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悪魔の従者様はカフェランチがお好き  作者: 宮河小川


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8/18

第8話 悪魔の従者様は悪魔協会の話がお好き

読んでいただきありがとうございます。

最後のほうに少しだけ、蛇嫌いの人にはたまらないような描写が、少しだけあります。ごめんなさい。

「なるほど、狭いと聞いてはいたが、これほどまでに狭いとは」 


 詳しい話は戻ってからだ、というダンテさんの言葉に、嫌な予感はしたが、やっぱり私の狭い部屋に男三人が上がりこんできた。


「あぁ、そこで靴を脱いでください、そうしないと加奈子が怒るので」

「しかしこれでは、足が汚れてしまうではないか」


 靴の置き場に困るので、いっそのこと靴のまま上がってもらってもいいかなとあきらめたくなるほど、ダンテさんの靴も大きかった。


「しかし、こんな狭い空間に四人もいると、空気が足りなくなるのではないか?」

「こちらの隙間が、空気穴になっております、ご安心を」


 二人の会話に突っ込む気力も怒らない、もう好きにして頂戴。


 ダニエルさんがダンテさんの座布団を用意したりと、あれこれかしずいているので私は、みんなのお茶を入れてあげた。


 小さいテーブルを囲むように座る男性陣に香りのよいお茶を届ける、片膝を立てて壁にもたれ、完全リラックスなデリックさん、座布団に胡坐をかいて座るダンテさんとは対照的に、背筋を伸ばして床に直接正座のダニエルさんがなんだか以外、育ちの良さを感じる。


 案の定私は部屋の外、キッチンの床にちょこんと座って、いつの間にかテーブルに数枚の書類を前に、私には理解できない話をしている三人を眺めながらお茶をすする。


「ここを皆さんの拠点にするというなら、もう少し広い部屋に引っ越そうとか、考えないんですか?」

 頃合いを見て話しかけたら、三人の鋭い目線が一斉にこっちを向いた。


 だ、だって皆さん、狭いと何かと大変でしょうし、などと言い訳をしている私に。

「そうはいっても予算が足りなくてのう」

 ダンテさんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「それでなくても日ごろの必要経費で、お上からさんざん文句を言われておる、これ以上の形状は見込まれぬのだ、許せ」


 一杯三千八百五十円のコーヒーなんか飲むから。


「あぁ、案ずるな加奈子、ここの家賃とそなたへの賃金はきちんと払わせていただく所存である」

「左様でございますですか」 


 つられてこっちまで、変な言葉使いになってしまう。


「こんな狭い場所でも、ちゃんと雨風しのげるから、いいじゃねぇか」

 デリックさんには欲がないのか、それとも普段からもっと過酷な状況で仕事していたのかしら、ちょっと想像したくない、お給料もらえてしかも家賃まで払ってくれるのだから、文句は言っちゃいけないかな。


「このパソコンとて、経理部にさんざん文句を言われながらも、なんとか手に入れたのだ、大事に使ってくれたまえ」

「パソコン?」


 ダンテさんは、何も持っていない両掌を私の前に差し出してきた、何だろうと思っていると、突然その掌の上に、ノートパソコンが現れた。


 あら不思議。


 まるで手品か魔法みたいに、ボムンと現れたパソコン、見た目は普通のパソコンだった。


「悪魔協会のパソコン故、面倒な設定も複雑な操作もいらぬ、誰にでもすぐに簡単に扱えるようになっておる、これで心置きなく、報告書を作成してくれたまえ」


 マウスはコードレスだし、充電もその何とか協会の力のおかげで必要ないらしい・おまけに今ダンテさんがやった手のひらにボムンってやつ、私にもできるのだという。


「閉じたいと思いながら両手を合わせると消える、出すときは、出したいと願えばよい」

 あ、ホントだ、凄い!


 どんな仕掛けなのか想像もつかないけれど、ポムンポムンと、パソコンが私の目の前で現れたり消えたり。


 なにこれ面白い、面白いけどなにこれ。一瞬で頭から血の気が引く。

 固定概念が根本から崩れ落ちる。


 昨日から目まぐるしく起きる、説明のつかない出来事、得体のしれぬ人たち、そんな人たちと今まで平気で渡りあってた私って。


 だんだん怖くなってきた。

 突然おびえだした私に気付いたのか、ダニエルさんは、今までにないくらい優しい表情になった。


「そう言えば、加奈子には詳しい話はまだだったな」


 ダニエルさんやデリックさんの事は怖いとは思わない、もちろんダンテさんの事も、ただ、昨日倒した奴らは何者で、この人たちも何者なのか、分からないことが怖いんだ。


「そなたは、悪魔といえば、何を思い浮かべる?」

「デーモン〇暮閣下」

「誰だそれは?」


 キョトンとしているダンテさんに、自らを悪魔と名乗っている芸能人がいて、などと説明すると、そういうことではないと言われた。


 それならばと考えて想像してみる、黒い恰好をして、コウモリみたいな黒い羽が生えていて、矢印みたいなしっぽがあって、羊みたいな角があって。


「なかなかに可愛らしい悪魔であるな」


 悪魔とは、天使に相対する存在とされていて、普段は人前に出ないが、いざという時に現れて人々を惑わし災いをなす、人を恐怖に陥れたり時には天罰を下したりする、それが悪魔だとダンテさんは言う。


