして、艦内の医務室から上がってきた最新データによれば、既に58人の妊娠が確定しているという。


しかも、現代の地球人女性は、遺伝子レベルで「多胎体質」が定着している。1回の妊娠で平均4人を出産するのだ。つまり、現時点で確定している58人の妊娠だけで、すでに230人から240人近い子供がこの世に誕生することが約束されている計算になる。


地球に到着する頃には、俺の子どもは優に360人を超えているだろう。


(男女比1対5000という狂った世界で、なぜ人間という種族が絶滅せずに社会を維持できているのか……長年の疑問だったが、カラクリはこれか)


1人の男性が多胎体質の女性たちと交配することで、人口(といっても99.9%は女だが)が維持される。


もっとも、地球軍の軍医が驚嘆混じりに教えてくれたところによると、一般的な地球男性は「1日1回」の射精が限界で、受精率は10%程度。

そこに現れたのが、受精率ほぼ15%、1日3回の俺(マリオ・武田 / 藤堂隼人)だ。

地球軍の基準で言えば、俺の生殖能力は「1万人に1人」レベル。1人で4~5人分の働きらしい。


(地球人がリスクを冒してまで金星に侵攻し、男を浚おうとするわけだ。単なる性欲や憧れだけじゃない。種としての生存本能そのものが、彼女たちを『拉致戦争』へと駆り立てているんだな……)


そう考えると、彼女たちの過剰な情熱も、どこか切なく、そして重く感じられた。


◇


パーティーが和やかに終わり、自室兼作業場へと戻る途中、俺は観測デッキの円形窓に立ち止まった。


強化ガラスの向こう、漆黒の宇宙空間には、普段見慣れない光景が広がっていた。


太陽-地球のラグランジェ4——「SE-L4」。


地球の公転軌道上で前方60度、距離にして約1億5,000万キロメートル離れた位置に存在する、重力的に安定した宇宙の「ポケット」だ。地球の公転位置で言えば、ちょうど地球の2か月先だ。


地球への帰路で言えば、全航程の3分の2を消化し、残りあと3分の1という絶好の中継地点だった。


(……静かだな)


俺は窓に寄りかかり、遠く浮遊する群れを見つめた。


SE-L4補給基地——そう聞いて俺が想像していたのは、巨大な金属製の宇宙ステーションや無数のトラス構造が組み合わされた大要塞だった。

だが、実際に外に浮いているのは、金属の塊などではない。


黒い宙域に浮かんでいたのは、厚さわずか0.02ミリの白い薄膜(遮熱フィルム)で厳重に包まれた、2.8×1.5×0.5mの直方体——重さ2トンの『氷のブロック)』の巨大な群れだった。それが実に数千個、総量にして10,000トンを超える氷が無重力空間に浮遊している。


その周囲を、少数の自動ロボット作業船が静かに蠢き、艦隊の牽引索に氷ブロックを引っかけていく。


「素晴らしい眺めでしょう、隼人様」


振り返ると、いつの間にか志野さんが傍らに立っていた。


「ええ。ですが……これが『補給基地』だとは思いませんでした。ただの氷の山に見えます」


「ふふ、宇宙航行における真の宝とは、金やダイヤモンドではなく『水』ですからね」


志野さんは満足そうに窓の外の氷晶群を指さした。


「我が艦隊の主機関である核熱ロケットも、巡航用の核電気推進機も、すべて反応堆積物(プロペラント)として『水』を使用します。ここで減速用の水を補充できるからこそ、私たちは金星を出発してから前半の航程を、推進剤の残量を気にせず『全速力の全力加速』に充てることができたのです」


「プロペラント・バジェット(推進剤予算)の最適化ですか」


「その通りです。もしこのL4デポで補給が受けられなければ、最初から減速用の水を抱えて航行しなければならず、加速に使える水は半分以下……結果として航行時間は2倍近くに伸びていたでしょう。万が一、ここで補給を受け損ねれば、地球から高速タンカーを打ち出してもらい、地球を通り過ぎた後で減速・反転して戻ってくるハメになります。帰還が1か月、下手したら2か月遅れることになりますね」


そう言って、志野さんは胸を撫で下ろすように息を吐いた。


補給作業は極めて順調に進んでいた。

あと数時間もすれば補給は完了し、艦隊は最終減速シークエンスへと移行するはずだ。


地球まで、後2ヶ月。


今の地球はどうなっているのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。