第15話 悪魔の従者様はトラブルはお好き?
読んでいただきまして、本当にありがとうfございます。
あともう少しの辛抱でございます。
「本当にいいのか、貴重な願い事をそのようなことに使って」
「いいんだもん、それで良介さんの本当の気持ちがわかるのなら」
私の決意は固い。
女の勘が働くの、私を避けるようになった本当の理由がきっとあるはず。
だから、それでもし、本当に別れるようなことになったとしても後悔はない、この愛の前では、どんな障害も無敵になるの。
私は強くなったのよ、この二人の上司のおかげで。
近くのカフェに入って、パソコンを取り出し、悪魔協会のホームページを出す、この黒い悪魔のグロテスクさにもすっかり慣れて、さぁ、願い事を打ち込んでゆくよ。
『風邪をひいて、岸谷クリニックに通院したい』
さぁどうだ、OKはよ出ろ、アックーマ君を出せ!
ところが、画面はなぜか、青いクルクルが回ったまま、画面が切り替わらない。
変わらないどころか、ピココン、っと警告音が流れて、そして。
「エラー」
「なんだと⁉」
それまで私の向かいに座って、優雅にコーヒーを頂いていたダニエルさんが、私の隣に座りなおした。
「操作手順間違えたんじゃねぇのか?」
デリックさんも驚いたように前のめりになっている。
「いつも通りやったよぉダニエルさんは触らないでください」
あれから何度もやっている操作手順、間違えるはずもなく、もう一度やってみたけれど、やっぱりエラー。
「パソコンが壊れちゃったとか?」
でも他の操作は問題ない、ちゃんと使えている、ユーチューブだって流れる、でもやっぱりエラーが出た。
さっきから神妙な顔でずっと、画面いっぱいに表示されるエラーの文字を見ていたダニエルさん、突然立ち上がった。
「協会に行って、徹底的に原因を突き止めてくる、それと加奈子」
「はい」
「私が帰ってくるまで、あの医者には会うな」
「えぇぇぇ、何で!」
「どうも嫌な予感しかしない、もしかすると今回のエラーは、お前自身に原因があるのかもしれぬ、それがはっきりするまで、余計な行動は慎め、あの医者のためにもだ」
解ったようなわからないような、でも良介さんの話を出されると、これ以上抵抗できない。
「じゃぁ、できるだけ早くお願いしますね」
今はただダニエルさんに従おう。
「わかった、私を信じろ」
そういってダニエルさんはトイレのほうに歩いて行った。
見届けたら、デリックさんも立ち上がる。
「さぁ、俺たちも帰るぞ」
「え、でもダニエルさんがトイレに」
「ダニエルさんなら、原因を調べに悪魔協会に行った、戻るまでしばらくかかるだろうから、俺たちは家で待っていればいい」
なるほど、トイレの壁に、例の悪魔城のどこでもドアを出して、行ってしまったのね。
「これって、そんなに大げさなことなの?」
「そんなに大げさなことだ」
家に帰ってから、デリックさんが教えてくれる。
「悪魔の力は絶大だ、加奈子に風邪をひかすことなんか簡単にできちまう」
「この願い事って、悪魔の力で叶えてくれるの?」
「そうだ、ここに願い事を打ち込んで送信すると、悪魔協会の事務局に届く、その事務局から、悪魔にお願いしをて、力を与えてもらう、そういう流れになってんだ」
解ったようなわからないような。
「今回のエラーがどの段階で出たのかで、意味が違ってくるだろ」
「パソコン自体に不具合はなかったよね」
「ということは、事務局にも届いているはずだ、だから悪魔は加奈子に風邪をひかせようとする、もしかするとその力が、何らかの理由で加奈子から跳ね返された」
「どんな理由?」
「バカは風邪ひかないとか」
悪魔の力を跳ね返すほどのバカ、って何⁉
「それは冗談かもしれねぇけど、とにかくこのままじゃ」
いつになく真剣な表情のデリックさんに、思わず私も真剣になる。
「このままじゃ……?」
「矜持が許さない!」
「は?」