「何それ、怖っ」

「恐れることはない、これも世界にとっては必要な存在なのだ」


「必要って言われても……」

「想像してみたまえ、この世に、光しかないとしたら」

「んん?」


「天使の力とはすなわち光、その光とて、影があるから美しいのではないかね」

「うむむ」


「光しかない世界に形を造り影をなし、色を付けてゆくのが悪魔の仕業、光が無くては生きてはいけないが、影が無くては光そのものも存在し得なくなってしまう」


 成程、よく解らない。


「そんな悪魔たちの行動を把握し、陰日向で支え、悪魔という存在を知ってもらうために営業し、日々の活動を楽しんでもらえるようなイベントを企画し、無駄のない予算を組み、運営してゆく、それが悪魔協会の仕事だ」


 芸能プロダクションか。


「もちろん、協会で働く社員の福利厚生も充実している、完全週休二日制はもちろん有休も好きなだけ取っていい、冠婚葬祭も産休制度も整っている」


 悪魔は黒いのに、ホワイト企業だ。


「年に一度は、慰安旅行にも行ける」

「へぇ」


「去年は、サンタクロースの国へ行って、トナカイレースを見学してきた」

「フィンランドじゃなくて? ガチサンタの国ってあるんだ」


「来るべきクリスマスに向けて、トナカイの訓練場を観光地化する、各トナカイにオッズを付けてレースをすれば更に収入も見込めるという、なるほどあの時は参考になった、有意義な旅であったぞ」


 オッズて、競馬ならぬ競トナカイ、世界から集まるそういう人たちからの観光収入や掛け金が、子供たちへのプレゼント資金にしていたのか、凄い、非現実的な世界のイメージが崩れていく。


 そんな芸能プロか役場みたいな会社で、ダンテさんや、ダニエルさんデリックさんたちは働いているのだ。


「拙者たちの主な任務は、悪魔たちが取りこぼしたザコの処理や、反逆者の処分のほかに、悪魔協会へのスカウトもしておるのだ」

「スカウト?」


「日本支社では今、深刻な人手不足に陥っておる」

 今さっき、三十人ほど始末してきたしね。


「いや、反旗を翻した時点で、辞表を出したも同然」


 悪魔協会を勝手に抜け出し、人間界で大暴れしたとあれば、協会の連中も黙ってはいない、悪魔と協力して強力な兵士を送り込んでくる、その騒ぎに乗じて、手薄になった悪魔協会を乗っ取り、協会と悪魔を支配する、そういう手はずだったらしい。


「へぇ、大変な事になるところだったんですね」

 強力な兵士を送り込む前に、このお三人さんにあっけなくやられてしまったけどね。


「それもダニエルとデリックのおかげだ、改めて礼を言う、ご苦労であった」

 胡坐をかいたままダンテさんは、両手拳を床につけ、二人に向かって頭を下げた。


「加奈子にも礼を言わねばな」

 ダンテさんの武士っぷりに見とれていたら、今度には私のほうに向きなおって、また頭を下げたものだからびっくりした。


「い、いえいえいえ、私は何もしてませんよ、頭なんて下げないでくださいよぉ」


「遠慮は無用、成果を上げた者に対するせめてもの礼儀だ、堅苦しく考えなくともよい」


 今までこんな風に誰かに褒めてもらったり、労をねぎらってもらったことなんかなかったから、何だか首のあたりがこそばゆい。


「あ、でもあんな安っぽい花火のような火薬で、クーデターを起こそうと考えたなんて、あのテロ集団も間抜けですよね」


 照れくささを紛らわせようとして、わざと陽気に言ってみたら、なぜか三人とも神妙な顔つきになった。


「あれがもし、本当に爆発していたとしたら、あのような駅の一つや二つ、軽く吹き飛ばしていたであろう」

「へ?」


「そうそう、ダニエルさんの力で、ウナギの屁みたいに抑えられたんだよ」

「へぇ」


 ウナギの屁、って何。

 ともかく、あんな強靭な爆発物を花火程度に抑えたって、どんなすごい力なの、パソコンを指先一つでダウンさせるほどなんだから、花火をナパーム弾に変えちゃいそうな人なのに。


