第7話 悪魔の従者様は戦闘もお好き
読んでいただいてありがとうございます。
今回少し、いやかなり、残忍なシーンがございます、グロが苦手な方ごめんなさい。
夕方の帰宅ラッシュで込み合う駅構内。
木を隠すなら森の中、人が隠れるなら人ごみの中。
グレーの薄汚れたパーカーの帽子を目深にかぶった怪しげな男が壁際でコソコソして、薄汚れたハンカチを落としても、誰も見向きもしない。
万事この調子で街をさまよい、駅の裏手から少し離れた場所にある古びた神社へとやってきた。
普段人通りの少ないおかげで、広い境内にはほかに人影も見えない、だが、このパーカーの男が到着すると、どこに隠れていたのか、境内のあちらこちらから、同じようなパーカーを着た男たちが大勢出てきたのだ。
数にしてざっと三十人くらいか、昨日自転車で轢いた人たちがたくさんいる。
駅にいた男を取り囲むように集まると、無事に計画通りのポイントに例のブツを投入してきたと告げると、皆一斉に喜びの声を上げている。
やがてその声は静かになり、そわそわと落ち着かない様子で駅のほうを気にしだした。
「もうそろそろじゃないのか」
一人がそうつぶやく。
もうそろそろ仕掛けた例のブツが暴れだすころ。
緊張の瞬間。成功へのカウントダウン。
「どっかーん‼」
境内に大きな声が響き渡る。
皆驚いたのは言うまでもない。
駅方面とは違う方角から、しかも本物の爆発音ではない。
その声はパーカー軍団のすぐ後ろから聞こえ、振り向くとそこは神社の拝殿、その屋根の上に夕日をバッグに、肩ひじを立ててかっこよく座っているデリックさんがいたのである。
「貴様ら、協会の仕事をほっぽり出して、こんなところで遊んでいやがったか!」
デリックさんを見て、パーカー軍団に驚きと緊張と焦りの色がうかがえる。
デリックさんはこれまたかっこよく、軽くジャンプして地面に降り立った。
「反逆者がどうなるか知らないお前らではないだろ、あぁ⁉」
パーカー軍団たちを威嚇して、まさにチンピラ。
しかしパーカー軍団も負けてはいない。
「一歩遅かったな、この付近のいたるところに爆薬を仕込んでおいた、もうすぐこの一帯は火の海だ」
「そうだ」「そうだ」と一斉に勝ち誇ったように騒ぎ立てるが、そんな彼らの後ろに立ったのはダニエルさん。
「もしかして、これの事かな?」
驚いて振り返るパーカー軍団に、ダニエルさんは大きな手のひらを広げて見せた。
そこにはカナブンくらいの大きさの黒い丸い塊が全部で六つ。
これはさっきパーカー男があちこち歩きまわって仕掛けていた例のブツ。男のあとをこっそりつけて、すべて回収してきたのだった。
そのブツたちは、ダニエルさんの掌の上で、軽く煙を上げて跡形もなく消えていった。
この人たちはバカなんですか、こんな程度の爆発で街を吹っ飛ばすつもりだったんでしょうか。
でも小さいとはいえ、ボヤ騒ぎがあちこちであったとなれば、関係者や町の人に迷惑がかかってしまう。阻止できてよかった。
「よくも、悪魔協会のゴミムシどもが!」 「デッドの仇!」 「悪魔の下僕どもめ!」
パーカー軍団の反撃が始まった。
一斉にダニエルさんに襲い掛かるが、その前にデリックさんが立ちはだかる。
敵方はそれぞれ鉄パイプだの、木刀だの野球のバッドだので攻撃してくるのに、デリックさんは丸腰だ。
角材を上限の構えで襲い掛かる敵に、低姿勢から拳をその腹にめり込ませ、さらに姿勢を落として足蹴り、バランスを崩し倒れたところにエルボードロップ。
からのすぐ後ろの敵に、片手逆立ちの姿勢から顎を蹴り上げ、その反動で立ち上がり顔面膝蹴り。
続いて敵の後ろに回り、ねじ伏せた腕をあらぬ方向に曲げたかと思うと、別の敵に瞬間回し飛び蹴り。
すごい、デリックさん強すぎ。
私はそんなデリックさんを、ダニエルさんの後ろに隠れるようにして見ているだけだけど。
