第12話 悪魔の従者様は逆バンジーがお好き
12話まで来ました、読んでくださってありがとうございます。
ファブラ様から守られるように、総理の前に降り立つ天使様。
あまりの眩しさに、ファブラ様は、威嚇の唸り声をあげるものの、頭を低くして後退の姿勢。
「莫迦め、何が悪魔だ、天使の前で無力化するようなゲスどもがぁ‼」
助かったと見えて、強気になった総理は、ダニエルさんを指さして罵倒し始めた。
「金には興味ないだと⁉ ふざけるな、ほしいに決まってるだろう‼ さぁ受け取れぇ、這いつくばってなぁ‼」
そういいながら、せっかく拾い集めた渋沢栄一様たちを、ダニエルさんの顔面目掛けて投げつけた。
「何てことしやがる、貴様ぁ1」
「よせ、デリック」
それでも微動だにせず、デリックをなだめるダニエルさんだった。
「悪魔だろうが、天使だろうが、関係ないね‼ わしがトップになれば、怖くもなんともないわぁ、貴様らなんぞひねりつぶしてやるわぁ‼」
助かったと思って強気になった総理が醜い笑い声をあげる、さっきまでみっともなく怯えていたくせに。
こんな奴が国の代表だなんて、最悪最低すぎる。
「わかったか屑ども、この世界を支配するのは、このワシだぁ‼」
その醜い咆哮は悪魔の叫びにも聞こえる。
「ないわぁ!」
私がどうのこうの言うより、後ろにいた天使様の表情が、みるみる曇っていくのが見て取れた。
美しい天使様が、総理を見下すようなジト目になっているよ。
「いやだ、こんな口汚い醜いおっさんを救うなんて、私には無理やわ、こんな奴天使協会にもいらないわ!」
「な、何を言い出すんだ、早くワシを助けないか、そのための契約であろう」
「は? まだ口約束の段階のくせに、この私に命令する気か⁉」
そのお美しさと、言葉使いのギャップがなんとも風情があるというか、逆に癒される、なにこれ面白い。
「顔だって、二度と見たくないくらいぶっ細工で気持ち悪いし、そんなおっさんが世界を支配するだぁ、ふざけんじゃねぇ‼ 世界なめんなぁ‼」
「そ、そう言わず、助けてくれ、頼む‼」
命乞いしてすがろうとしたのか、天使様が身にまとっているドレスの裾を、掴もうとしたその手を、天使様は足蹴りにした。
「気やすく触るな、加齢臭が移る‼」
どっちが悪魔かわからなくなる。
「そう言う訳なので、ケール、この話はなかったことにしてね、ファブラ様も、お邪魔して悪かったわね、あとは好きにしてくださいませ」
それではみなさん、ごきげんよう~。と、天使様は、唖然とする総理を残して天に舞い上がり、光の中に消えてしまった。
「あ、ちょっ、待ってくださいよぉ、ルーシー様ぁ~」
驚いた様子のケール青年も、天使様の後を追うように消えていった。
何だったんだ今のは、と、二人の消えた空を眺めていたから、次に目線を戻した時には、ファブラ様の口元から、総理の足元がちらりと見えただけで、ごくりと飲み込まれてしまった。
「丸呑み⁉」
断末魔の叫びも聞こえなかったし、残忍なスプラッタも見えなかったので、それは良しとしよう。
「何だよまったく、協会同士の取り合いや、無理な割込みはご法度のはずだろ」
デリックさんが独り言ちるように呟きながら、ダニエルさんのもとに駆け寄る、私もついてゆく。
「大丈夫ですか、ダニエルさん?」
足元には大量の一万円札が散乱している、人として最低なクズだったとはいえ、そんな男に札束を投げつけられたのだ、かなりの屈辱だったに違いない。
「名誉のために言っておくが、彼女はまだ駆け出しの新人天使だ力も弱い、もっと力の強い大天使くらいになれば、あのような醜い魂も、浄化することもできたであろう」
「そう、なんだ……」
自分のことより、相手の天使様のフォローをしているよこの人。
「そんなど素人新人天使に出し抜かれようとするなど、悪魔協会は何をしておったのだ」
また聞きなれない声がしたと思ったら、いつの間にか見知らぬ男性が立っていた。
「大丈夫だ、ファブラ様だ」
さっきの羽が生えたライオンみたいな悪魔が、人の姿になった。
柔らかそうな艶のある黒髪ショートヘアーに、ダボっとしたジーンズにチェーンがジャラリ、黒のインナーに毛皮のジャケット、ピアスと指輪はシルバーのドクロ、重そうな金のネックレス。
「この姿でいるのも疲れるが、本来の姿では町も歩けぬ」
ヤンキーかよ、しかも親が金持ちの。
いつものノリで心の中で突っ込みを入れたら、ファブラ様にギロリと睨みつけられた。
一瞬、心の中を読まれたかと思って、ダニエルさんの後ろに隠させてもらった。
睨むだけで相手を委縮してしまう眼力は、他を寄せ付けない迫力がある、怖い。