「でもよぉ、あの連中は協会と悪魔たちを乗っ取って、何をしようとしてたんだろうな」


 デリックさんは、すっかり冷めてしまったお茶を、湯呑みの中でくるくると回しながら、そうつぶやくと、残りを一気に飲み干した。


「さぁな、馬鹿どもの考えることは、理解に苦しむ」

 ダニエルさんがそう返すと、ダンテさんがつなげる。


「悪魔たちはある意味単純だからな、支配されそうな雰囲気になれば、怒りに任せて協会を亡きものにしてしまう恐れもあったというのに、なんとも阿呆な連中だった」


 私の知らない世界の話だ。

 経緯はともかく、そんな悪魔たちのお手伝いをすることになった私って、大丈夫なのだろうか、また今日みたいなことがこれからも続くのかしら。


 そんな不安が表情に出ていたのか、ダニエルさんがふと、表情を和らげた。

「心配するな、今日のような戦闘が頻繁にあるわけがない、普段は静かなものだ」


「そうなの? でも私はただの人間なんだし」

「案ずるな、加奈子のように、悪魔協会に協力してくれている人間もたくさんいるのだ、珍しいわけではない」


「私から見ればあなたたち悪魔の存在が珍しいわ」

「誤解の内容に言っておくが、われらは決して悪魔ではない、もともとは人間だったのだ」


「人間、だった?」

「詳しい話は、またいずれ説明してやろう、もうこんな時間だ」


 ダニエルさんがそう言いながら立ち上がって、上着を脱ぎ始めた。


 何するのだろうと見ていると、取り出したのはマリメッコのエプロン、もうそんな時間、お腹すいた。

今日は何を作ってくれるのだろうと考えながら、厨房に立つその背中を見守る。


 冷蔵庫を開け、取り出した野菜たちを切る軽やかなリズムが聞こえだすと、そこはもうダニエルさんのオンステージ。


 中華鍋から立ち込めるごま油の香ばしい香り、投入された野菜たちが、お玉とともにダンスを踊る、炊飯器の水蒸気がコーラスを奏で、肉が歌いだす美味しくなぁれと。


 美味しくなって最後の仕上げを施せば、ダニエルさんのタクトが大興奮のままフィニッシュ。


 今日のメニューは、八宝菜とから揚げだ、ヘルシーだけどこってりしっかり、カロリーが高そうで美味しそう。


 今日はダンテさんもいらっしゃるので、テーブルが手狭だと思ったら、いつの間にか折り畳みテーブルがもう一つ出てきた、いつの間にか買っていたらしい、凄いな、いつかはダンテさんが来ることも見越していたのですね。


 おかげで四人収まった。

 いただきますして、早速八宝菜を。


 出汁がしみ込んで、柔らかくなった白菜に、ぷりっぷりのエビちゃん、口の中でぷつジュワァってなる鶉の玉子、豚肉も個性を主張して美味しいし、きくらげの歯ごたえも最高、彩りの人参でさえしっかり味が染みて、さすがダニエルさん。


 みんなで旨い旨いを繰り返し、箸が止まらない。


 そしてこのから揚げも、じゅわっと肉汁がジューシーで、味付けもしっかりされているので、あっさりして食べやすい、衣の味付けかなぁ、こんなにあっさり食べられるのは。


 あっさり……。


 ふと、昼間の会話を思い出して、変な汗が出た。

 あの時は、美味しければ大丈夫だと話していたのに、こうなる前の姿を想像してしまい、ちょっとやっぱり抵抗がある。


「も、もしかして、このから揚げって……」

 恐る恐る聞いてみた。


 私が何を聞きたいのか、察しがついたダニエルさんは、ありえないほどの不気味な笑みを浮かべた。


「う」


 どうしよう、食べちゃったよ、美味しかったよ、美味しかったけどぉ、胃の中で、から揚げがあのリアルな蛇に戻ってしまった姿を想像してしまって、体中の血が逆流する。


 そんな私の様子を見て、ダニエルさんが笑いだした、まるでいたずらが成功した子供のように。


「蛇がそう簡単に、スーパーで手に入ると思うか?」

 入らなくていいですぅ~‼


読んでいただいてありがとうございます。

蛇の描写大丈夫でしたでしょうか、私も実は蛇が大の苦手です。

蛇のから揚げは食べたことはないのですが、食べるときっとこんなことになってしまいそうで、皆さんを巻き込んでしまいました。ごめんなさい。


追記 このような描写は、この先は予定しておりませんので、ご安心を。

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