しかし多勢に無勢というか、さすがのデリックさんも、この数相手だとかなり大変そうで、次第に敵の攻撃も受け始めた。
「このままじゃ、デリックさんが!」
「大丈夫だ、心配なら加奈子が体当たりすればいい」
「無理ですぅ!」
「使えない奴だな」
ダニエルさんはわざとらしく舌打ちした。
「使えないですぅ、助けに行こうにも私だと返り討ちにあってデリックさんのあして惑いになっちゃいますってば!」
「冗談だ、お前はここで黙ってみていろ」
ダニエルさんはそう言って、腰のベルトに差してあった細長い懐中電灯なようなものを取り出し、軽く振り下ろすと、それは青い光を放つ、先の長いサーベルになった。
凄い、スターウォーズみたいだ。
ダニエルさんはそのまま、戦闘中の敵にゆっくりと歩み寄っていき、サーベルがくるりと跳ねたかと思うと、敵の首を撥ねた。
「え……?」
更に三つ四つと、敵の首が飛んで行く、まるで草刈りでもしているかのような動きで。
スポーンという効果音でも聞こえてきそうな勢いで飛び跳ねた首が、天に舞い、地面に落ちると、あろうことか唖然と立ち尽くす私の前に、ごろりと転がってきた。
私の足元で止まる首、口はだらしなく開かれ長い舌が垂れ下がっている、そしてその目は大きく見開かれ、私をにらみつける。
「ひ、ひぃぃ……‼」
恐怖のあまり腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。
ダニエルさんが人を切った、殺人事件だお巡りさんだ、警視庁二十四時、犯人逮捕だ強面刑事さんとカツ丼食べたら刑務所。思考が追い付いていかない。
ただのんきなテロリストたちをシバいてイテコマスだけじゃない、プロの殺人集団、こんなの聞いていない!私の足元で人が死んでる、それも首だけになって‼
って、あれ?
私をパニックに陥れたその首は、どういう仕掛けか、風に吹き飛ぶ砂のようにサラサラと消えてゆく。
戦闘中のダニエルさんとデリックさんを見ても、倒された敵キャラたちが、みんな砂になって消えてゆく。
まるでゲームかAIでも見ているようだ、何が起こってるのだ。もしかすると刑務所には行かなくてもいいってことか、私の腰は腑抜けのままだけど。
その時私の体がフイに軽くなった、誰かが後ろから私の体を抱き起してくれたのだ、誰だろう親切な人――だと思ったら、その人もグレーのパーカーだった。
「げ!」
抵抗する間もなく、腕を取られ背中へとねじ伏せられる、その勢いでパソコンが派手な音を立てて地面に落ちた。
キーがいくつかはじけ飛び、、画面が割れて、知らない部品が解放されて飛び出してる。
痛い。
「貴様らおとなしくしろ、こいつがどうなっても知らんぞ!」
私を捕まえた奴が、大声で叫ぶ。
その声に気付いたデリックさんとダニエルさんも、両手を上げて降参のポーズをとってしまった。
ダニエルさんはビームサーベルを放棄してまで、敵に抵抗できないでいる、残りの敵に体をつかまれてしまった。
どうしよう私のせいだ。
「ご、ごめんなさい」
絶望的な場面なので何度でも言ってやる、どうしよう私のせいだ、失業のどん底にいた私を救ってくれた人(原因を作ったのもこの二人だけど) 美味しいオムライスを作ってくれて、狭いキッチンを素敵に改造してくれて、奢ってくれたお高いコーヒーも極上の味だったです。
そんな二人に何のお礼もできないまま、大ピンチを招いてしまっている。
抵抗しようともがいても、敵の力でびくともしない。
「ここまでだ、悪魔に使えるゴミムシどもが!」
私を捕まえたままパーカーが叫ぶ。
「貴様らは恥ずかしくないのか、あんな無能で低俗な悪魔どもに支配されて蔑まされて、それでもなおしっぽを振って使えるというのか、俺はもうたくさんだ!」
仲間割れ?