「悪魔協会への願い事がエラーを出した事が、ほかの協会にバレてみろ、これだから悪魔は、って後ろ指でも指されかねねぇ、そんな事になったら、悪魔協会や悪魔たちの威厳にかかわる」
「そっか、いろいろと大変なんだ……」
「まぁな」
今はただ、ダニエルさんに任せて大人しく待とう、ということになった。
待つ、と言っても、何をしていいのかわからず、ごろりと横になり、テレビをつけたデリックさんをぼんやり眺める。
ポチポチとチャンネルが切り替わってゆく、CMが流れて幼い子供が画面に映った。
「そういえば、ダニエルさんの子供の頃ってどんなだったんです?」
デリックさんは驚いた様子で私を振り返るが、ダニエルさんから聞いたというと納得したのか笑顔を見せた。
「かわいかったぞ」
「そのころの写真とかないんですか?」
「残念ながらねぇんだよ、そもそも協会にいるものはカメラに映らねぇ」
一度死んだ人間だからな、と、デリックさんが体を起こした。
「えー、見たかったな、五歳のダニエルさん、それと子育てしているデリックさんも」
想像つかないだけに、見たかったなぁ、ぐずるダニエルさんを、おんぶとかしてたのかなぁ。
「別に俺だけが面倒見ていたわけじゃねぇーよ」
五歳で協会に入ったとはいえ、まだ五歳、でも甘やかして育てられたわけじゃない、いずれは中核を担う人材になると期待されて、協会の人たちやときには悪魔たちも協力して、協会に正式に入社するまで、徹底した教育を受けたそうだ。
「すごい意味で英才教育ですね」
「おかげで今は、パソコンをぶっ壊すほどの力を持った」
人として一通りの青春を送るはずだった少年が、悪魔に囲まれて暮らす、福利厚生はしっかりしていたようだけど、それでも、何を思い成長していったのだろう。
「じゃぁ、ダニエルさんの願い事って、何だったんです?」
デリックさんは、満面の笑みを浮かべながら言った。
――
教えてもらった言葉に、泣きそうになった。
あれから、ダニエルさんからの連絡がないまま幾日が過ぎた、ただ待っているのも忍びないと、二人であちこち出かけては、おいしいカフェを見つけたり、困っている人の願いを叶えて悪魔協会へ勧誘したりしていた。
良介さんに会いたいなぁ、会いに行ったらだめなのかなぁ、何でダニエルさんは帰ってこないんだろう、いない間は私がご飯を作るのだけれど、やっぱりダニエルさんのご飯が恋しい、恋しいのは良介さん、ご飯はダニエルさん。
デリックさんはご飯どころか家事一切まったくやらない、やろうともしない。
まるで日曜日のお父さんみたいにゴロゴロとサザエさんを見ている横で、洗濯物をたたみ終える、さぁ、ご飯の支度をしなくっちゃ。
あーあ、ダニエルさんのご飯が食べたいなぁ、私の料理の腕もそれなりだとは思うけれど、私の料理なんてダニエルさんに比べたら月とスッポン猫に小判……。
「猫に小判を食わせるのかお前は!」
大きなため息をついた私のすぐ後ろから声がした。
「ひやぁ!」
懐かしい声だったけれど、いきなりだったので驚いたよ。
後ろには壁一面にどこでもドア悪魔城バージョン。
「だ、ダニエルさんお帰りなさい!」
「あぁ、ただいま……」
扉が消え、ダニエルさんの表情がはっきり見えて気付いた、かなりやつれている、頬はこけて目の下には大きなクマ。
「大丈夫っすか、ダニエルさん、かなり無理したんじゃ」
フラフラと、バランスを崩しそうになるのを支えて、これはかなりお疲れの様子。
「すぐにお布団引きますね、横になったほうがいいですよ」
私もダニエルさんを支えようと、手を伸ばすと、その手をいきなり掴まれた。
「あの医者の所に行くぞ」
良介さんのことかな?
「え、今から?」
もうすぐ夜になるし、第一診療時間ではないし、と言いかけたら、ダニエルさんが。
「そんなことは関係ない、今すぐ行くぞ、このままだとあの医者は死ぬ」
「え……⁉」
「そのうえで、加奈子には辛い選択をしてもらうことになる」
緊迫した空気に私は何も言えなかった。