「ご無沙汰しておりますファブラ様、今日も一段とお美しくなられて、お会いできましたこと誠に恐悦至極にございます」
「堅苦しい世辞など良いわ、貴様らのせいで、せっかく手に入れた獲物を、危うく持っていかれるところだったのだぞ、どう責任取るつもりだ!」
「おっしゃる通りでございます、あのような者の侵入を許したのは、私共の不徳の致すところ、ご迷惑をおかけしてしまい、まことに心苦しく思っております」
「今頃天使どもは、悪魔協会の自堕落ぶりを話して居るに違いない」
ダニエルさんがこんなに誤ってるのに、聞こうともせず、ファブラ様は眉間にしわを寄せて、大きなため息をついた。なんかむかつく。
「ダニエルさんのせいにばかりしないでください、横やりをするのはご法度なんでしょ、だったら悪いのは天使協会のさっきの青年だと思いますし、それにーー」
ファブラ様だって、そんなど新人天使様に、手も足も出なかったじゃないですか、って言いそうになったけど、ファブラ様が厳しい目で睨みつけてくるし、ダニエルさんに手を引かれて押し戻すように、遮られてしまった。
「ほう、人間ごときが、このワシに口答えするとは、悪魔協会はいつから、低能な人間まで飼うようになったのだ?」
一見笑っているようにも見えるファブラ様だが、その目はしっかりと私を見据え、これ以上何か言おうものなら、悪魔の力でもって、心の臓を一突きにしてやろうかと言っているようだ。
まだ何もされていないのに、足が震える、ファブラ様ならやりかねない、怖い、でしゃばるんじゃなかった。
「失礼いたしましたファブラ様、加奈子は私が臨時に雇い入れた、まだまだ未熟者の下僕でございます、ただ今の失礼な発言も、私の指導の足りなさ故、どうか気をお沈めください」
自分の無力さが情けない、またダニエルさんに迷惑をかけてしまった。
「しかし、加奈子は協会のためによく働いてくれております、いずれあなた様のお役に立てる人材にと成長することでしょう」
「ならば、その女今すぐワシにくれんか」
「え?」
「確かに面白そうな女だ、こういう女をいたぶるのも悪くはない、わしの元ですべて教えてやろうか」
怖い、言い返そうにも足に力が入らなくて、立っていられなくなった私の肩が、ダニエルさんの大きな左腕に抱き寄せられる。
「僭越ながら、こいつは私のものです、お譲りするわけにはいきません」
大きな胸元に抱き寄せられて、びっくりして、思わずダニエルさんを見上げる、ダニエルさんは、優しい表情を崩さないまままっすぐにファブラ様だけを見据えていた。
「そうか、それは残念だ、せいぜい余のためにしっかり働けよ、少しでもおかしな行動をとれば、いつでも丸呑みにしてやるからな」
「肝に銘じます」
ダニエルさんの腕の力が緩んで、解放された私に、ファブラ様の目はまだ冷たかった。
冷たかったけど、もうさっきのような恐怖心は薄れてきたのは解る。
「まぁいい、今日も贄を喰らうことで本来の目的は達成できた、ただかなり不味くて胸やけ気味だがな」
そう言いながらファブラ様は、足元に落ちていた万札を数枚拾い上げると。
「口直しだ、付き合えダニエル」
「はい、どこへなりt――」 「あ、ここは俺が!」
ダニエルさんが返事をする前に、デリックさんが先に手を挙げた。
デリックさんは、ダニエルさんの肩にそっと手を置いて、耳元で何かをささやいてから、ファブラ様を連れて街の中へと消えていった、ダニエルさんはダニエルさんで、二人とは違う方向に歩いてゆく、足元に散らばったお札を踏みつけながら。
「あの、二人はどこへ?」
私はダニエルさんの後を追う。
このお金は後で、悪魔協会のものが回収に来るという、少しでも財政のお役に立てればいいな。
「大人の付き合いってやつだ、楽しませてやってくれ」
仕事帰りのサラリーマンかよ。確かに少し向こうへ行くと、呑み屋さん街だが。
「だったら、ダニエルさんも同行しなくてよかったんですか?」
「そのような場所へ、具合の悪そうなお前を連れてはいけないであろう」
ダニエルさんは足を止めて、改めて私を見てくれた。
「デリックに言われてはじめて気付いた、今でも立っているのがやっとだろう?」
「あ、はい……」
そういえば、さっきから体がだるくて仕方がない、きっと悪魔のオーラに中てられたせいだろう。
今にもしゃがんでしまいそうだけど、家まで何とか頑張る。
「ならば私が抱えてやろう、空から行けばすぐだぞ」
「そ、それは遠慮しますぅ、余計に体調悪くなりますからぁ」
体調のいい時でも逆バンジーはつらいのに、今やらないで!