「これからは俺たちが悪魔どもを支配する、この俺様が悪魔界の頂点に立――」
高飛車で叫んでいた男の声が急に消えたかと思うと、拘束していた腕が緩んだ、何が起こったのかと横を向くと、赤くて大きな気持ち悪い物体が赤い液体をまき散らしながら、前に倒れていった。
あまりの気持ち悪さに顔を背けると、反対側にも同じような物体が地面に倒れこむ。
そしてサラサラと風に乗って消えていった。
何が起こったかは知らないが、私を捕まえていたパーカーが突然真っ二つになったのだ、まるで竹をパッカーンと割ったみたいに。
どうせ消えるのなら、内臓を見せずに消えてほしかった、私のパソコンを弁償してほしかった。
「何を誤解しているかは知らぬが、拙者どもは悪魔に支配されているつもりも、悪魔にしっぽを振っているつもりも毛頭ない!」
更に後ろから声がした。
そこにはダニエルさんが持っているのと同じようなビームサーベルを構えた眼鏡スーツ姿の男性、今まさにパーカー敵男を真っ二つに切り捨てたであろう体勢を立て直しながら、言葉を続けた。
「貴様らごとき雑魚連中が悪魔界の頂点に立てるなど、思い上がるな、片腹痛いわ‼」
「あ、あの……」
誰だろうと助かったことに変わりはないし、お礼を言おうとしたら、私なんぞに見向きもせず、まっすぐ前だけを見て、敵キャラたちのほうに向かってゆく。
そのころにはもう、デリックさんもダニエルさんも、捕まえていた敵をさわやかな風の中へ。
後はもう、残りの雑魚パーカー鎮圧まで、そう時間はかからなかった。
夕日はもう山の向こうへとお休みになられ、薄暗い境内の照明がうっすらと三人の姿を照らす。
戦闘態勢だった体も緩めて、デリックさんとダニエルさん、そして後から来た男性、しばし彼らと言葉を交わしてのち、私のもとに歩み寄ってきた。
改めて前に立たれると、スレンダーでクールなイケメン高身長、サイドに分けた前髪が緩くカーブして頬にかかっている。
大きい黒縁眼鏡に彫りの深い西洋風な面立ちは、ジョニーデップに似てなくもない、かっこいい。
「はじめてお目にかかる、拙者、悪魔協会日本支社西日本エリア支部危機管理部長、ダンテと申すもの、以後、お見知りおきを」
恭しく頭を下げられて名刺を手渡された。
このダンテさん、クールで厳しそうな外見とは違い、腰が低くてしかも武士語、なにこれギャップ萌えを狙ってるの⁉
「話はダニエルから聞いておる、下僕としては、まだまだ役立たずで未熟ながらも、体を張って懸命に働いてくれたそうではないか、悪魔協会もそなたの参入を大いに歓迎する次第である」
「は、ハイ、ありがとう、ございます……」
今一瞬デスられた気もするけど。
「これからも大いに活躍して、二人を支えてやってくれ」
支えろって言われても、さっきも人質になっちゃって、二人の足を引っ張ってしまったばかりなのに。
「で、でも私、大事なパソコンを壊しちゃったかも」
これがないと、役立たずなうえに、更に役立たずになっちゃう。
無残な姿のなってしまったパソコンは、デリックさんが拾い上げてくれた。
「あー駄目だなこりゃ」
液晶画面から持ち上げて、ブルンブルンと揺さぶっている、中からカシャカシャと変な音まで聞こえるよ。
「ちょ、やめてください、私のなのに」
慌てて、ひったくるように奪い返した、パソコンは精密機械、叩いて治るような代物じゃないんだから。
「もぉっ、どうしてくれるんですかあ!」
「なんだよ、最初からぶっ壊れていたじゃねーか」
確かに、最初に落としたときに、完全にトンだとは思うけど、とどめを刺したのはデリックさんだと思う。
「あぁ、最悪ぅ……」




